〜離れ本〜

零話2

 離れ本とは、本来叢書や全書の中に含まれている本が単独でバラで市場に出たものを指した言い方である。多種多様な本を集めた叢書は便利ではあるが、何分大部なために値段も高く、その中でも特に底本を吟味して校訂をしっかりと行った善本関係の叢書等は、貧乏学者にとってはまさに高嶺の花である。そこで書肆に出かけた時、「某某叢書の離れ本は出回っていないの」とか、「最近何何全書の離れ本も見かけなくなったね」とかの会話が店主と交わされることになるのである。離れ本を持つと言うことは、善本を求むれどもその金が無く、それでも何とかしようとして悪戦苦闘する貧乏学者の行き着く先のものである。
 ここに提示する二点の離れ本は、決して善本関係の叢書中のものと言う訳では無いが、共に大部な叢書の中の一つである。上段は、同治五年版「正誼堂全書」中の『二程文集』であり、下段は、民國三年版「雲南叢書」中の方玉潤の『詩経原始』である。

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