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β版
古典文学講座

『紫式部日記』の世界


■本文校訂・補注■  浜口俊裕

本文

■第39節■
 御前の池に、水鳥どもの日日におほくなり行くを見つつ、「入ら せ給はぬさきに雪ふらなむ。この御前のありさまいかにをかしから む」と思ふに、あからさまにまかでたる程、二日ばかりありてしも 雪はふるものか。見どころもなきふるさとの木だちを見るにも、も のむつかしう思ひみだれて、  としごろつれづれにながめ明かし暮らしつつ、花鳥の色をも音を も、春秋に行きかふ空の気しき、月の影、霜・雪を見て、「その時 来にけり」とばかり思ひわきつつ、「いかにやいかに」とばかり、 行末の心ぼそさはやる方なきものから、はかなき物語などにつけて うちかたらふ人、同じ心なるはあはれに書きかはし、すこしけどほ きたよりどもをたづねてもいひけるを、ただこれをさまざまにあへ しらひ、そぞろごとにつれづれをばなぐさめつつ、世にあるべき人 数とはおもはずながら、さしあたりて、「はづかし」「いみじ」と、 思ひしるかたばかりのがれたりしを、さものこることなくおもひし る身の憂さかな。

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Copyright (C) 1997 Toshihiro Hamaguchi