還流レコード防止措置(改正著作権法)

大東文化大学
法学部政治学科4年
01142406
右色健二郎

はじめに

1章.著作権と管理団体

2章.還流レコード防止措置

3章.この法律が与える問題

おわりに

参考文献

参考HP

はじめに

日本では世界各国の音楽レコード(注:1 以下 レコード)を購入する(聴く)事ができる。また、そのレコードは、世界各国にいる多くの人間が関わり、作られ、輸入されている。しかし、日本で海外からの「輸入レコード」(注:2)を規制する法律が2005年1月1日に施行される。この法律は、消費者側から5万7000件以上の反対署名をうけ、また公正取引委員会からも独占禁止法に違反の恐れがあると指摘されていたにも関わらず、成立した。これから「輸入レコード」は買え(聴け)なくなるのだろうか。

この論文では、今回改正される著作権法の「還流レコード防止措置」に焦点を当て、著作権の意義とは何か、また、この法律の影響にまで迫る。よって、ここで扱う著作権法は、音楽ビジネスに関するものとする。

1章.著作権法と管理団体

これまで、著作権法は、音楽業界、映画業界、放送業界などの一部の業界にのみ関係し、ほとんどの企業には興味のないものとされていた。しかし、時代の発展とともに、著作権の対象範囲は拡張し、最近では機能的で実用的なものにまで成立するようになった。著作権の成立要件は、きわめて緩やかなもので、特許権や、商標権とは異なり、審査や登録などの手続きを必要としない。これにより、我々が描いた絵や作文などについても著作物となり、著作権が成立する。世界中で、著作権を有していない人はほとんど存在しないと考えてよいのだ。

著作権は、知的財産権の一部である。知的財産権は大きく、工業所有権と著作権に分けることができる。工業所有権には、特許権、実用新案権、意匠権、商標権といったものがあり、著作権は、文化的な創作物の保護を対象とするものである。つまり、著作権とは、著作物の保護であり、その模倣を禁じる役割を担っている。しかし、一方で、「人類は模倣や学習によって進歩してきたのであり、どのような著作物であれ、大なり小なり先人の文化遺産を土台として創作されたものであり、その意味でいかなる著作物も過去に存在した著作物の一種の模倣ということができ、かかる視点からは著作権によって著作者の権利を保護しすぎることは文化の発展を阻害する危険性もある。」(著作権法詳説より抜粋)という考えがある。そこから、著作権の解釈又は運用について、「著作権者等の権利の保護」と「文化的所産の公正な利用」の調和が必要と考えられる。これは、文化の発展を目的とする法律である。

著作権者の権利は、著作権者の権利と著作隣接権者の権利に分けられ、また、著作者の権利は著作者人格権と著作財産権に分けられる。ここでの権利とは、「許諾権」である。つまり、著作権者は、その作品の利用を「認める・認めない」という判断を下すことができる。

音楽の著作権において、理解しておかなければならないことは、音楽家がレコード会社と結ぶ契約である。著作権では、音楽家を著作者、実演家と呼び、また、そこには作詞、作曲の行為による権利も発生する。レコード会社と実演家が、「専属実演家契約」を結ぶことは、実演家の権利で認められている「録音権」「録画権」を独占的に譲り受け、その報酬として「歌唱印税」を支払う契約をすることだ。また、作詞者や作曲者である場合には、「著作者」となり、音楽出版社と「著作権譲渡契約」を結び、「著作印税」を受ける。

