牛丼チェーン店の比較分析
− 吉野家 vs 松屋 −

2003年12月12日

古屋ゼミ3年 (2002年4月入室生)

岩井雅樹 小池敏之 下國謙太 
野崎健太 藤江俊介 (ゼミ長)
山田公仁 吉村直利 (あいうえお順)

目次

  1. ゼミ活動概要
  2. 本プロジェクトのねらい −なぜ牛丼屋に注目するのか−
  3. 価格・PR戦略
  4. 業態
  5. 店舗展開・出店戦略
  6. 労務管理・人材育成
  7. 参考資料

I. ゼミ活動概要


II. 本プロジェクトのねらい −なぜ牛丼屋に注目するのか−


III. 価格・PR戦略

1. 価格戦略

吉野家・松屋の二社ともに、1990年代のデフレ不況の中で売上げ・利益を伸ばしてきた。このような急速な成長の最大の要因は積極的な価格引き下げである。吉野家は90年代半ばから不定期的に期間限定の値下げキャンペーンをやっていた。しかし, 外食産業における「価格破壊」の先鞭をつけたのはマクドナルドである。2000年2月に半額キャンペーンを開始、ハンバーガーを130円から65円に値下げした。 同年9月に松屋が牛めし並を400円から290円に値下げ、牛丼チェーンでの本格的な値引き競争が始まった。(下表参照。)

吉野家 松屋
・2001年4月4日より期間限定で250円セール
・7月26日(西日本)8月1日(東日本)より280円セール開始
・03年10月9日〜10月31日まで「牛丼3杯でプレゼント」キャンペーン」実施
・毎月9日・10日は「牛丼の日」として特典あり
・2000年9月27日より牛めし並を290円へ値下げ
・01年6月以降カレーを330円に値下げ
・01年9月26日よりカレーを290円に値下げ(現在は390円)

2. BSEへの対応

(担当者: 山田公仁 下國謙太)


IV. 業態

1. 沿革

吉野家 松屋
・創業: 1899年, 日本橋に牛丼店 「吉野家」 開業
・1958年12月, (株)吉野家ディー・ アンド・シー設立.
(2000年11月東証1 部上場.)

・社長代表取締役: 安部修二
・連結事業: 「吉野家」「京樽(寿司)」
「ピーターパンcomoco(たいやき)」など
・創業1966年, 江古田に中華飯店 「松屋 」開店
・1980年1月, (株)松屋フーズ設立
(2001年3月東証1部上場.)
社長代表取締役: 瓦葺利夫

・連結事業:「松屋」「和定食の松屋」
「地蔵ラーメン」など

吉野家は1899年の創業以来、牛丼メインの業態である。松屋は1966年の創業当初は中華料理屋であったが、1968年に牛焼肉定食屋「松屋」を開業してからは次第に今の様な牛丼に加えてカレー、ハンバーグ、なども販売する現在の様な多種多様な業態になっていった. 

2. 業態(支払・精算方法含む)

 まず初めに挙げられる二社のちがい、それはその店舗カラー(視覚性,イメージからーといってもいいだろう)。吉野家のイメージカラーは言うまでもなくオレンジ色(これは創業者の松田氏が、アメリカにあるコーヒーショップ`ハワードジョンソン,からヒントを得た)である。それに対して松屋の方はどうだろう?松屋の看板は、黄色時に青で『松屋』と描かれている。そこに統一的なカラーイメージは求められず、客の持つイメージはまちまちであろう。だからこそ、一色にイメージを統一した吉野屋とは対象的なのである。
 店内に入ると、メニューの範囲ちがいにも気が付く。吉野家は基本的に牛丼一品主義である。そして松屋はカレー、その他の定食など、様々な品目に彩られている。
 メニューが決まったなら、もしそこが吉野家であれば空いている席に着き,店員に注文を取ってもらう。そして食後、その分の料金を支払う。だが松屋では、先ず自動食券販売機で食券を購入し、食前に支払いを済ませるシステムになっている。ただし松屋では、もし食券を購入し席に着いた後で他の付属メニュー等が欲しくなれば、カウンターでの購入・支払いとなる。どちらのシステムが良いのかは、客の判断である。
 吉野家は基本的スタンスとして、一社一業種(吉野家なら牛丼の吉野家)を徹しているが、松屋の方は「松屋フーズ」の統制の下、例えば「松屋」「チキン亭」などの多種に渡る業種店が管理・運営されている。

