はじめに

 温泉とはなにか。日本は、温泉の国といわれ、現在、テレビで人気番組で取り上げられている。しかし、そもそも温泉とはなにか、と問いを発すると、かなり曖昧な状態である。それをよく考えるつもりで、本論文では、温泉や、それを取り巻く状況を調べてみる。

 

 

第1章 温泉とは

 

温泉のメカニズム

 

 温泉は、地球の中でどのようにしてつくられて湧いてきているのでしょうか。温泉のほとんどは、雨や雪が地中にしみ込んで何年か後に温度や成分を得て、再び地上に出てきた「循環水」であることが、近年の研究によって明らかになってきました。温泉は、「火山性の温泉」と「非火山性の温泉」に大別でき、非火山性の温泉は「深層地下水型」と「化石海水型」に分類することができます。

 地表に降った雨や雪が,どのようにして温泉となるのか、成因のメカニズムについて下表にまとめました。

 

 

名称

特徴

火山性温泉

火山地帯では地下数km〜10数kmの部分に、深部から上昇してきたマグマがマグマ溜まりをつくり1000℃以上の高温になっています。

地表に降った雨や雪の一部は地中にしみ込んで地下水となります。この地下水がマグマ溜まりの熱で温められ、断層等の地下構造や人工的なボーリングなどによって地表に湧き出してきたものが火山性の温泉です。

マグマのガス成分や熱水溶液などが混入したり、流動中に岩石の成分を溶解することなどにより,温泉の様々な泉質が形成されると考えられています。

非火山性温泉

―深層地下水型―

地下では、深度が深くなるほど地温が上昇し、一般的に100mごとに温度が約3度ずつ上昇するといわれています。これを地下増温率と呼んでいます。例えば、地表の温度が15℃と仮定すると、地下増温率によって、一般的には地下1000mの地温45℃、1500mでは60℃となります。

また、マグマが冷えた高温岩帯と呼ばれる高温の岩石が地下にあるケースがあります。降水の一部が地中にしみ込んだ地下水が、高温岩帯や地下増温率による地熱を熱源として温められたものが、非火山性の深層地下水型と考えられています。

温泉が湧出する気候や泉質は、火山性の温泉と同様と考えられています。

非火山性温泉

―化石海水型―

太古の地殻変動などで古い海水に閉じ込められている場合があります。これを化石海水と呼んでいます。

火山や高温岩帯が無い地域で、化石海水が地表から数百mにある場合には、塩分を多量に含んでいるので、温泉法では規定した温泉に該当します。また、海に近い地域においては、現在の海水や地下水が化石海水に混入しているケースもあります。

第2章  温泉の危機

第1節  団体旅行ブーム

わが国が高度経済成長時代を迎えた昭和30年代後半〜50年代にかけて、国を挙げての団体旅行ブームが巻き起こりました。大手旅行代理店はもちろんのこと農協までが旅行会社をつくったほどでした。この頃から温泉=歓楽街というイメージが定着し始めました。

別府温泉、熱海、洞爺湖温泉など、これらの日本を代表する有名温泉は、団体旅行ブーム時代に、施設の大型化が飛躍的に進みました。全国の旅行代理店は次々に団体客を送り込み、宿を大きく改修しなければ対応できなくなりました。そのためには銀行もお金を貸し出すという何もかもが右上がりの時代でした。ここに、この時代、日本各地の有名温泉が仕掛けたカラクリがあります。温泉組合が中心となって行った、温泉の循環集中管理です。当初各旅館・ホテルは水道水を沸かした湯を混入することで、大量需要というこの事態を個別に乗り切ろうとしていました。初めは不足分をわずかに補う程度でしたが、源泉は日に日に枯渇していきました。そこで、各自治体や組合が集中管理をして、各旅館・ホテルに湯を供給するシステムが考え出され、実行されました。それは、町に何箇所かある源泉から集湯槽に湯が集められ、この湯が各旅館・ホテルに送られるというものです。この段階では集湯槽から旅館・ホテルへの一方通行であったから、後の循環システムから比べればまだよい方です。しかし、これでも、泉質を大切にするという観点から見るとき、大きな問題をはらんでいるのです。

