〜陶 文〜・石川又一氏寄贈

休題15

 陶文とは、陶器に刻されたり(陰文)、押されたり(陽文)した文字のことで、一般的には戦国時代から見られ出すようになり、当時の文字形態や官職などを窺う上で貴重な資料ではあるが、大概1〜2字前後の工人の名称や官職名が中心である。また新石器時代の土器にも陰刻の陶文が見られるが、これらは文字なのか紋様なのか、未だ判然としていない。故に陶文に関しては、今後の本格的研究を待って種々論議が展開され、不明な点の解明が期待される分野である。
 ここに提示する陶文は、3点とも陶板に押された陽文の文字であるが、上段の左は「君宜子孫」の「孫」字の部分が欠けた様になっており、右は「側陽版」と読め、下段は「某某司馬」と読める。また上段2点は裏面にも動物の紋様が有る。寡聞にしてこの様なものは見たことが無い。実際の陶文ではなく副葬品の明器として作られた「倣陶文」との説も有るが、明器の陶文・封泥については、未だ実態が不明であり調査研究も殆ど行われていない。逆に倣品の方は、封泥出土後の清末から陸続として作られている。これらの現状を勘案すれば、一般的には「現代の倣品」と考えた方が無難である。

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