3. 商品・メニュー

A. 単品のメニュー
吉野家は牛丼、牛皿、牛丼弁当、松屋は牛めし、牛皿、カレギュウ、オリジナルカレー、ハンバーグ、カレーなどがある。吉野家は牛丼をメインにしているだけあり、単品メニューは牛丼を中心とした物だけである。牛丼量の種類も(並)(大盛)(特盛)の3種類あるが、松屋の場合は(並盛)(大盛)の2種類だけである。同じく牛皿も吉野家は(並盛)(大盛)(特盛)と3種類あるが、松屋は(並盛)だけである。吉野家も松屋も商品のテイクアウトサービスを行っているが、テイクアウト専用の弁当を販売しているのは吉野屋だけである。松屋は吉野家にないカレー、ハンバーグ、カレーと牛皿を合わせたカレギュウなどのメニューも販売している。

B. 定食のメニュー
吉野家も松屋も何時でも買うことができる通常の定食と、朝だけ買うことのできる朝定食がある。吉野家の通常の定食は牛皿定食ひとつだけあり、朝定食が納豆定食、焼魚定食、特朝定食の3つである。松屋は通常定食が和定食、レバー焼定食、牛焼肉定食、豚生姜焼定食、カルビ焼定食、うまトマトハンバーグ定食、牛焼肉とハンバーグのコンビ定食の7つがあり、朝定食が朝定食焼き魚、朝定食ハムと目玉焼の2つである。以上のことから、松屋の方が吉野家より定食の種類が多い。通常の定食は松屋の方が種類が多いが、朝定食は吉野家の方が種類が多いことが分かる。

C. サイドメニュー
吉野家: 8種
松屋: 11種
<例>
汁物: 吉野家のけんちん汁(\120) < 松屋のとん汁(\180)
生卵: 吉野家(\50) = 松屋(\50))
半熟卵: 吉野家(\60) < 松屋(\80)
お新香: 吉野家(\90) > 松屋(\80)
※松屋にはキムチ有り
生野菜サラダ: 吉野家(\90) < 松屋(\100)
※吉野家にはサラダがもう2種有り{ごぼう,ポテト}
※上記は共通メニュー。松屋はこの他に5種、サイドメニューが存在する。
※不等号は価格の大小を表す

D. 飲物メニュー
吉野家: 酒類2種(ビール,冷酒). 酒類本数制限3本、時間制限(6:00-24:00)

松屋: 茶類1種、酒類1種(ビール). 酒類本数制限 中瓶2本まで
※ビールに関して値段は同じ(400円)

4. その他の違い

A. 広告戦略
吉野家: TVCM、中吊り広告・・・etc
松屋: とくになし 
※吉野家は広告に力を入れている。(参考: I-Macなどのアップルコンピューターは、テクノロジーよりも広告・マーケティングに重点を置き成功した。)

B. キャッチコピー
吉野家: 「うまい、はやい、安い」
松屋: とくになし

(参考) 価格・カロリー比較表

吉野家 松屋
                 <単品>
牛丼(並盛) 280円(660kcal)
同 (大盛) 440円(750kcal)

同 (特盛) 540円(940kcal)

牛皿(並盛) 240円(kcal)
同 (大盛) 340円(350kcal)
同 (特盛) 440円(550kca)

ご飯 130円(385kcal)
牛丼弁当(並盛) 280円(660kcal)

同 (大盛) 440円(750kcal)
同 (特盛) 540円(940kcal)


                <定食>
牛鮭定食 490円(715kcal)
(定食のご飯の大盛は30円増し)






                <朝定食>
納豆定食 370円(630kcal)
焼魚定食 400円(530kcal)
特朝定食 490円(490kcal)


             <サイドメニュー>
味噌汁 50円(40kcal)
けんちん汁 120円(82kcal)
玉子 50円(97kcal)
半熟玉子 60円(93kcal)
お新香 90円(23kcal)

生野菜サラダ 90円(23kcal)
ごぼうサラダ 120円(95kcal)

ポテトサラダ 120円(107kcal)

のり 50円(0kcal)
納豆 70円(100kcal)


               <飲み物>

ビール 400円
冷酒 330円
                        <単品>
牛飯(並) 290円(kcal)
同 (大盛) 390円(950kcal)


牛皿 230円(251kcal)
カレギュウ 520円(954kcal)

オリジナルカレー(並) 390円(703kcal)
同 (大) 490円(901kcal)





