「NEET〜Not Employment , Education or Training」

はじめに

イギリスから、「NEET」と呼ばれる言葉が日本に輸入された。この言葉は、「Not in Employment, Education or Training」の頭文字をとった造語であり、15歳から34歳までの若者で、働かず、通学もせず、職業訓練も受けていない者を指すことばである。ニートと呼ばれる若者たちは現在、日本において爆発的に増加している。これは、日本経済、および社会に対し多大なる影響をあたえることが容易に予測できる。本論は、現在、問題視されているニートという存在、そして、なぜ、ニートは働かないのかという疑問を解明するとともに、ニートが具体的にどのような部分で問題になるのか、どのように社会的な影響をあたえるのか検討し、社会問題になりつつあるニートに対する国による支援を提示したいと考えている。

第一章 NEETという存在

第一節 ニートの定義

NEET(ニート)という言葉は、直訳通り「職業について働いておらず、学校に通い教育を受けておらず、何かしらの職業訓練をも受けていない人」のことを意味している。そして、このニートは、フリーターという言葉と同様に15歳から34歳の若者を指す言葉でもある。

ニートという存在は、1990年にイギリス内閣府の「社会的排除防止局」が作成した、「Bridging the Gap」という調査報告によって、広く知られるようになった。その理由は、16歳から18歳の青年に限っても、実に人口の9%、数にして、16.1万人が毎年ニートになっていると報告したからである。そして、NEETの存在はほぼすべての先進国に確認されており、日本においても例外ではない。

日本におけるニートの定義は、内閣府と厚生労働省において、若干異なる。というのは、労働も通学もしていない人間を内閣府は「ニート」とし、厚生労働省では、ニートに近い概念として、「若年無業者」としている。ニート(内閣府)は、「非労働力のうち15歳から34歳で、卒業者かつ、未婚であり、通学や家事を行っていない者(家事手伝いは、含めない)」という定義である。若年無業者(厚生労働省)は、「非労働力のうち15歳から34歳で、卒業者かつ、未婚であり、通学や家事を行っていない者」という定義である。つまり、内閣府による定義では、既婚者の主婦(主夫)は含めず、厚生労働省の定義は、既婚者の主婦(主婦)は含めるという点で、若干の相違点がある。(どうしてこの相違が?要考察)

ニートは、働いていない「失業者」と一般的に大別される。というのは、失業者には「働く意欲」があり、求職活動などをおこなっているからである。失業者の定義は、15歳から65歳未満で、1.仕事についていない。2.新しい仕事を探し求職活動を行っている。3.仕事をできる能力がある。(健康であること)である。つまり、NEETとは、年齢層が一部、重なる点があるが、それ以外において、まったくの別な存在なのである。しかし、失業者が、求職活動をあきらめ、ニートになる可能性があることは忘れてはならない。

一般的に、ニートはフリーターよりも、たちが悪い存在とされている。その理由は、フリーターは、アルバイトやパートなど何かしらの仕事をし、収入を得ている。好意的にとらえるならば、正社員へとつながるステージに立っているといえるだろう。しかし、ニートは、収入を得ておらず、生活費のすべてを親、または、家族、しいて言えば国に頼っており、家庭や国の財産・年金を食い荒らす存在だといえる。また、ニートは自分の内面的な崩壊から始まり、家庭の崩壊、殺人のような凶悪な犯罪を起こすとはいえないが、犯罪を伴うこともありうる。このことは、社会の崩壊にもつながっていくといっても過言ではない。

現在も、フリーター問題が(マスコミにより)騒がれているが、ニート問題のほうが、社会を揺るがす大問題である。

失業者とフリーターとニートの違いについて述べてきたが、「社会的ひきこもり」(ひきこもり)と呼ばれる人々は、ニートに含まれるのだろうか。ニートは、他人とのかかわりを避けているという意味でひきこもりと似た性質を持っている。「ひきこもり」と呼ばれる人々は、厚生労働省の定義では、「自宅にひきこもり、会社や学校に行かず、家族以外と親密な人間関係がない状態が六ヶ月続いている人たちのことをいう。その中で、統合失調症やうつ病などの精神障害が考えられる人は含まない」とされている。このひきこもり状態にある人を抱えている世帯は日本全国で41万世帯を超えているといわれている。中には、30歳を超えて中年期にさしかかっているひきこもりも少なくない。つまり、ニート状態にある人は、「ひきこもり」も含まれる。「ひきこもり」と「ニート」の分類の仕方は難しい。ニートはひきこもりなのか、ひきこもりがニートなのか、という定義があいまいであるためである。ひきこもりとニートは、ひきこもりをも含め、ニートであるといえよう。

