1999.1.1 に更新しました
大東文化大学名誉教授 萩谷朴著
『風物ことば十二カ月』
■紹介文著者■ 浜 口 俊 裕■記事(全文)■
■初出掲載紙■ 「大東文化」新聞 第501号 (1998年 − 平成10年11月15日発行)
★全文収録★
■掲載面■ 第4面 「新著紹介」欄
生活と関わりながら
季節を楽しむ契機に
新潮社から新潮選書の一冊として刊行された本学名誉教授萩谷朴先生の新著『風物ことば十二カ月』は、その前身が、NHKラジオ放送お早う番組、お休み番組の昭和二十六年五月から二十七年六月にかけて放送された「今日この頃の風物」であり、アナウンサーによる朗読の台本になったものである。
今回「旧稿の三分の二を削減し昭和二十六・七年頃の生活感覚を洗い捨てての刊行」になったが、コンパクトになったぶん当世の若い人々にも十分に理解でき、楽しめる内容になっている。文体に朗読口調の趣を残し、月毎に季節の花、草、鳥、虫、食べ物、行事、雑節(暦)、調度など二十六項目前後の「風物ことば」を採り上げ、その名の由来や生態、習慣、信仰、伝説、生活との関わりなどに触れ、それらに因んだ和歌、日記、物語、随筆、俳句、小説など日本文学や、中国の古典籍などの引用も交えて、簡潔ながら要領を得て、興味深く綴っている。
例えば、かつて夏の夜の風物詩であった六月の「蛍」。蛍火の美を的確に描いた『枕草子』の話をはじめ、王朝文学などで男女の恋路にさまざまな演出効果を果たした話、宇治川の蛍合戦伝説のほか、蛍の幼虫が人間の益虫である理由にも触れる。また七月の「月見草」は、白花であり、萎んだ後に赤くなるのを特徴とし、黄花の待宵草を世間に月見草と呼ぶのは誤りと説く。「土用丑」の項では、不景気に嘆く蒲焼屋のために江戸中期の学者平賀源内が一肌脱いで鰻(うなぎ)を食する習慣が定着した話題などに及ぶ。
観察の確かさと古今東西にわたる該博な知識により学問的な香りも豊潤な本書は、読者の心を和ませ教養を豊かにして、環境に目を向け季節を楽しむ契機を与えてくれよう。