春日権現記絵 狩野永信筆 26×36cm

般若心経を飲み込んだ蛇をいじめた童子が病気になる。畳の間に高熱で苦しむ童子と看病する母親や祖母を描く。童子の枕元には西瓜や小切りにした瓜が並ぶ。数珠を手にした山伏と鼓を膝元に置く老巫女は童子の祈祷に召されたのであろう。巫女の左脇には曲物の桶とその上に折敷を置く。物売女が運び込んだ物で、物売女はそのまま土間に座り込んで山伏と老巫女の話に聞き入っている。畳の間の左側に板戸片引きの出入り口が描かれる。板の間には囲炉裏が切られている。

 蛇呑経説話の本場面は、春日明神による畜生道からの救済がねらい。般若心経全600巻の各巻経題と経文の一部を読誦することで存命へと導く観音信仰の性質を併せ持つ。
----------本  文-------------
春日の六道といふほとりに、一の蛇ありて、心経一巻をのむ。こわらんはべ、これをうち放てけり。其中に張行しける童部、たちまちに重病をうけゝるほどに、護法うらをすれば、大明神おりさせ給て、つげさせ給やう、「我に値偶せしもの、一の邪執によりて蛇道に堕したるを済度せんがために、心経をのませて悪趣の果報をのがれしめんとするを、うち放。返々遺恨なれば、とがむるなり。大般若一部を余疎、存命すべし」と仰らる。やがて転読すれば、平癒しけり。





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春日権現記絵 B 狩野永信筆