  温泉はたとえ湧出口が100m、200mしか離れていなくても、湯がくぐりぬけてくる岩石や地質の違いから、その泉質は微妙に違ってくるのです。それほど温泉というものはデリケートな生き物といっても過言ではないものなのです。その温泉を湯量の問題解決のためだけに、混ぜ合わせてしまったのです。一見温泉を混ぜ合わせたら、よりよい効能を得られるように思われがちですが、一般的に温泉を混ぜ合わせて、元の成分よりよいものになるということはまずありません。ほとんどの場合において、互いの成分を打ち消しあって泉質が落ちてしまいます。

  病を癒し、人々に活力を与え続けてきた温泉が、大衆消費時代を迎えてその主役は観光業になりました。そして、湯は薄められ無秩序に混ぜ合わされ、その本質を失っていったのです。このように団体旅行ブームの到来が、温泉を変質させていったことは確かな事実であります

 

第2節 秘湯ブーム

  昭和60年代前後の秘湯ブームの頃、秘湯の宿や山の湯治場の経営者が、都市からきた客に「風呂に浮遊物が漂っているから、ここは温泉じゃない」「掃除をしていないせいだ」という客の苦情が出て困っているとのことでした。有名な温泉地の近代的なホテルや町場の公共温泉の風呂には白い浮遊物―つまり「湯の花(湯華)」が漂っていることはまず無いからでしょう。濾過・循環風呂が大半なので、髪の毛一本残さずにものの見事に濾過し、透明にしてしまうのです。かつて日本人は湯の花を有り難がったものです。特別温泉好きでなくても、身体に効く成分の濃い温泉として高く評価したものなのです。むしろ透明な温泉こそ「温泉じゃない。川水を沸かしたものか」と疑われたものです。

  有馬温泉のような赤錆色の温泉も、最近見かける機会が減っています。温泉の数は増えているにもかかわらず、赤錆色の鉄泉は反比例的に激減しているのです。「手ぬぐいを汚す」「足元がザラザラして不快だ」などと不評なために濾過してしまっているからなのです。もちろん濾過したからには循環にならざるをえないのです。

  私たち日本人の多くは、温泉の知識を高めなければ、「正統派の温泉(正しい温泉といってもよい)」を私たちの無知のせいで殺しかねないところまできていると思われます。湯の花が大量に生じやすい硫化水素泉、硫黄泉、鉄泉等の「にごり湯」こそが、本来「効く」温泉であるにもかかわらず、このままでは温泉として見なされない日が遠からずくるのではないかと思います。

  湯の花が浴槽に浮遊していて、「掃除してない。温泉ではない。」との苦情が出て困っている経営者がいることは述べましたが、こうした温泉を持つ経営者こそ、しっかりと掃除しているのです。この種の温泉は、一日でも掃除の手抜きをすると洗い場の床が滑って危険極まりないので、きちんと掃除をしているのです。また硫化水素泉、硫黄泉のように湯の花を出しやすい温泉こそ殺菌作用に優れ、菌の心配はまったくないのです。

 

第3節 公共温泉ブーム

  公共温泉ブームの火付け役は、なんと言っても故竹下登元首相の有名な政策である「ふるさと創生資金」です。各市町村に1億円が配られるというもので、温泉の無かった自治体が、こぞってこの創生資金を使い温泉を掘りました。人工衛星を使った探査などの技術進歩もあって、日本中掘ればはずれることが無いといわれていて、1990年代の10年で毎年50の温泉地と400箇所の「源泉」が増えました。

  故竹下首相の「ふるさと創生資金」がきっかけで、温泉掘削が盛んになったこと自体は悪いことではありません。日本人にとって温泉は昔から愛され、疲れを癒す大切な存在であるからです。

