〜字 書〜

雜言11

 字書は、中国から漢字を受け入れた日本に在って、その漢字の音や意味を理解する上で、必要欠く可からざる工具書である。漢字の音や意味も時代と共に変化し、現在の漢和辞典に書かれている意味が、必ずしも当時の和語の意味と一致するとは限らないのである。平安時代には平安の、鎌倉時代には鎌倉の、和語としての漢字の意味が存在するのである。
 現存する日本人の手になる最古の字書が、空海の『篆隷萬象名義』である。この字書は、粱の顧野王が著した『玉篇』を節略したものと言われている。その後、平安時代の中期以後10世紀から11世紀の初めにかけて、「四大辞書」と称される四種類の辞書が作られるが、それは、『新撰字鏡』(漢和辞書)・『和名類聚集』(漢和辞書)・『類聚名義抄』(漢和辞書)・『伊呂波字類抄』(漢和辞書或いは国語辞書)の四種である。
 因って、ある漢字を平安時代の人々がどの様な和語の意味に理解していたかを知るためには、当然上記の辞書類を見る必要が有るのである。
 ここに提示する字書は、空海が著した日本人の手になる最古の字書である『篆隷萬象名義』であるが、本書は、昭和初期に崇文叢書の一種(17冊)として刊行されたものを、民國25年(1936・昭和11年)に中國から影印縮刷(4冊)として出されたものである。

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