源氏物語五十四帖十四 明石 明治25年   26.6×25cm  木版画・着色 

十三夜の月が昇るなか源氏が明石の君を初めて訪ねる場面を描く。「忍びて吉しき日見て、母君のとかく思ひわづらふを聞き入れず、弟子どもなどにだに知らせず、心一つに立ちゐ、かかやくばかりしつらひて、十三日の月のはなやかにさし出でたるに、ただ「あたら夜の」と聞こえたり。  君は、「好きのさまや」と思せど、御直衣たてまつりひきつくろひて、夜更かして出でたまふ。御車は二なく作りたれど、所狭しとて、御馬にて出でたまふ。惟光などばかりをさぶらはせたまふ。やや遠く入る所なりけり。道のほども、四方の浦々見わたしたまひて、思ふどち見まほしき入江の月影にも、まづ恋しき人の御ことを思ひ出できこえたまふに、やがて馬引き過ぎて、赴きぬべく思す。  「秋の夜の月毛の駒よ我が恋ふる雲居を翔れ時の間も見む」 と、うちひとりごたれたまふ。  造れるさま、木深く、いたき所まさりて、見どころある住まひなり。海のつらはいかめしうおもしろく、これは心細く住みたるさま、「ここにゐて、思ひ残すことはあらじ」と、思しやらるるに、ものあはれなり。」  色紙形に「秋の夜のつきけのこまよわがこふる 雲居をかけれ時のまも見む」の歌を記す。横山良八発行。





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源氏物語図 明石