カタカナ語について

法学部法律学科4

金子 洋介

 

 

もくじ

 

はじめに

1.        カタカナ語とは

2.        カタカナ語の氾濫

3.        なぜカタカナ語が多用されるか

4.        カタカナ語の問題点

5.        カタカナ語に対する取り組み

おわりに

 

 

 

はじめに

 

 現代の日本社会ではいたるところでカタカナ語を目にする機会がある。毎日放送されるテレビ、ラジオ、日々発行される新聞、雑誌、出版物。カタカナ語を見聞きしない時はない。カタカナ語に対して、「堅苦しくならず親しみやすくなる」「新しい感覚が出せる」と言う意見がある反面、「カタカナ語の氾濫なのでは」という声も強い。以前テレビでカタカナ語が氾濫しているという内容の番組を見た。

 本論で、現在の日本社会におけるカタカナ語、そしてこれからカタカナ語をどの様に使っていけばよいか、を考えてみたい。

 

 

 

第1章  カタカナ語とは

 

 まず、ここではカタカナ語の定義を書いていきたい。

 カタカナ語とは、日本語の文章の中でカタカナで表示される言葉のことである。これらの言葉には様々な発祥があり、以下のものに分類することができる。

 

1.外来語

 外国語を元にしたカタカナ語のことである。多くの英語がカタカナ英語として日本語に入ってきているが、日本には英語以外にも外国語が無数に入りこんできている。

 日本語には古くから外来語が入りこんできた。その外来語は地理的条件から、アジアの言葉が多かった。江戸時代では、鎖国の影響で入ってくる外来語はずっと少なくなり、そのなかで、多くはオランダ語であった。

明治時代に入り日本に入ってくる外来語は一気に多くなる。鎖国を止めた日本は、欧米諸国に追いつこうとした。そのために日本は政治的な制度・法律・文化を欧米から取り入れた。その時に多くの独語・英語・仏語がはいってきた。

2.和製英語

 和製英語とは、一見英語らしく見えるが、実は外国の単語を変形、複合させて造ったカタカナ語のことである。そのため英語と思い英語圏の人との会話や文章に使用した場合、通じないという問題がある。

以下の言葉がその例である。

 

カタカナ語

元の語

アイスコーヒー

Iced coffee(アイストコーヒー)

ホチキス

Stapler(ステープラー)

(野球の)ナイター

Night game(ナイト ゲーム)

コインランドリー

Laundromat

コンセント

Outlet(アウトレット)

ガッツポーズ

ガッツ石松が勝利の時にしたポーズに由来する言葉。

 

和製英語は幅広い分野に、数多く存在する。その形も単語を二つくっつけたものや、コンセントのようにもとの単語とまったく違う形の単語など様々な形の語がある。

3.日本独自の略語

 元の単語はもっと長めものであったものを、日本人が短く省略して多用している言葉のことである。

 例

カタカナ語

元の単語

リストラ

リストラクチャリング

エアコン

エアコンディショナー

パソコン

パーソナル・コンピューター

インフレ

インフレーション

 

 このように短く省略された言葉は多く、リストラなど4語に省略されることが多い。また、省略される言葉は外来語だけでなく、日本語も省略して使用されることが多い。

第2章    カタカナ語の氾濫

 

 カタカナ語は、国内の新聞、雑誌、公共文章、広告などいたるところで使われている。現在、日本社会で使われているカタカナ語は 万語ともいわれており、その中でも頻出カタカナ語は 万語にもなる。特にカタカナ語が多く使用されているのが、福祉関係、ビジネス関係、広告関係、ファッション関係、情報関係、公共関係である。

 最近、カタカナ語が多く見られるようになって来たと思うのがビジネス関係である。「○○アドバイザー」「○○アシスタント」をはじめその他多くのカタカナで書かれた職種があり、既存の職種でもカタカナ語で表示されていることもある。ビジネス文章にしてもカタカナ語が使用されており、広告や企業のパンフレットでも多くのカタカナ語が見られる。

 そして、よく取上げられるのが公共機関のカタカナ語病である。ある自治体で調べたところ、1回の公報に使用されているカタカナ語(外来語)は200語以上あったという。役所の作成する公式、非公式の文章の中にはアセスメント、モラルハザード、インフラ等のカタカナ語がならんでいる。今回の選挙の時にマニフェストという言葉がよく使われた。マニフェストとは「政治的公約」と言う意味の単語であるが、パッと見ではどのような意味かわかる人は少ないのではないのだろうか?

