〜官 版〜

続編9

 官版とは、政府の中央官庁が出版した書籍のことであるが、実際には我が国の江戸時代の幕府が出版したもの、その中でも特に昌平坂学問所から出されたものに対する呼称である。寛政十一年(1799)から慶応三年(1867)の間に、昌平黌から出版された漢籍は、官版書目に因ると、経部四十六種・史部三十一種・子部七十種・集部五十二種の百九十九種が、出されたことになっている。ただし、昌平黌の書庫が弘化三年(1846)の江戸大火災で燃え、版木も燃えてしまったため、明治四十二年(1909)に至り、伊達家に残存していた官版に基づき、富田鉄之助が印行したのが昌平叢書で、それには六十五種が収められている。我が国のものとは言え、虫損の無い美しい官版の伝本は、昨今なかなか見つけづらくなって来ている。現在昌平坂学問所の跡であるお茶の水の湯島聖堂には、当時の官版の板木がある程度は残されているらしいが、それに関する具体的な調査や保存なども、あまり行われていないようであり、誠に残念な思いを抱くのは小生一人であろうか。
ここに提示する官版は、『四書纂疏』である。

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