〜宋・元版之斷簡〜

雜言9

 宋・元版とは、宋代と元代に印刷された木版印刷の書籍の事である。現在、刊行年が明らかな最古の木版印刷は、敦煌で発見されて現在ロンドンの大英博物館に収蔵されている、唐の咸通九年(868)の仏典『金剛般若波羅蜜経』で、敦煌からは、唐から五代にかけての木版印刷仏典が、多く出土している。
 次の五代時代に到ると、後漢の宰相馮道の要請で『九経』が印刷され、出版業界も大いに発展したと言われているが、五代経書は全く伝存せず、僅かに仏典を伝えるだけである。
 現在我々が良く目にする形態の、所謂「冊子本」と称される木版印刷書籍で、現存する最古の冊子本は、北宋時代末の北宋版からで、以後南宋版・遼版・金版・元版・明版・清版・民國版へと移って行くが、現存する宋版や元版の数は極めて少なく、大概日本での宋・元版は、重要文化財扱いのものが多く、明版でさえも大半の図書館では貴重書扱いされている。
 日本に於ける宋・元版の代表的所蔵機関は、静嘉堂文庫・内閣文庫・宮内庁書陵部・天理図書館などであるが、最近では清初の版本まで も貴重書扱いする図書館が増え、閲読手続きに不便さを感じさせる。
 所で断簡であるが、断簡には、時間の流れの中で自然に破損したり或いは焼失したりして、結果として本来の一部分だけを残している、自然的断簡と、宗教的な信仰心から経典の一部分を切り取って崇敬の対象とした、人工的断簡とが有る。敦煌などから発見されるのが、前者の自然的断簡であるが、「写経切れ」とか「経典切れ」とか称される仏典関係の多くが、後者の人工的断簡である。
 ここに提示する宋・元版の断簡(半葉のほぼ三分の一)は、所謂「人工的断簡」で、右が南宋理宗の時から平江府磧砂延聖院で開彫され、黄麻紙に刷られた磧砂版系宋版大蔵経中の『宗鏡録』(北宋の釋延壽撰)の卷十二の一部分で、左が元版の『廣弘明集』(唐の釋道宣撰)の卷二十二に含まれる、朱世卿の「性法自然論」の終わりの一部分である。尚、日本の古写経の断簡に就いては、書画の186680を御参照されたし。

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