このような契約の中で、音楽に関する著作権は、(社)日本音楽著作権協会(JASRAC)を中心に管理を行うことになっている。

JASRACは、昭和14年に音楽著作物の管理のために設立された。その主な業務は、音楽著作物の使用者に使用の許可を与え、その使用者から著作権使用料を徴収し、それを著作権者に分配することである。日本のほとんどの音楽作家、音楽出版社がJASRACに作品を委託している。JASRACの会員になることは、著作権信託契約によって、現在会員が持っている、あるいは将来取得するすべての著作権管理を委ねることになっている。その仕組みは、JASRACが楽曲の使用者から「著作権使用料規程」に従って著作権使用料を徴収し、そこから手数料(CDは7%、カセットテープは10%)を差し引き、残りを楽曲の権利者に分配するというものだ。また、JASRACと契約を結ばない場合は、JASRAC管理外の楽曲となるため、使用者が直接に著作権者から許諾をもらわなければならない。そこでは、「著作権使用料規程」も関係がなくなるため、使用料は交渉によって決まる。

また、音楽の著作権は、著作権のほかに、著作隣接権で決められている。この著作隣接権は、実演家、レコード製作者、放送事業者および有線放送事業者の利益を保護するための権利である。このような保護の対象は、著作物の利用者であり創作者ではないが、重要な伝達機能を果たし、伝達に著作物の創作に準ずる創作行為があることから、これらを保護することによって、著作権者の保護をはかろうとするものである。作曲家・作詞家が著作権者であるというところは著作権法と同じであるが、日本の音楽レコード会社は著作隣接権というのが与えられている。また、その曲を演奏した人を「実演家」と呼び、これにも著作隣接権が適応される。さらに、音楽の著作物とは、楽曲や歌詞であるが、楽譜になっている必要はなく、即興演奏もこれに含まれる。この著作隣接権が音楽産業の核となる部分である。

著作隣接権は、著作権と同様に、成立要件の審査や登録などの手続きを必要としない。また、著作権と著作隣接権とは、それぞれ独立して認められるので、著作隣接権の権利行使によって著作者の権利は影響を受けない。しかし、著作権が制限された著作物を自由に利用できる場合は、著作隣接権も制限を受ける。

著作隣接権は実演家の権利、レコード製作者の権利として音楽に関する権利を決め、それとともに、管理団体の指定を行っている。また、ここでは、指定管理団体の紹介に関係する部分に焦点を当てる。

著作隣接権では、実演家に対して、その実演を録音し、また、録音する権利を専有すると決めている。実演家の実演を録音し、録画しようとする者やすでに固定物に録音、録画されている物の生産を増やそうとする場合は、実演家の許諾を受けなければならない。

さらに、実演家は商業用レコードの二次使用料を受ける権利を規定されている。実演家、実演が適法に録音されている商業用レコードが放送や有線放送で使われた場合に、その放送事業者、有線放送業者から二次使用料を受ける権利を有するのだ。この権利は、商業用レコードが放送や有線放送に用いられることが、通常レコードが使われる範囲を超えた利用であり、その事業者が大量のレコードを使用することで経済的利益をあげているというところから、実演家に利益を分けることを理由に成立した。また、その事業は、本来実演家が演奏するところを、そのレコードで補っているという考えから、実演家は保証されるべきという理由もある。また、保護を受ける実演は以下の通りである。

  1. (1)国内において行われる実演
  2. (2)保護を受けるレコードに固定された実演
  3. (3)保護を受ける放送において送信される実演
  4. (4)保護を受ける有線放送において送信される実演
  5. (5)実演家等保護条約によりわが国が保護を負う実演
  6. (6)WTO設立協定によりわが国が保護義務を負う実演

しかし、これらの放送事業者が、それぞれの実演家に二次使用料を支払う手続きの複雑さという問題が発生した。そこで、文化庁は(社)日本芸能実演家団体協議会(芸団協)をこの業務を行使する団体として指定した。

芸団協は俳優、歌手、演奏家、舞踊家、演芸家、演出家、舞台監督などの実演家の団体で構成する民間の公益法人で、芸術文化の発展に寄与することを目的に1965年(昭和40年)に設立された。主な業務には、実演家の著作隣接権に関わる業務を行う「実演家著作隣接権センター」の運営、「芸能人年金共済制度」などの福祉事業、芸能に関するさまざまな調査研究、政策提言、情報収集・発信、研修事業など芸能振興にかかわる「芸能文化情報センター」の運営を主な事業の柱としている。