 公共機関のカタカナ語好きは福祉(特に介護)関係でもよく見られる。役所の公報にケアマネージャー、ケアマネジメント、デイサービスという単語が使われていた。それぞれ意味は介護支援専門員[1]、世話プランを作成しサービス提供を図ること、日帰りの介護サービスのことである。こうしたカタカナ語が次々と並べられた説明では何がかかれているのか解りづらい。生活にかかわる福祉や金融の大事なところで高齢者やその家族などの利用者が分からない・分かりにくいカタカナ語を多用するのは、不親切であり危険でさえある。

 またメディアがこれらの役所が使っているカタカナ語をそのままニュースなどで報道してしまうのも問題であると思う。メディアの役割の一つは物事を読者・視聴者に分かりやすく伝達することである。そのメディアが役所の発表するままに、きちんとした日本語があるのになんの必然性もなく、受け手が理解できないかもしれない単語を多用するのは無神経である。このように現在の日本社会において、過度のカタカナ語が使用されている傾向がある。

 

第3章 なぜカタカナ語が多用されるか

 前章で書いたように、現在の日本社会にはカタカナ語があふれている。では何故これほどまでにカタカナ語が利用されるのか、その理由を以下のように考えてみた。

 

1.役所のカタカナ語好き

2章でも書いたが、役所はカタカナ語をよく使う。不必要な場合でもカタカナ語を使うのである。これは、新しい制度や概念を取り入れる時に、手本とした国の言葉をそのまま輸入するのも原因であると考えられる。

日本に入ってくる外来語が急激に増え始めたのは、明治に入ってからといわれている。

鎖国を止めた日本は欧米に追いつこうとして、様々なものを外国から取り入れた。それは文化や概念、法そして社会制度であり、この時多くの外来語が日本に輸入された。

 

2.マスメディアの影響

 カタカナ語がこうも広がったのはマスメディアの影響も大きい。何かニュースがあるたびに新聞、テレビでカタカナ語を使って報道する。役所の言葉をそのまま口移しにカタカナ語たっぷりに報道する。毎日の生活の中でカタカナ語を目にする機会が増えるのも、カタカナ語が多用されるからであろう。

 

3.外国の言葉に対する感情

第二次世界大戦が始まると一転してカタカナ語は「敵国の言葉」として野球の「ストライク」を「よし」というように無理やり日本語にしようとした時期もあったが、戦後になると日本はアメリカの占領下に置かれる。この頃から役所関係にかぎらず日本人の英語(米語)に対する憧れのようなものができたという人もいる。また、「戦争を日本が起こしたのは日本の文化が劣っており外国の文化のほうが進んでいる。そのため外国文化、ひいてはその言葉に憧れができた」という考え方が日本人の中にでき、外に理想を求めようとする心理ができたとする説もある。

上の説がどこまで正しいかは分からないが、英語やカタカナ語で書くと「カッコイイ」

「先進的」と考える感覚が日本人にはあると思う。

 

4.日本になかった社会制度や概念を導入するため

 役所のカタカナ好きやマスメディアのカタカナ語使用について書いたが、それには次の理由も一因と考えられる。

 今までに日本になかった社会制度や概念、考え方を取り入れるときに、従来の日本語で適切な言葉が見つからない。または日本語に訳するのがいちじるしく困難であるために翻訳に困りそのままカタカナ語を使ってしまう。これは福祉制度やコンピュータ関係、科学関係によく見られる。特にメディアなどは情報を早く伝えようとするので、新しい成果をつたえるとき日本語に訳しにくい場合は専門家の使っている言葉をそのままカタカナ語で伝えることが多くなるようである。

 

