〜自重(準禁書)本?〜

零話3

 自重(準禁書)本とは、書誌学の専門用語でもなければ、書籍に関する一般的用語でもない。ただ書籍の内容や出版状況等から判断して、便宜的に小生が勝手に付けた呼び名に過ぎない。国家に因って正式に発禁処分の指定を受けたものが禁書であるが、禁書を取り巻く政治的状況を鑑みながら、正式な禁書の指定を受けていなくても、その内容を勘案して著者やその周囲の人々が、意識的に発刊を伏せたり遅らせたり或いは取りやめたもの、つまり著作時における出版を意図的に自重したもので、後世になってやっと発刊されたものが多々有る。そこでこれらの書を、意識的に禁書に準じた扱いをした書と言うことで、自重(準禁書)本と呼び、禁書とは一応区別して考えている。この様な本は、概して明末の状況を記したものに多く、それはその内容が、清初の清朝成立期にとって憚られる部分を含んでいたが為に他ならない。因ってこれらの本は、著作時期が何如に早くても率ね清末に発刊されることになる。
 ここに提示する二点の準禁書は、左は天津の王又樸が明朝に忠節を尽くした人士を列挙した『史外』(別名『前明忠義列伝』)で、乾隆十三年の序文を伴ってはいるが、一般的には約120年後の同治三年重刊本が出回っており、小生も寡聞にして乾隆刊本にはお目にかかったことが無い。右は四明の凌雪が南明の聖安帝・思文帝・永暦帝及びそれに拘わる人士の伝記を著した『南天痕』であるが、これも同治七年の跋文を伴ってはいるものの、略50年後の宣統二年に復古社から排印されたものである。

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