〜『蒙求』〜

休題19

 『蒙求』とは、唐の李瀚が編した四字句の韻文(孫康映雪、車胤聚螢。諸葛顧廬、韓信升壇。等)で、596句で構成されている人物故事集であり、子供に歴史の故事を記憶させる目的で作られたものである。人物故事集と言う点から言えば一種の類書であるが、その目的から言えば幼学(童蒙)書と言うことになる。この書は、宋の徐子光が補注を付けた補注本が一般的に流布している。中国では夙に失われたが、日本では、平安朝に渡来し、「勧学院の雀は蒙求を囀る」と言われたが如く、非常に善く読まれ、明治に至るまで夥しいまでの『蒙求』が出版されているし、また類似の「何々蒙求」とか「某々蒙求」なる書も中国・日本を問わず多く書かれている。要するに、故事成語の元版として非常に人々に好まれた書なのである。恐らく、江戸時代一番善く読まれたのは、関東では岡白駒の『箋註蒙求』で、上方では毛利貞斎の『蒙求俚諺抄』であろう。
 ここに提示する『蒙求』は、承応三年(1654)の宇都宮遯庵の『頭書蒙求』と、文政十三年(1830)の岡白駒の『箋註蒙求』とである。

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