  四国は日本の中で最も温泉に恵まれないエリアですが、ここ10年の間にかなりの数の公共温泉が誕生しています。しかしそれら温泉浴場のほとんど99%が循環風呂()なのです。北海道、東北、信州、九州のように温泉に恵まれているエリアでも“マガイモノ”の温泉が乱造されているというのが現状です。

  現在ある公共温泉の大半は赤字です。その原因は施設、設備への過剰投資です。地元住民のための温泉施設なら、20億も30億もかける必要ありません。本来、せいぜい2億か3億程度で済むのです。多くの公共温泉はいかに良質の温泉を提供して住民の健康のために役立つかを考えるよりも、いかに豪華なものを建設するか、いかに湯水のごとく税金を投入するかに腐心しているとしか考えられません。施設、設備にお金をかけるとそれだけ維持管理費に莫大なお金がかかるのは当然です。そこで人件費、水道代を節約するために循環装置を使い、またその装置を週に数回しか作動させないという状態にあります。

  また、こうした“マガイモノ”の温泉は地元でしか名の知られていない1軒宿や10軒前後の中小規模の温泉街が大きな打撃を受けました。なぜなら、公共施設は建設費、設備費などが税金で賄われるだけでなく、固定資産税なども免除されているからです。たとえ赤字になったとしても町の一般会計から補填されるのです。

 

 ()循環風呂

   循環風呂とは浴槽の湯、浴槽から溢れ出た湯、さらには石鹸やシャンプーを使った洗い場の湯を砂やセラミックのフィルターで濾過して汚れを取り除き、ボイラーで加温し、最後に大腸菌、レジオネラ菌などを殺菌するために塩素を混入し、再び浴槽に戻すというものです。1日に1000人以上入浴していても、週2,3度程度しか湯を取り替えれば上等のようです。循環風呂ではこれが常識のようです。今日この循環風呂において、レジオネラ菌が発生し、最悪な場合は、人が死亡するという事件が全国のあちこちで起きています。

 

レジオネラ菌感染事件

  レジオネラ菌は土壌中などに存在するありふれた細菌で、感染力は強くありませんが、大量に発生した場合、免疫力の落ちた人には感染しやすい細菌です。感染するとひどいときには死に至ります。

  感染源で多いのが、循環式の風呂や温泉です。菌自体はどこにでもいるので、温泉の湯で検出されたところで大きな危険もありません。ところが、循環風呂だと循環槽内の湯がよどんで細菌が大繁殖することがあります。感染経路は上気道感染で、呼吸時に菌を吸い込むことで肺に感染します。よって循環風呂に加え、飛沫が飛び散る「打たせ湯」や「ジャグジー」「泡風呂」「ジェットバス」の場合はリスクが大きいといえます。

  今日、このレジオネラ菌に感染して死に至るという事件が、全国の循環式の温泉でおきています。

 

最近の主な発生事例

 

 ・平成12年3月   静岡県掛川市の温泉施設「ヤマハリゾートつま恋温泉森林乃    湯」で利用客男女合わせて9人が感染。そのうち1人が死亡。

 

 ・平成12年6月   茨城県石岡市の市営総合福祉施設「ふれあい里石岡ひまわりの館」で利用客男女合わせて43人が感染。そのうち3人が死亡。

 

 ・平成12年8月   宮崎県日向市の第3セクタ−・日向サンパーク温泉「お舟での湯」で利用客男女合わせて934人が感染。そのうち7人が死亡。

 

 ・平成12年8月   鹿児島県東郷町の温泉施設「東郷ゆったり館」で男女合わせて4人が感染。そのうち1人死亡。

 

第3章 温泉法の問題

 

第1節 温泉法の問題点

 