また、レコードやレコード製作者の権利も説明しなければならない。ここでのレコード製作者とは、レコード盤やCD、カセットテープなどを製作するものではなく、マスターテープ(注:3)の製作者をいう。著作隣接権において、音楽などの著作物が固定されたレコード製作者は、そのレコードを複製する権利を専有している。レコードの複製とは、レコードのリプレース(注:4)のような直接的な複製だけでなく、レコードの放送を受信して録音をするような間接的な複製も含まれる。また、レコードの生産を増やすことについては、レコード製作者の権利のほかに、そのレコードに録音されている詞や曲の著作者が持っている著作権の複製権、演奏家や歌手などの実演家が持っている録音権も働くことになる。また、保護を受けるレコードは以下のものである。

  1. (1)日本国民をレコード製作者とするレコード
  2. (2)その音が最初に国内において固定されたレコード
  3. (3)実演家等保護条約によりわが国が保護義務を負うレコード
  4. (4)WTO設立協定によりわが国が保護義務を負うレコード
  5. (5)レコード保護条約によりわが国が保護義務を負うレコード

レコードやレコード製作者は実演家と同様に、商業用レコードの二次使用料を受け取る権利を有する。この権利における業務については、(社)日本レコード協会が指定されている。つまり、レコード製作者を代表する団体である。

このように著作権や著作隣接権は、それらを対象とする団体により業務を行使しているが、それらの団体に属さなくとも、個々の著作権は守られる。

2章.還流レコード防止措置

今回、改正される著作権は、「還流レコード防止措置」、「書籍・雑誌の貸与権」、「罰則の強化」である。その中で、「還流レコード防止措置」が、海外のレコードの輸入に規制をかけるものである。では、何故この法律が必要になったのだろうか。

現在、邦楽レコード(注:5)は、アジア諸国で需要が増加し、また、韓国政府は邦楽の販売を解禁している。それに伴い、日本の音楽産業も積極的に国際展開する機運が高まっている。アジア諸国への邦楽ライセンスレコードの供給実績は、2002年では約500万枚で、その内訳は台湾に約200万枚、中国に約44万枚、香港に約34万枚、韓国に約42万枚(参考 社 日本レコード協会)の原版ライセンス契約がなされている。さらに今後、日本の音楽産業が積極的に展開するならば、2007年には3倍の約1600万枚、2014年には14倍の7000万枚(参考 三菱総合研究所報告)に成長すると見込まれている。

しかし、日本の音楽産業が積極的に国際展開した場合、日本よりはるかに安い邦楽ライセンスレコードが国内に還流することが問題となった。日本が海外で展開している邦楽ライセンスレコードの値段は、アルバムCD一枚で(約550円〜約1600円)である。この値段は、その国の物価と海賊版(権利者の了解を得ないで作成された音楽レコードコピー)対策により設定される。ここで言う還流とは、権利者の許諾を得て国外で適法に譲渡された著作物を輸入し、公衆に譲渡することである。

現行の著作権において、違法行為とされることは、外国で生産された海賊版を国内において販売や配布の目的で「輸入」することである。これは、著作権法第113条第1項第1号で規定されている。つまりここでは、「権利侵害行為」によって作成された物の輸入を権利侵害とみなすこととしており、権利者の許諾を得て国外で適法に譲渡された著作物の輸入は、権利侵害には当たらない。

1999年の著作権法改正では、著作物、実演、音楽レコードの原作品または複製物の「譲渡」について、著作者、実演家、音楽レコード製作者の権利として認め、適法な譲渡により権利が消滅することが規定された。ここで言う「権利の消滅」には、「国内消滅」と「国際消滅」の二つが考えられた。「国内消滅」とは、権利者の許諾を得て国外で適法に譲渡された著作物について、日本に輸入され、公衆に譲渡されるときも譲渡権が働き、国内で適法に譲渡されたときに初めて権利が消滅することである。「国際消滅」とは、国外であっても適法に譲渡されれば権利が消滅し、その後に国内において公衆に譲渡されるときには権利が働かないことである。しかし、「国内消滅」を採用すると、国内の流通に混乱を招く恐れがあったため、「国際消滅」が採用された。つまり、権利者の許諾を得て国外で適法に譲渡された著作物を輸入し、公衆に譲渡する行為については、譲渡権は働かない。