                        <定食>
和定食 580円(660kcal)
レバー焼定食 490円(709kcal)
牛焼肉定食 580円(1023kcal)
豚生姜焼定食 550円(826kcal)
カルビ焼肉定食 580円(1013kcal)
うまトマトハンバーグ定食 580円(1005kcal)
牛焼肉とハンバーグのコンビ定食 580円

                       <朝定食>

朝定食焼き魚 450円(647kcal)
朝定食ハムと目玉焼 390円(633kcal)


                    <サイドメニュー>
豚汁 180円(224kcal)

生玉子 50円(81kcal)
温泉玉子 80円(80kcal)
お新香 80円(13kcal)
生野菜 100円(49kcal)
キムチ 80円(21kcal)

味付けとろろ 100円(35kcal)
めかぶ 70円(5kcal)
のり 50円(0kcal)
納豆 70円(77kcal)
冷やっこ 90円(49kcal)


                     <飲み物>
緑茶(ペットボトル) (0kcal)
アサヒスーパードライ 400円(195kcal)

(担当者: 小池敏之, 吉村直利)


V. 店舗展開・出店戦略

1. 店舗数

吉野家: 国内 955  海外 199
松屋:  国内 555  (2003年9月現在)

2. 地域分布

松屋は大都市を中心に出店している。東京近辺と大阪だけで、国内店舗数の約8割を占めている。それに対し吉野家は、関東や近畿を中心にしているのは松屋と同じだが、決定的に違うのが、地方(三大都市圏以外)への出店数と海外への進出である。全店舗のうち約半分は地方、また、海外の店舗を詳しく見ると、アメリカ 83、中国(香港含む)48、台湾53、シンガポール 11、フィリピン 4、である。

3. 直営とFC(フランチャイズ)

吉野家は2003年4月現在、国内921店のうち直営564店、FC357店である。つまり約38%がFCなのである。これに対し、松屋は同じく2003年4月現在、国内524店のうち、直営513店、FC11店でFCは約2%でしかない。吉野家はFCに依存することで、店舗数を急速に拡大することができたのである。

4. 店の形とその特徴

 まずどんな場所に両者は店を建てているのかを見てみる。吉野家、松屋共にロードサイドの形と、ビル・インの形があるが、その立地条件には少し違いがある。ロードサイド店に関しては、主要生活道路に面する等、両者とも立地条件がほぼ同じだが、ビル・イン店に関しては大きく異なる。吉野屋は店舗面積25〜35坪、繁華街で人通りの多い場所。逆に松屋のビル・インは店舗面積20〜35坪、事業所街やオフィス街の飲食店舗の少ないところとなっている。松屋は吉野家よりも狭い所に建てることが可能だが、周辺店舗等その他の立地条件は吉野家とは正反対となっている。
 立地と共に店舗デザインも異なっている。ビル・インの場合は、駅周辺ということもあり、吉野家、松屋共にそのスペースによってさまざまな形にあわせて作るらしい。しかしロードサイドの場合、松屋はレイアウト図の作成など一から作っていくのに対して、吉野家は「30・30」(30坪に30席)と「25・27」(25坪に27席)という2つのパターンから構成されている。
 上記以外にも違いはある。吉野家は原則24時間営業で、いつどこへ行っても違いのない吉野家の空間を目指している。一方、松屋は牛丼の他にもさまざまな定食を強化していき、変化を持たせる店作りを目指しているように見える。

(担当者:岩井雅樹 藤江俊介)


VI. 労務管理・人材育成

1. 職制

 まず最初に人材育成と職制に関して考える。人材育成は会社の 発展のため非常に大きな役割を担う。また職制は会社・店舗が 効率的に運営されるための重要な要素である。職制は、仕事に 従事しやすい環境を作り、商品の高付加価値化、低コスト化、 高利益化に貢献することはいうまでもなく、今後の会社展望を 占ううえでも注目すべき点である。ここでは、吉野家・松屋の 両社とも、本部は除き店舗に限って職制を見てみる。両社とも、 「現場第一主義」という共通の方針を掲げており、現場を見れば 会社の姿が分かると考えるからである。まず、職位について まとめると次表のようになる。

吉野家 松屋
Amr (エリア・マネージャー):
エリアを統括し、そのエリア内における
店舗の店長を指導する。
(社員しか従事できない。)

SM (ストア・マネージャー):
その店舗の店長(他店兼任もある)。
アルバイト属性のままの店長もいる。
(社員・バイトとも従事可。)

