〜書き入れ本〜

休題9

 書き入れ本とは、本の所蔵者が字間や行間或いは余白に、感想や意見・校異などを、色々書き込んだものを言う。そのため、書き込んだ内容が有意義であったり、その人が著名人であればあるほど、その本の価値は高くなるが、逆に無名の学者の書き入れであったり、つまらぬ内容の書き込みであった場合は、かえって本の価値を減ずることにもなる。故に、書物に対する書き入れは将に功罪相半ばすと言えよう。また、その本の著者自身が校訂のために自ら書き込んだ本は、特に「自筆書き入れ本」と称して別格扱いをする。 
 ここに提示する書籍は、明の萬暦21年の『南華眞經三註大全』(尚、この本自体は、内閣文庫と静嘉堂文庫にも所蔵されている)に、清朝末の学者(著者不明)が書き込みをした書き入れ本である。書き込みの内容は、本書の13年前の萬暦8年に刊行された、陸西星(字は長庚、號は方壺外史)の『南華眞經副墨』や、それとの校異や意見などであるが、可成り詳しく読み込まれていると思えるのは、書き込みは紫墨を使い、圏点は朱墨・青墨・緑墨が使用され、それぞれ読み分けられている点である。

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