5.表現をあいまい・柔らかくする

 自国の言葉(日本語)で言うと意味が定まっておりイメージは固まりやすい。しかし、カタカナ語に置きかえるとイメージが広がり、メッセージをあいまいな形で伝達できる。これもカタカナ語が使われる理由ではないだろうか。

 「リストラ」は再構築という意味だが、よく人員整理という意味で使われている。「解雇された」と言うより「リストラされた」と言った方が日本語で直接的に言うより柔らかく聞こえる。歌の歌詞でもカタカナ語や英語だとイメージが広がり、いろいろと連想できる。そんな日本人独特の感性がカタカナ語を使用させるのはないだろうか。

 この他の理由として、日本語が外来語を受け入れやすい言語であるというのも考えられる。例えば、最近では「ゲットする」「ゲットした」という言葉を聞く機会がある。本来ゲット(Get)は動詞だが、日本語では文中のどこにでも入れることができる。その外来語が動詞であれ名詞であれカタカナ語で表した場合、文中のどこで使ってもなんとなく意味が通じる。この日本語の形もカタカナ語が増えていく一因なのではないだろうか。

 

第4章    カタカナ語の問題点

 第2章でも述べたように近年、公的な役割を負っている官庁や役所の広報誌、また、日々の生活と深く関わりのある新聞・雑誌・テレビなどのメディアでカタカナ語が数多く使われている。この章ではカタカナ語が多用された時の問題点をあげていきたい。

 

1.正確な情報の伝達

まず、正確な情報が伝わらない可能性がある。私たちは、社会で使われているカタカナ語の意味を正確に知っていないことがある。周りから見聞きして、なんとなく、大まかな感じの意味を知っただけの語を、理解したと思っていることが多いのではないだろうか。すでに広く定着し日本語になったと言えるカタカナ語については問題ない。しかし正確な意味をわかっていない場合、伝える方と聞き手でそれぞれ解釈し、誤解や話の内容が違ってしまう場合が考えられる。その結果、誤った情報が流れてしまったり、コミュニケーションが円滑にいかなくなる可能性がある。

 

2.わかりにくい

 介護や福祉に関する広報誌に、多くのカタカナ語や一般になじみの薄い専門用語を用いた場合、その情報を必要としている人たちが正確に情報をえられなくなってしまう。

 カタカナ語は理解度より認知度、使用度が多い傾向にあると思われる。これはカタカナ語の意味を自分が正確に理解するより、見聞きする、使うことが多いということである。また、これは年齢が上がるごとに幅がおおきくなり、年配の方からはカタカナ語が多用されると読みにくい・よく分からないという意見がある。

 多くの人に情報を伝えようとする場合、カタカナ語を、特に理解度の低い言葉を使用するのは情報の正確な伝達、また人とのコミュニケーションを阻害する危険がある。

 

 

第5章    カタカナ語に対する取り組み

 

カタカナ語に対する関心が段々高くなってきている。文化庁の調査[2]でカタカナ語に対して「何も感じない」が減少し、「どちらかというと好ましく感じる」「どちらかというと好ましく感じない」が増加する傾向にある。「好ましく感じない」36.6%との回答は3分の1を上回り(表1)、その大きな理由が「日本語本来の良さが失われるから」「分かりにくいから」である。

杉並区役所は、「広報にカタカナ語が多すぎて読み難い」という声を受けて「分かりやすい言葉検討チーム」を発足させ、区の発行する発行物にたいするカタカナ語の検討を始めた。区民にアンケートを取ってわかりにくいと言う語を分かりやすい日本語に訳し、または説明を加えるというものだ。また、国立国語研究所の外来語委員会は平成15年11月13日に2回目の「外来語」言い換え提案中間発表をだした。この委員会では分かりにくい外来語を理解度に着目して検討している。理解度から大きく4つに分け[3]、「低いものは公的な場面で用いるのは避ける方が望ましい」とし、わかりやすい言い換え例や表現を検討するのである。

この事を始め、カタカナ語が氾濫する現状を考え、対処していこうとする動きがある。

 

 

 

おわりに

 

