〜古寫本・古本(西域出土)〜

閑話10

 古寫本・古本(こほん、ふるほんではない)とは、宋代以後の版本以前の本のことで、当然のことながらその装丁は巻子本形式が一般的である。だが一部の仏典等を除いては、その原本は殆ど伝世していない。所がこれらの殘巻・断片が往々にして中国の西域(敦煌や吐魯番地方)から出土するのである。しかし、これらは殘巻・断片とは雖も版本以前のものであり、学術的に貴重な資料であるため、公的な博物館や研究機関に収蔵され、その場所に行かなければ、なかなか現物にはお目にかかれない。そのため一般的には、それらの写真を載せた図版とか、写真に依拠した景印本とかを見るのが尤も手軽な方法となるのである。
 ここに提示する古寫本・古本は、吐魯番出土の「古寫本三國志」の殘巻(呉書第十二の虞翻伝の末と陸績伝の最初部分)の景印本(1931年刊巻子本装丁)である。写されている字様は、明らかに北涼(AD397〜439)・西涼(AD405〜421)系の楷書である。内容は現行本と見比べるに、虞翻伝の最後の部分が異なっている(現行本に有る十八字程が古寫本には見当たらない)。尚、巻末には王樹ダン・羅振玉・内藤湖南の三氏の跋文が付けられている。左側が原文であり、右側がそれに付せられた羅振玉の跋文である。

[目次に戻る]