〜版本中の避諱字〜

続編10

 避諱とは、その時々の天子の諱(本名)に出会った時、敬意を表してその字を避けることである。その方法は色々あるが、代表的なのは、その字の一画を欠く欠筆・欠画と言う方法と、字自体の形を変えたり音通の別字に改めたりする方法とである。欠筆は唐代に始まって碑文などに良く見られるが、宋代以後版本が主流になると、欠筆よりも避字の方が盛んになって来る。因って、歴代の天子の名つまり避諱字を理解しないままに版本を読むと、時には大きな誤りを犯す危険性が生じるが、逆に知っていればその版本の年代を測定判断するのに、大いに役立つものである。
 ここに提示する本は、嘉慶19年の題襟館本『華陽國志』であるが、この中では康煕帝の「玄」が「元」に、雍正帝の「胤」が「允」に、乾隆帝の「弘」が「宏」に「暦」が「歴」に改められている。尚、この本は避諱字が○で囲まれており、判読に一目瞭然たるものが有るが、この様な丁寧な形式は少なく、むしろ一般的には何も目印を付けずに改められることの方が多い。

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