〜明 版〜

続編1

 版本を扱う分野に於ては、何と言っても宋版を重要視する。それは、その後の冊子本形式の書物が多量に製作されだしたのが宋代であり、またその字様も目に優しい柔らかい字体であり、読む者をして楽しませ心を落ち着かせてくれる。しかし、宋版を重視する最大の理由は、絶対的な伝本の少なさつまり貴重性に依存していると言えよう。例えば先年北京で宋版の『文苑英華』の孤独本一冊(巻20から巻21)がオークションに掛けられたが、指し値が約1700萬円からであり、まさに宝石・美術品の如き有様であった。故に今まで宋・元版に関しては、貴重書と言うことで図録・図版が多々作られているが、明版以後のものに関しては、字体や流布量の多さ等と相まって重視されず、「明版かつまらん」「なんだ明版か」等と言われ、概して見向きもされなかった。
 しかし、時間が経てば経つほどものは古くなるし、流布量も自ずから減少して行き、売買価格も数十萬単位で中には百萬を越えるものも現れだし、今では入手することが甚だ困難な状況を将来させている。更言えば、我が国の教科書に良く使われる明朝体活字とは、実は明代後期の万暦版本の字様であり、銅活字・木活字の使用のみならず、版を重ねて刷る套版の開発も明代に始まるのである。とすれば、軽々に「明版か」等と言ってバカにするべきではなく、明版には明版の良さと貴重性が存在することを理解すべきであろう。
 ここに提示する明版は、万暦33年の4色套印本『南華眞經』と万暦刊本の『史記評林増補』、及び万暦40年の『臨川王介甫先生集』と明末刊本の『淮南鴻烈解』とである。

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