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『紫式部日記』の世界
■本文■
■第40節■
こころみに物語をとりてみれど、見しやうにもおぼえずあさまし く。あはれなりし人のかたらひしあたりも、「我をいかに面なく心 あさきものと思ひおとすらむ」とおしはかるに、それさへいとはづ かしくて、えおとづれやらず、心にくからむと思ひたる人は、「お はぞうにては」「文や散らすらむ」など疑はるべかめれば、「いかで かは我が心のうち、あるさまをも深うおしはからむ」と、ことわり にて、いとあいなければ、中たゆとなけれど、おのづからかきたゆ るもあまた、「すみさだまらずなりにたり」とも思ひやりつつ、お となひ来る人もかたうなどしつつ、すべてはかなきことにふれても、 あらぬ世に来たる心地ぞ、ここにてしもうちまさり、ものあはれな りける。
Copyright (C) 1997 Toshihiro Hamaguchi