日本の還流レコードの総数は、約68万枚である。また、上記の国際展開に比例して、2007年には約250万枚、2014年には約1250万枚(参考 株式会社文化科学研究)の還流が起こると予想された。還流レコードが増加すれば、国内の音楽産業に大きな影響を与える可能性がある。そこで(社)日本レコード協会は、海外での邦楽レコードの需要に応え、日本の音楽産業の拡大を図るため、日本において販売を禁止することを条件に海外でライセンスされた邦楽レコードの日本への還流を防止する措置を政府に要求した。これは、日本の邦楽ライセンスレコードの輸入または輸入後の譲渡を差し止める措置である。

これらの問題を受けて、政府は著作権の一部を改正する法律案を作成した。還流レコード防止措置は、国外頒布目的商業用レコードを国内での頒布目的で輸入する行為、国内で頒布する行為又は国内での頒布目的で所持する行為(輸入する行為等)を著作権等の侵害行為とみなすものである。つまり、作詞作曲家の著作権者、著作隣接権者のプレイヤー等の実演家、そして、洋楽メジャーレーベル(注6)の日本法人・支社などのレコード会社は、自分たちの所で輸入販売している「正規輸入レコード」又は他の輸入業者による「並行輸入レコード」を止めることができる権利である。海外の日本法人・支社を持っているレコード会社、また、日本のレコード会社の両方に属していない、海外のレコード会社の輸入レコードは対象にならない。また、文化庁は留意事項として、以下の5つの要件を満たすものに限られるとした。

  1. 要件1.国内において先又は同時に発行されている国内頒布目的商業用レコードと同一の国内頒布目的商業用レコードであること。また、国外頒布目的商業用レコードが発行された際に、それと同一の国内頒布目的商業用レコードが国内において発行されている状況にあることが前提とされていること。
  2. 要件2.「情」(要件1の事実)を知りながら、輸入する行為等であること。しかし、権利者がジャケット等に「情」(要件1の事実)の内容を明確に表示していない国外頒布目的商業用レコードは、要件2の立証が困難となる。
  3. 要件3.国内において頒布する目的での、輸入行為又は所持行為であること。しかし、改正法の施行日より前に輸入され、施行の際に頒布目的で所持されている国外頒布目的商業用レコード(在庫品)については、改正法附則第2条で本措置の適用外とされている。
  4. 要件4.国外頒布目的商業用レコードが国内で頒布されることによって、それと同一の国内頒布目的商業用レコードの発行により権利者の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合であること。
  5. 要件5.国内頒布目的商業用レコードが国内において最初に発行された日(国内において最初に発行された日が、改正法の施行日より前である場合にあっては、一律改正法の施行日)から起算して4年以内であること。

この法律案は2004年6月2日、第159回国会の衆議院文部科学委員会で、「著作権法の一部を改正する法律案(著作権法改正案)」として可決された。この可決に伴い、2005年1月1日からこの法律は施行されることになった。

3章.この法案が与える問題

これまでの検討で、この法案は、邦楽レコードのアジアからの還流に限定することであった。しかし、洋楽レコードの輸入レコードをレコード輸入権の行使対象としないという立法は、国際条約上不可能である。よって、この法律では洋楽レコードの輸入も阻止することが可能である。現在、日本で販売される洋楽レコードは約1億4000万枚で、そのうち、輸入レコードは約8000万枚(社 日本レコード協会 2002年)である。この法律は、地域を決めることが不可能で、「正規・並行」どちらの輸入レコードも対象とすることになる。また、洋楽レコードの輸入を禁止することが無いように、音楽関係者間で協議が行われている内容によっては、独占禁止法違反となる恐れがある。つまり、「正規輸入レコード」のみを輸入禁止にしないということは、それ自体違法となってしまう可能性があるということだ。

