〜西冷印社〜

閑話6

  清末の丁敬を頂点とする浙派印人一派の人々は、西冷印人と称して「西冷四家」「西冷八家」等の名称を肆にしているが、清末第一の文人呉昌碩を社長に推戴し、杭州西湖孤山の地に印学に関する結社として、正式に西冷印社が創建されるのは、光緒三十(1904)年のことであるが、呉隠・丁輔之・葉品三・王維季等を中心にして、西冷印社が本格的な結社として体を成すのは九年後の民国二(1913)年のことである。ここには、多種多様の印章が多く集められ、同時に書画篆刻の普及と先賢の顕彰を計るべく、多数の印譜や書画冊を刊行している。
 ここに提示する西冷印社本は、印譜や書画冊等ではなく、西冷印社の刊行書としては極めて珍しい、一般書の「開元天寶遺事」である。この本は、銅板の朱墨套印本であるが、何故この様な一般書しかも経書でも文学書でもないものを、わざわざ銅板の套印本で出版したのか詳細は不明である。ただ書末に影印で附された文書(写真右)を読むに、「開元天寶遺事」の版本としては当時極めて貴重であった明版を入手したが爲の覆刊であり、しかもその所蔵者が西冷印社の中心人物の一人である王維季(最初の封面には福アン「今+酉+皿」なる文字が書されている)であったことが分かる。

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