 私は、今、日本ではカタカナ語が氾濫しつつあると思う。ちゃんとした日本語がある場合でも、わざわざカタカナ語を使われると疑問に思う時もある。特に多くの人に情報を伝える公的な場所では不用意にカタカナ語を用いないで、分かりやすい日本語に言い換えられるなら言い換えるべきであると思う。しかし、言い換えることのできない(し難い)言葉、言い換えないほうが良いと思える言葉があるのも確かである。例えばノーマライゼーションと言う言葉がある。この言葉の意味は、「障害者や高齢者など社会的に不利を受けやすい人々が、社会の中で他の人々と同じように生活し、活動することが社会の本来あるべき姿であるという考え方」である。外来語委員会の言い換え例は「等生化」「等しく生きる社会の実現」とされている。これでは余計分からなくなる。ノーマライゼーションは概念そのものの導入となり、専門家からは安易な言い換えをして欲しくないとの意見もある。このような場合、下手に言い換えるより「ノーマライゼーション」として日本語に取り入れ、言葉の意味を広めていく方が良いように思える。これと同じように、コンピュータ関係の言葉や、科学の分野では先端のところでは90%近くが外国語が使用されており、安易に日本語で言い換えずカタカナ語を使った方が分かりやすい時もある。

 今は国際化社会と言われている。日本にも世界中の人や文化・思想・技術が入ってきている。そして外国の言葉も当然入ってくる。カタカナ語の増加が即日本語の乱れに繋がるわけでなく、逆にそれまで日本になかった考え方を表現するなど日本語を豊かにする側面もある。いちがいに規制、言い換えをするべきではない。しかし、高齢者を対象とした福祉関係、介護関係にカタカナ語を濫用するべきではない。また、公共機関や社会的影響力のある人は専門性の高いカタカナ語、認知度・理解度の低いカタカナ語を率先して使わず、なるべく分かりやすい言葉を使うべきであると思う。

 カタカナ語は情報の伝達や、コミュニケーションの円滑を考え、相手のことに気を配り分からない分かりにくい言葉には説明を、分からないときは聞く。このようにカタカナ語と付き合っていくべきではないだろうか。

 

 

表1 日常生活の中で,外来語や外国語などのカタカナ語を交えて話したり書いたりすることについて,好ましいと感じるか,好ましくないと感じるかについて。

 

どちらかと言うと好ましいと感じる

どちらかと言うと好ましくないと感じる

別に何も感じない

平成14年度

16.2

36.6

45.1

平成11年度

13.3

35.5

48.8

(文化庁「平成14年度「国語に関する世論調査」の結果について」より)

 

あとがき

私自身、講義を聞いているときカタカナ語を使われて意味がわからなかったときがある。その反面、自分でも知らず知らずのうちにカタカナ語を使っており、この文のなかでも多くのカタカナ語を使っていると思う。このことを考えるために、この論文に取りかかった。

 

参考文献

日本社会にあふれるカタカナ語  野角 幸子 著 新風舎

カタカナ語の正体        小林 忠夫 著 丸善株式会社

カタカナ語を考える       宇野 吉信 著 かもがわ出版

日本・日本語・日本人      大野 晋  著 新潮選書

                森本 哲夫

                鈴木 孝夫

社会言語学入門         東  照二 著 研究社出版

 

HP

文化庁   http://www.bunka.go.jp/index.html

国立国語研究所   http://www.kokken.go.jp/

杉並区役所   http://www2.city.suginami.tokyo.jp/top.asp

カタカナ語禄  http://www.metrology.jp/kanamoji.shtml

東京新聞  http://www.tokyo-np.co.jp/

NHK放送文化研究所  http://www.nhk.or.jp/bunken/index.html

 



[1] 介護保険制度の一翼を担う専門家で、ケアプラン(介護サービス計画)を作成する。介護を必要とする人は、本当に必要とするかどのくらい必要としているかを自治体に認定してもらう。

[2] 文化庁 平成14年「国語に対する世論調査」

[3] 1.その語を理解する人が国民の4人に1人に満たない段階

 2.その語を理解する人が国民の2人に1人に満たない段階

 3.その語を理解する人が国民の4人に3人に満たない段階

 4.その語を理解する人が国民の4人に3人をこえる段階