〜科挙用参考本〜

「大東文化」第481号

 何時でも何処でも試験ほど嫌なものは無い。「試験など無ければ良い」と思うのは、何も学生だけの事ではない。それは中国に於いてもまた然りである。否、旧き中国の方が遙かに想像を絶する厳しさである。それが、隋代から始まって宋朝に確率し、清朝末まで営々として続けられた科挙の制度、つまり官吏登用試験である。困難な試験であるが故に、一度合格すれば特権階級となれるが、生半可な能力では不可能であり、中には死ぬまで受験し続ける様な哀れな人も登場し、この試験を受ける人々の悲喜こもごもは、その人の人生模様を映し出し、それを題材にした『儒林外史』などの小説類も、多く書き残されている。一方、試験であれば必ずそれを助ける道具が作られる。それが、受験用参考書である。
 過日その参考書と言い伝えられている『四書集註直解説約』( 四書集註闡微直解とも言う)なる本を入手した。この本は、朱註の学を郷紳・進士に闡明にすべく、清初の康煕十六年に徐乾学が刊行したもので、内容は、最初に四書章句、次いで四書朱註、次いで明の張居正が講官であった萬暦元年に天子に恭進したと言う四書直解を並べ、その上に頭註の形式で、明の顧夢麟の四書説約の原文を細字で纂註すると言うものである。全体的内容は特に云々する程のものではないが、朱註の学を見るには簡にして便であり、元朝より科挙の試験に朱子学が採用された事を考えれば、参考書とは、かくありなんと思わせる。尚、小生が入手したのは、原刊本ではなく光緒八年に八旗経正書院が出した翻刻本である。
 何時の時代も受験騒動は、人生の狂想曲である。故に、学生諸君に対する試験は、基本的な内容で分かり易いものを、と改めて反省することしきりなのではあるが・・・・・。

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