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三十六人歌合 水戸中納言(徳川斉昭)筆 約25㎝×約500㎝

 当巻子の外題に「水戸中納言斉昭君筆 古代和歌」とあり、内容を検討するに、藤原公任の『三十六人撰』(十首歌人六人、三首歌人三十人、計三十六人百五十首)の歌を各一首選抄した『三十六人歌合』と見られる。
 本巻における兼輔の「
みじか夜のふけゆくまゝに高砂のみねの松風ふくかとぞきく」は公任撰の三首外歌で、『俊成三十六人歌合』の第1歌に相当する。敦忠の「伊勢の海のちひろのはまにひろふともいまはなにてふかひゝあるべき」も公任の三首外歌で、『俊成三十六人歌合』の第2歌に掲げられる歌。また、壬生忠岑の「子の日する野辺に小松のなかりせば千代のためしになにをひかるゝ」は、公任の『三十六人撰』では忠見の第1歌に掲げられるものである。斉昭による誤写と見るより、斉昭の用いた底本に忠見の歌を忠岑歌として掲げられていたと考えた方が穏やかであろう。藤原元真の「夏草はしげりにけりな玉ほこの通行人もむすぶばかりに」は公任の『三十六人撰』にも『俊成三十六人歌合』にも見えない歌であるが、『夜の燈』所収の『三十六人歌合』には元真の巻頭に位置する歌である。壬生忠見の「恋すてふわが名はまだきたちにけり人しれずこそ思ひそめしか」は公任撰の三首外歌で『俊成三十六人歌合』の第1歌に当る。中務の「秋風のふくにつけてもとはぬかなおぎの葉ならば音はしてまし」も公任撰の十首外歌で『俊成三十六人歌合』の第1歌に位置する歌である。
 以上のように当巻子は、徳川斉昭自筆の書というだけでなく、公任撰『三十六人撰』及び『俊成三十六人歌合』を参考にしていると見られる『三十六人歌合』の貴重な一本といえよう。






三十六人歌合    徳川斉昭筆