このような広範囲に及ぶ規制をしなければならないのは、当初の目的であった還流レコードの防止だけでなく、海外からの輸入レコードすべてを視野に入れていたと考えられる。海外で生産されたレコードであっても、海賊盤でない限り、著作権料は現地で徴収され、著作権者へ配分される。しかし、日本で生産されたレコードが売れないと困るのはレコード会社である。つまり、この法律は、レコード会社保護のためのものと考えられる。

ところが、法案可決後、2004年6月に(社)日本レコード協会が「欧米諸国からの洋楽の並行輸入や個人輸入等を阻害するなど消費者の利益が損なわれることのないよう、立法趣旨に則り、制度の適切な運用を図るとともに、音楽ファンへの利益の還元に更に努めてまいる所存であります。」というコメントを出している。つまり、これは「輸入レコードをすべて阻止することは可能であるが、それは行わない」ということだ。果たしてそれを行わないという理由はどこにあるのだろうか。このコメントで述べられている通りの「権利として認められていていることを行わない」という保証はどこにもないといって良い。それは、これまで(社)日本レコード協会やレコード会社が、レコードの売り上げを妨げる原因に対して行った処置から洋楽レコードに焦点を当て、比較することで考えられる。

比較の対照としてよい例は、1980年に登場したレンタルレコード店である。この前年には、ソニーから「ウォークマン」が発売されていたことから、レンタル店でレコードを借り、カセットテープにダビングするというレコードを買わずに済ませることが可能となった。これに対し、(社)日本レコード協会や、レコード会社はレコードが売れないという理由で、1982年に、レンタルレコード店を複製権の侵害として差し止め請求を東京地裁へ提訴した。しかし、当時の著作権法では、このレンタル業を合法として認めていた。それは、著作権法では、レコードレンタル業の誕生を予想しておらず、貸与権という言葉や概念もなかったからである。(社)日本レコード協会やレコード会社は、これでレンタル業を違法とするには困難なことであったし、複製権の侵害として訴えるには根拠に乏しいと判断され、裁判で勝てない可能性があった。

そこで、(社)日本レコード協会を中心とする権利者団体は、裁判ではなく政府に新しい法律の政策を陳情した。そして、議員立法という形で「商業用レコードの公衆への貸与に関する著作者等の権利に関する暫定措置法」という法律案が作成され、1983年に成立した。

しかし、文化庁はこの法律に対して著作権との矛盾を指摘した。この暫定措置法は、レコードが発売されてから1年間、レンタルレコード店は、作詞者、作曲者、レコード会社などの著作権者や実演家、レコード製作者などの著作隣接権者の許諾なしでは消費者にレンタルすることができないとした。これは、著作権法で規定されている二次使用料の精神からすると矛盾している。つまり、実演家とレコード製作者は許諾権を持っておらず、報酬請求権のみを持つことが認められていたからだ。報酬請求権は、決められた金額を権利者に支払えば、権利者の許可を受けることなくレコードを二次使用できるものなのだ。

この矛盾を修正するために文化庁は、レコードが発売されてから最初の1年は許諾権を実演家、レコード製作者に与えることを認める法案を作成した。この文化庁が行った修正案は1984年に成立し、暫定措置法は廃止されることになる。また、この法案が国会を通過した際に、レンタルレコード店が存続できるように配慮するという附帯決議があった。この附帯決議により、JASRAC、芸団協の各団体と、1984年に創設されたレコードレンタル店の団体である日本コンパクトディスクレンタル商業組合との間で一括に許諾を与えるという協定が成立した。

