〜鑑定書〜

雜言14

 鑑定書と言うと、一般的には書画や文物に対する「鑑定札」「鑑定書き」等の所謂「極め札」を指すが、ここで言う「鑑定書」とは、極め札等ではなく、書画や文物を鑑定するための判断書乃至は材料書を指している。
 では何が鑑定書かと言えば、鑑定のための材料を集めたもので、古くは江戸初期の古筆鑑定家と称された人々が観たであろう「手鏡」に類するものが、それに該当する。「手鏡」は、江戸以前の和歌や手紙等の真筆の一部分(断簡)を集めたもので、それを参考にしながら、筆跡・筆勢等を見比べて、書画の真贋を判断するのである。
 しかし、和歌や江戸以前のものに対しては、断簡を集めた所謂「手鏡」類が重要な鑑定書となるが、唐様形式の漢字が流行り、所謂条幅の長さの書作品が多く書かれ出す江戸時代のものに対しては、断簡を集めることはなどは出来る話ではない。 。
 明治の後半から大正時代にかけて、江戸や幕末の書画の真贋鑑定が流行りだすと、判断するための比較材料が必要となってくる。だからと言って、条幅の落款部分だけを切り取って「手鏡」風に集めること等不可能である。そこで、真筆と称されている品々の落款・印象・花押等を集めて、そっくりに印刷した書籍が作られ出す様になる。それが、「某々鑑定宝典」「某々鑑定指針」等と称される書籍の一群である。
 ここに提示する鑑定書は、杉原夷山が大正六年(1917)に編集した、『近古儒家書画鑑定宝典』(和書)である。これは、大概江戸の寛政年間から江戸末まで、つまり江戸後期の儒者110人強の落款・印象・花押等を集め、同時に簡単な略伝を付したものである。

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