〜試帖本〜

続編15

 試帖とは、隋唐以来清末まで行われた官吏登用試験である科挙應試の詩ことで、科挙の受験生が試験場で作る詩を試帖詩と言い、それらの詩を集めて本に仕立てたものを、試帖本と言う。旧中国に在って、科挙に合格して進士様になるのと、ただの庶人でいるのとでは、その制度的・社会的身分格差は、天と地ほどの差が存在する。故に知識人は、科挙の文章である八股文とか詩帖等を勉強し、ひたすら科挙の試験を目指すのである。科挙の試験は大きく三段階に分かれ、その社会的身分が庶人から士人に変わるのが童試で、その合格者が生員、更その上の地方試験が郷試で、その合格者が挙人、更にその上の中央試験が会試で、その合格者が進士様なのである。例え高級官僚予備軍である進士になれなくても、「せめてなりたや挙人様」なのである。さしずめ小生などは、一生受け続けても良くて生員止まりであろう、生まれ変わったとしても進士様などは夢の亦夢である。
 ここに提示する試帖本は、右が同治6年連元閣蔵版の張煕宇評選・張昶註釋朱墨套印本『清七家詩選』で、左が同治11年琉璃厰蔵版の張煕宇輯評・王植桂輯註『七家試帖輯註彙鈔』である。同治11年版は七家と称してはいるが、実際は澹香齋王廷紹・修竹齋那清安・尚絅堂劉嗣綰・セイ花館路コ・桐雲閣楊庚・簡學齋陳の六家であり、同治6年版に収められていた西オウ李惺の六十八首が省かれている。

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