だが、この法律はさらに問題を起こすことになる。この法律の成立の際に、洋楽のレコードに関して著作権者の貸与権は認められたが、実演家とレコード製作者の貸与権については認められなかった。この原因は、当時の日本が「著作隣接条約」という国際保護条約に加盟していなかったことである。日本は、この国際条約に加盟していなかった為、外国の著作権を保護する必要がないのである。これに対し、アメリカ合衆国通商代表部の代表が日本に来日し、レンタルレコードの著作権に関する不満から、それが日米貿易不均衡の原因という批判を始める。日本政府はこの批判から、1991年に洋楽レコードの実演家とレコード製作者に貸与権を認める法律を成立させた。

この法律を成立させると、アメリカはすぐに洋楽のレンタルレコードを規制し始める。レコードの発売から一年間の許諾権を与えられたアメリカの洋楽レコードは、貸与権の行使を可能な限り行ったのだ。以前に交わされた付帯決議などは、まったく無視され、アメリカのレコード会社は自分たちの利益の為だけに活動した。アメリカの権利者にとって、付帯決議は意味を持たない。アメリカのレコード会社と日本のレコードレンタル店の保護は「関係がない。」という考えである。これにより、洋楽の新譜レコードは発売日から一年の間、レンタルすることができないという形で、現在に至っている。

ここから分かるように、権利を有し、その権利を行使することで自分たちの利益を上げることが可能なら行使しないはずがないのである。つまり、上で述べられているコメントは、まったく信用できないといってよい。よって、レコード会社は輸入レコードすべてを対象とし、輸入規制を行う可能性がある。

おわりに

著作権法は、著作物や実演等の利用方法の変化、それに関するビジネスや消費者、さらに国際著作権との関係など多くのものがあり、それらはともに変化するために固定したものではない。よって、著作権法改正はその時代の問題に合わせてこれからも繰り返される。そして、省庁がその法案に対して消費者から多くの反対を受けても、その業界の保護を優先に行う。つまり、著作権とは、消費者を拘束するためのものであり、業界保護を目的とするものなのだ。

今回の「還流レコード防止措置」が、音楽産業を発展させるために必要な法律だったのかどうかは、消費者が今後の音楽産業を見つめ続けるしかない。その消費者の集まりが「Music Watchdog」という組織である。この組織は、上記の(社)日本レコード協会等のコメントや、レコード会社の動きを監視するものである。そして、仮に洋楽の輸入レコードが輸入禁止になった場合は、多くの情報がそこに集まる。その時、(社)日本レコード協会やレコード会社の対応で、消費者の信頼を得られることが、音楽産業にとって、最も重要なことなのである。

(注:1)音楽レコード
所謂レコード盤だけでなく、CD、カセットテープ、DVDオーディオ、SACDなど音楽を記録するもの。
(注:2)輸入レコード
日本国内で生産されたものではなく、他国で生産されたレコード。
(注:3)マスターテープ
製作工程上の完成されたテープ。
(注:4)リプレース
一度、生産が終わったものを再び生産すること。
(注:5)邦楽レコード
日本古来の音楽だけではなく、J-POPなども含めた音楽レコード。

<参考文献>

『著作権法』
著者:斉藤博
出版社:株式会社有斐閣
『よく分かる音楽著作権ビジネス』
著者:安藤和宏
出版社:株式会社リットーミュージック
『著作権ビジネス最前線』
著者:内田晴康 横山経通
出版社:株式会社中央経済社
『著作権法改正ハンドブック』
著者:大橋正春
出版社:株式会社三省堂
『著作権法詳説』
著者:中山信弘 三山裕三
出版社:東京布井出版株式会社

<参考HP>

Music Watchdogs
http://watchdogs.himajin.jp/
文化庁
http://www.bunka.go.jp/
公正取引委員会
http://www.jftc.go.jp/
(社)日本レコード協会
http://www.riaj.or.jp/
(社)日本音楽著作権協会
http://www.jasrac.or.jp/
(社)日本芸能実演家団体協会
http://www.geidankyo.or.jp/