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狭衣物語絵巻 土佐光起筆? 
狭衣物語絵巻 土佐光起筆? 38p×53p

『狭衣物語』巻四、狭衣が秋九月に宰相中将の母君の山住みを訪って妹君に逢う行に「亀山のふもと、慈心寺といふわたりに、故宮の、いかめしき寺建てさせ給ひて、……葛はひかゝる松垣の氣色も、久しう見給はざりつる程に、いとど寂しさまさりけるを、「いと枯れはてなん頃をひ、いかやうに眺め過し給はん」と、見ずなりなん世のことのみ、心にかかり給ひて、後めたういみじう思さるるに、……山よりわづかに落ちくる水を、をのをの、竹の蜘蛛手にまかせやりつつ、待ち受けたるさまも、「氷の楔固めたらん比をひは、いかが」と、心細げなる様、限りなし。居給べき所と見ゆるは、寺よりは少し退きてぞありける。細谷川の音さやかに流れて、おなじき岩のたたずまゐも、心ある気色しるく、時・折節の、花紅葉の木ども、数もつくしたると見えて、見所多くぞしなされたりける。されど、浅茅がもとも、殊に訪ぬる人なかりけると見えて、心細げに色をつくして乱れ合ひたる前栽の花どもに、露の白玉のみ所得て、虫の音も外よりは耳の暇なかりけり。軒を争ふ八重葎も、げに人こそ見えね、秋の気色は疾く知られぬべかりけり。稲葉の風も、耳近きは聞きならひ給はぬに、稲おふせ鳥さへ音なうも、さまざま様変りたる心地して、物心細かりげなり。」
と叙述されている。