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β版
古典文学講座

『紫式部日記』の世界


■本文校訂・補注■  浜口俊裕

本文

■第41節■
 ただ、え去らずうちかたらひすこしも心とめておもふ、こまやか に物をいひかよふ、さしあたりておのづからむつびかたらふ人ばか りを、すこしもなつかしくおもふぞ、ものはかなきや。  大納言の君の、夜夜は御前にいとちかうふしたまひつつ、物語し 給ひしけはひのこひしきも、なほ世にしたがひぬる心か。   うき寝せし 水のうへのみ 恋しくて     鴨の上毛に さえぞおとらぬ 返し、   うちはらふ 友なきころの 寝覚には     つがひし鴛駕ぞ 夜半に恋しき 書きざまなどさへいとをかしきを、「まはにもおはする人かな」と みる。  「雪を御覧じて、をりしもまかでたることをなむ、いみじく憎ま  せ給ふ」 と、人人ものたまへり。殿の上の御消息には、  「まろがとどめし旅なれば、ことさらに、『いそぎまかでて、と  くまゐらむ』とありしも虚言にて、程ふるなめり」 とのたまはせたれば、たはぶれにても、さきこえさせ、たまはせし 言なれば、かたじけなくてまゐりぬ。

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