  『温泉法』は昭和23年に制定されました。その中の第1章第2条で温泉とは「この法律で『温泉』とは地中から湧出する温泉、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭酸水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、別表に掲げる温泉又は物質を有するものをいう」とあります。源泉において採取したときの温度が25℃以上あれば別表に掲げられている成分の有無は関係なく天然温泉と称することが出来ます。くわえて、温度が25℃以下であっても別表に掲げる温泉成分の1つが規定された含有量に達していれば温泉と称することが出来ます。

  このように温泉として認定される基準が本当に簡単なものとなっています。極端な言い方をすれば、真水を沸かしたものでもスポイト1滴の温泉をたらしたら「天然温泉」ということもありえるのです。これは社会通念上において温泉といえるのでしょうか。

 

温泉分析表

  「温泉分析表」は県やそれに準ずる機関によって掲示されています。多くの場合、浴室の脱衣所に掲示してあり、温泉の質や効能、注意書きがされているものです。この「温泉分析表」は、温泉法に基いて源泉地(温泉が地上に涌出した場所)で採取した温泉の質と温度を検査したものであって、浴槽内に注ぎ込まれた湯の分析をしたものではありません。またこの「温泉分析表」には日付が記されていないために、いつ検査したものなもかということもわかりません。

 

温泉成分調査

  「温泉成分調査」は掘削をして泉源を掘り当て、その液体が温泉なのか、どうかを調べるものです。多くの場合、現地で行うのではなく、温泉所有者が採取した温泉を当該の検査所へ持参するのです。検査所の方が現地へ赴いて、源泉で温泉を採取して分析するのならば確実ですが、そうではありません。これでは、源泉地の温泉がそのままの状態で浴槽に注ぎ込まれているのか確実ではありません。

このように温泉法の規定の不十分さは、循環風呂をはびこらせる原因の1つとなっています。

 

第2節   正しい成分表の掲示

 

  『温泉法』第13条には「温泉の公共の浴用若しくは飲用に供する者は、施設内の見易い場所に、総理府令の定めるところにより、温泉の成分、禁忌症及び入浴又は飲用上の注意を掲示しなければならない」とされていて、これが脱衣所などで見る成分表です。

  表示していない温泉は論外ですが、表示してあっても非常に古いものが多く、昭和40年代あるいは戦前のものが、そのまま掲示してある温泉がかなりあります。これでは事実と反することになり法律違法です。このような中、長野県の渋温泉では、温泉の分析を浴槽の中に注ぎ込まれた湯を検査して、分析表に掲示しています。やはりこれが正当ではないでしょうか。全国の旅館が温泉分析をした日付を掲示して、正しい温泉分析表を作成していけば、入浴客は安心して体を休めることができるでしょう。

 

第4章 これからの温泉

 

第1節 大型温泉施設

 

  今年のキーワードに「癒し」「健康」があり、これらは欠かせないもので、今後も引き続き、多くの人の関心を集め続けていくでしょう。そして、究極のレジャー「安・近・短」。そのような中、遊園地・テーマパークが集客を狙い、相次いで温泉施設を導入しています。温泉施設により、これまで少なかった中高年や女性の需要を狙ってのことです。

 

1.「大江戸温泉物語」

   2003年3月に東京・お台場(東京都江東区)に江戸をモチーフにした温泉テーマパーク「大江戸温泉物語」をオープン。若者だけでなく幅広い層がゆっくりと過ごせる「時間消費型」施設です。外国人旅行者へのアピール度も高いいわれています。   

 

2.「ラク−ア」

   2003年5月に後楽園遊園地(東京都文京区)の一部を再開発し、複合商業施設「ラク−ア」をオープン。基本コンセプトは「都会の真中でリフレッシュする」.都心で働く25歳から35歳の女性をメインターゲットとして、天然温泉を楽しめるスパゾーンがあります。大人のための癒し空間に徹し、仮眠室も300人分設けるなど、仕事帰りに何回も足を運んでもらえる「都市生活者型」施設です。

 