ASM(アシスタント・ストア・マネージャー, 店長代理):
店長補佐。アルバイトもいる。












ランク1〜5

スターター: 研修終了後の最初の職位
トレーニ−: 研修中従業員

Amr (エリア・マネージャー):
吉野家と同じ




SM (ストア・マネージャー):
店長(他店兼任もある)。
社員のみしかなれない。


ASW(エリア・スウィング):
エリア内のSM職務を補佐・代行できる。

SW(スウィング): 担当店舗のSM職務を補佐・代行できる。
SWのいる店は原則社員配属なし。

ACP(エリア・キャプテン): 全時間帯の管理ができる。
全時間帯従業員のリーダー的存在である。


CPI・II (キャプテンI・II): 担当時間帯の管理。
担当時間帯従業員のリーダー的存在。
CPIと違い、CPIIは勤務評価ができない。

SL(シフト・リーダー): 各時間帯の当日の責任者ができる。

メンバー(7〜3): シフト対応ができる。

メンバー(2〜1): 研修メンバー

 上表から見てとれるのは、吉野家に比して松屋の方が職位が細かく、役割分担が明確、ということである。さらに注目すべき点は、松屋はSM(店長), ASM(店長代理)は社員しかなれないのに対し、吉野家はアルバイトもSM, ASMになれるということである。社員を雇うよりもアルバイトの方が人件費が浮き、コストを削減できるというメリットがあるが、客にとってはアルバイトが店舗経営を任されている点でいささか不安、というデメリットがある。

2. 人員構成

吉野家は一店舗20人程度で構成されている。シフト制であるため、昼・夜・深夜に分かれている。各時間帯には必ず時間帯責任者が常駐し、その責任者を中心に店舗を運営している。また吉野家の場合、代行を含め、店長が常駐している。松屋の場合も類似している点が多く、1店舗あたりの構成人数も同じ20人程度であり、シフト制・時間帯責任者を置く点も同じである。ただ、SM,ASM, SSは常駐しておらず、不在時はアルバイトであるASW以下が対応する。

3. トレーニング

ここではアルバイトの採用からの過程について見てみる。両社とも最初は2時間程度のオリエンテーション(オリエン)を行う。オリエンではユニフォームの着方、基本的ルールの確認、経営理念の把握等を行い、入店前に知っておかなくてはならないことを教えられる。そして二回目の出勤から店内に入る。両社とも最初は差し障りのない雑用・洗い物をする所から始める。そこから段々に清掃・接客・調理などの順番で教育されていく。入店頻度や能力により差が出るが、1-3ヶ月程度で研修を終了させる。両社ともマニュアルが存在し、それに従い教育が行われる。これにより、全店・全従業員が同じことができるようになり、応援制度(人員の店舗間の貸し借り)、全店舗における均一サービスの提供が可能となるのである。

4. 給与・食事規定

 給与は事細かに規定されている。吉野家の場合、ベース時給に技能手当てが10円刻みで加算されていく。一番ランクが高い手当は店長手当である。(吉野家の場合、パート・アルバイトでも店長・店長代理ができるので、その分として手当てがつく。)松屋の場合、職位がより細かく分かれていることもあり、昇給額も各職位で様々であるが、ベース時給に技能手当てが加算されていくという点では吉野家と同様である。
 次に食事規定をみると、吉野家は140円で牛丼(賄い)が食べられる。松屋の場合は250円で「牛めし・カレーのいずれか+サイド・オーダー」または「定食(ライス大盛可)」を食べることができる。(給与からの天引き制になっており、お金を支払えばいくらでも食べることができる。)
 埼玉県のK地区の店舗で給与・食事関係のデータをとってみた(下表)が、同じ労働時間で同じ回数食事をすると、吉野家の方が時給は安いが食事が安いために得なのがわかる。しかし、吉野家は牛丼しか食べられないのが淋しい点である。松屋は食事のバラエティーが豊富なので、従業員にとっては有り難い。

埼玉県K地区店舗での給与等比較(深夜の場合)

時給 食事 手取り
吉野家 1025円 -140円 885円
松屋 1100円 -250円 850円

(担当者: 野崎健太)


VII. 参考資料

安部修二・伊藤元重 『吉野家の経済学』 日本経済新聞社, 2002年。
槙野咲男 『吉野家の牛丼280円革命』 徳間書店, 2002年。
吉野家ディー・アンド・シー ホームページ http://www.yoshinoya-dc.com/
松屋フーズ ホームページ http://www.matsuyafoods.co.jp/