〜單疏本〜

休題10

 單疏本とは、唐から宋にかけて編纂された経書の語句に対する解釈、つまり「疏」だけを単行で刊行した本のことである。現在出版されている一般的な経書には、確かに『論語正文』とか『詩経古注』とか、本文のみのものや、注だけを付したものなどが存在するが、『五經正義』とか『十三経注疏』とか呼ばれるものは、「本文」と、漢から晉にかけて作られた「注」と、唐から宋にかけての「疏」とを、同じ書中に合刻した所謂「注疏本」である。元来「経注本」と疏だけの「單疏本」とは別行していたものであるが、読者のために簡便性を考えて、合刻されだしたのである。その結果、以後は「單疏本」は殆ど行われなくなってしまったのである。ではいつ頃から合刻されだしたのかと言えば、最も早いと認められる現存の兩浙東路茶鹽司本『周禮注疏』(現、台湾故宮博物院所蔵)が、南宋の淳煕年間(1174〜1189)頃であるから、南宋中期から合刻されだしたと考えて良い。逆にそれ以後、「單疏本」は急激に姿を消して行くのである。因って、現存する本来の「單疏本」(北宋本・南宋初期本)は、数種類(書経・礼記・儀禮・周禮・論語・爾雅の版本と、易経と春秋左氏伝の一部の写本)に過ぎないのである。
 ここに提示する書籍は、清朝の大蔵書家陸心源が己の書室十萬卷樓に集めた、南宋初期紹興年間(1131〜1161)に杭州地区で刊行され、その後元・明初の逓修を歴した南宋本『爾雅疏』十卷本(現在、静嘉堂文庫が所蔵)を、清末光緒四年に陸心源自身が重雕校刊した、『重校南宋本爾雅疏』で、呉昌石の序文が有る。しかし、残念なことに重雕本とは言え、本来の宋版の字樣に比べて雅味の無さは如何ともし難い。

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