3.「庭の湯」

   2003年6月に豊島園(東京都練馬区)に日本庭園を望む天然温泉「庭の湯」をオープン。「大人のための癒しの空間」として高齢者も楽しめる「地元密着型」の施設です。

 

 

第2節 温泉旅館・温泉地

 

  「財団法人日本温泉協会」が毎年とっているアンケート、「温泉地に何を求めるか」という設問で、平成15年の上位に「自然環境」「温泉旅情」「安らぎ」がはいっています。現在のビジネスパーソンたちは先の見えない不安に心身を削り取られ、その傷を癒す本物の温泉を求めています。これを満たす温泉の需要が高まっていることは事実です。

 

 1.黒川温泉

   黒川温泉は傍から見ればただの田舎の風景ですが、これは真の安らぎを得るためにすべて計算し尽くされてつくられたものなのです。「山の宿新明館」の後藤氏を中心に今の日本人が温泉に何を求めているのかということに耳を傾け、自慢の庭木をすべて抜き、広葉樹の雑木を植えました。広葉樹は四季を彩る重要な役割を果たし、観光客の目を楽しませています。宿作りだけではありません。温泉は別府や湯布院に匹敵する高温で豊かな湯量を誇る温泉が自噴しています。

 

 2.新秘湯

   秘湯とは現代的な生活をしたいと考える人たちが住めないところで湯を守っているのものです。しかしこうした秘湯のなかにも、最近新しい宿が登場してきています。道路事情が整備されてきたことによって、かつては秘湯と呼ばれたところがアクセスできるようになり、それに伴って宿の設備やサービスも格段によくなったところがでてきています。秘湯のロケーションで、一流旅館の設備、サービスがうけられる湯宿です。温泉のほうはもちろん一流です。

 

1.        乳頭温泉郷(秋田県)の鶴の湯温泉は、風呂だけは木造も昔ながらの建物を維持しているが、部屋は清潔感溢れる木造作りになっています。

 

2.        西山温泉(山梨県)の「慶雲館」は江戸時代から続く宿ですが、現在の建物は山梨県下でも最上級の豪華さです。

 

3.        奈良多温泉(山梨県)の「白根館」はつい最近まで陸の孤島と呼ばれ、独特の風習や方言の残る民俗学の宝庫でした。宿はしっかりした造りで、糖尿病や高血圧に効く泉質は抜群です。

 

4.        二岐温泉(福島県)の「大丸あすなろ荘」は渓谷のなかに忽然と鉄筋4階建ての建物があります。5つの風呂はいずれも一級の自然湧出泉です。

  

 これらの新秘湯には、都会のビジネスパーソンが癒しの宿とするには最適な宿が多いと思います。今後はこのような高レベルの旅館が温泉界をリードしていくのではないでしょうか。また、今最も求められている宿の形だといえるでしょう。

 

 全国のホテルやマンション建設を手がけている「アパグループ」(東京)は“マイ温泉”に着目しています。昨年10月に、都内で初の全戸天然温泉付きマンションを新宿区に着工しました。一戸の分譲価格は約2300万〜1億500万と高価ですが、ほぼ完売状態にあるということです。手軽に自宅で温泉を味わい、癒しをえたい人たちがたくさんいるということです。

おわりに

  この論文を書き終えて最初に思ったことは、4年前に行った長野県の野沢温泉の外湯に入ったときの事です。湯船につかると白い浮遊物が浮いていて、トイレットペーパーが浮いているのだと思い、思わず「えっ、何これ、汚い」と叫びました。この時、一緒に入っていた友人の誰一人この浮遊物が何かということは知りませんでした。また、洗い場に蛇口が無く、体についた浮遊物をみんなでとりあったことを思い出しました。これは正しく湯の花であり、本物の温泉であったにもかかわらず、当時はまったくわからず、4年経った今この事実を知りました。

  最近では、「温泉に行きたいね」などと話している会話をよく耳にしますが、このような話をしている人のうち、一体どれくらいの人が本物の温泉を知っていて、行ったことがあるのでしょうか。私たちの野沢温泉がよい例ですが、確実にいえることは、現代人の無知が本物の温泉を危機に追い込んでいるということです。

