〜西藏経典〜

閑話15

 西藏経典とは、チベットで翻訳された各種の宗教経典の総称である。チベットでは宗教経典は筆写すべき崇高なものと考えられていた期間が長く、国家の威光に因って明代より印刷された経典が出現するものの、一般的な意味での木版印行の歴史は浅く、主に18世紀以降が主流であると言われている。当然、経典である以上読経を目的としていれば、横長の版木にチベット語で彫られたものをやや厚手の麻紙を用いて裏表に印刷し、それをめくりながら読んで行くことになる。
 ここに提示する西藏経典は、印刷された版本ではなく筆写本であるが、残念なことにチベット語が理解出来ないため何経であるか明白ではないが、下部の大字の意味は「不変の神の言葉では」と言う内容で、上部の細字の中に「シェンラプ様」なる言葉が見えれば、恐らくボン教の経典の断簡ではないのかと推測される。時期は清朝中期から後期にかけてのもので、紙に黒漆を塗り、その上から銀泥で書写されている。上部に四カ所穴を空け鞣し革で綴じられた紙自体は、横49cm、縦14cmの大きさであるが、経典が書写された漆塗りの部分は、横36.5cm、縦9.2cmである。

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