  また、温泉というものは、私たちが想像する温泉―100%源泉で浴槽から溢れ出る温泉―を裏切るものであってはいけないと思います。本物の温泉以外は温泉と名乗るべきではなないし、しっかり区別するべきだと思います。

  私は、本物の温泉を大切にして欲しいと思っていますが、循環装置を使用している温泉施設を否定するわけではありません。実際に、循環装置を使用した公共温泉や大型温泉施設はお客が入っているし、ある地域ではこのような温泉施設ができてから、町の医療費が減ったというところもあります。病院の待合室を交流の場としていたお年よりたちが、温泉に集まり始めたということです。

  やはり今一番必要なことは、温泉の情報公開ではないでしょうか。情報公開の第1歩は正しい温泉分析表の掲示だと思います。

 

別表

 

1.温度(温泉源から採取されるときの温度)25℃以上

2.物質(下記に記載されているもののうちいずれか1つ)

 

 

物質名                            含有量(1kg中)

 

 

溶存物質(ガス性のものを除く)               総量1000mg以上

遊離炭酸                             250mg以上

リチウムリオン                            1mg以上

ストロンチウムイオン                        10mg以上

バリウムイオン                            5mg以上

フエロ又はフエロイオン                       10mg以上

第1マンガンイオン                         10mg以上

水素イオン                              1mg以上

臭素イオン                              5mg以上

沃素イオン                              1mg以上

フッ素イオン                             2mg以上

ヒドロひ酸イオン                         1.3mg以上

メタ亜ひ酸                              1mg以上

総硫黄                                1mg以上

メタほう酸                              5mg以上

メタけい酸                             50mg以上

重炭酸そうだ                           340mg以上

ラドン                    20(百億分の1キュリー単位)以上

ラジウム塩                          1億分の1mg以上

 

 

 

 

 

参考文献

 

温泉の法社会学              北条 浩著     お茶の水書房 

温泉の文化誌               大石 真人著    丸善

温泉教授の温泉ゼミナ−ル         松田 忠徳著    光文社

温泉と日本人               八岩 まどか著   青弓社

日本の温泉地:その発達・現状とあり方   山村 順次著    日本温泉協会

温泉へ行こう               山口 瞳著     新潮社

温泉の医学                飯島 裕一著    

 

南日本新聞  平成14年7月31日版

読売新聞   平成15年3月15日版

神戸新聞   平成15年7月19日版

 

インターネット

大江戸温泉物語               http://www.ooedoonnsenn.jp/about.html

aua(ラク−ア)             http://www.laqua.jp/spa/sz.jsp

豊島園 庭の湯               http://www.toshimaen.co.jp/niwayu/

環境省ホームページ             http://www.env.go.jp

温泉アラカルト               http://www.tk2.nmt.ne.jp

 

あとがき

  先日、私は群馬県の草津に行ってきました。やはり草津といえば湯畑です。湯気がもくもくとたちこめ、温泉が湧き出ていました。今まで何度か温泉と名のつくところに行ったことはありましたが、湯船の中の温泉しか知らず、あのように温泉が湧き出ている光景は初めてでしたから、本当に感動しました。このときは、日本全国どの温泉もあのような温泉が浴槽に注ぎ込まれていると思っていました。しかし、草津から戻って数日後、インターネットでレジオネラ感染事件を知りました。最近、私の家の近くにも数種類の風呂を取り揃えた温泉施設ができ、行ってきたばかりですが、このような温泉施設にも草津のような温泉が注ぎ込まれていると勝手に思い込んでいました。しかし現実はまったく異なるものだったのです。健康になるつもりで温泉に行き、どうして死者が出なければいけないのでしょうか。

  そこで、温泉についてもっとくわしく調べてみたいと思いこの論文を書きました。