これらニートの人口は、厚生労働省が発表したもので64万人、内閣府が発表したもので、84.7万人とされている。また、各新聞によっても、人口数は、40万人とも60万人とも言われ、明確な人口数は、不明である。この理由として、調査の方法による差異も上げられるが、就職活動をしていないことから、ハローワークなどの公共機関を経由して、接触をすることが難しく、働く意思があるフリーターよりもつかみどころがない存在であることも、ニート人口数が異なっている理由であるといえよう。しかし、厚生労働省の発表によると、「15歳から34歳の約2パーセントにのぼると推測される。」という。これは衝撃的な数字である。

第二節 NEETの特徴と類型

ニート発祥の地イギリスで報告されたニートの特徴は、将来に対し、限りなく希望がなく、現在の状況を転換させることが極めて困難であるということである。ニートの大部分は、昼過ぎまで寝て、それからぼんやりとテレビを見たり、ゲームをしている。ときには夜「ぶらぶら」したりといった生活を繰り返している。そんなニートな少年には、10代での薬物やアルコール乱用や窃盗、ホームレス化などが少なからずみられる。女性がニートになったとき、その生活状態は男性以上に厳しい。16歳から18歳まで何もしなかったニートは21歳の時点でも、失業している確率はきわめて高い。成人後も犯罪加害者になったり、うつ状態または、身体的に不健康な状態にも陥りやすい。そんな状態が、ニートから社会参加の機会をさらに遠ざけている。

これらの特徴はイギリスだけではなく、日本のニートにもあてはまる。しかし、すべてがあてはまるのではなく、日本において、ニートが薬物やアルコール乱用という点は、あまり確認されていないし、ニートと犯罪の関係についてもいくつかの事例(少年犯罪・将来に不安を感じた結果の一家心中)にはあてはまるが、ほとんどあてはまらないと言える。  次に日本版ニートのイギリスで発見されたもの以外のものをあげる。

ニートの最終学歴の中で、注目するべきところは、中学卒業者、高校中退者の数が多いということである。これは、日本における高校卒業者の数が著しく多いことが理由にある。中学卒業者や高校中退者がニートになる可能性は高く、フリーターになる人はまだましであると言えよう。ここで、一つ忘れていけないことは、たとえ、大学や大学院、専門学校を卒業しても、就職活動でのつまずきや、就職後の早期離職などにより、高学歴の持ち主であってもニートになるという可能性があるということである。つまり誰もがニートになる可能性をはらんでいるということである。

ニートは正社員やフリーターと違い、職についていないため、収入がない。求職活動もしていないので、雇用保険(失業手当)も見込めない。それでは、ニートは、どのように生活のためのお金、生活費を工面しているのだろうか。失業者の場合、働いていた時に貯蓄をしていた預金、貯金や失業保険を取り崩しながら生活をしていると考えられる。一方、ニートの場合、家族や親族の収入をアテにしながら生きている。ニートは、どんな状況であれ、働いていないので収入がなく、家族や親等に依存して生活している。このことはニートにとって必然である。

ニートには、大きく分けて、「逃避型」、「もがき型」、「新型」の三つのタイプがある。「逃避型」の中には、「ヤンキー」と「ひきこもり」が含まれ、「もがき型」には「つまずき」、「立ちすくみ」が含まれ、「新型」は、「学校依存」が含まれる。

「逃避型」のヤンキーは、何かやることよりも、社会的に反抗しながら楽しいことにふけっているタイプをいう。そして、「逃避型」のひきこもりは社会に背を向けて自分の中に閉じこもっているタイプである。「逃避型」のタイプには、「ピーターパン=シンドローム」や「アダルトチルドレン」などの大人になることに対し抵抗感がある人々なども含まれる。

「もがき型」の「立ちすくみ」は、いい大学を卒業し、就職も決まっているにもかかわらず、入社することに躊躇しているタイプである。これは大学を卒業して社会に出ることが怖いのである。特に理由もなく、一年間大学を休学して、留学するケースも「立ちすくみ形」である。「もがき型」の「つまずき」の人たちは、いったん会社に入社したのにもかかわらず、何かいやなことがあるとすぐに退職してしまうというタイプである。

一般的に、専門家はニートをこれら4タイプに分類する。

このほかに、定義上、ニートに含まれないが、万年学生と呼ばれるニートが存在する。これを、「新型」のニートといい「学校依存」タイプとされる。このタイプのニートは、学校に籍を置き勉強をしていることから、専門家の定義からは外れる。しかし、確実にこれらの人々はニートである。このタイプのニートの特徴は、一つの学校(専門学校・大学・大学院)を卒業したら、また、別の学校に入学し、永遠に学生をしているということである。このタイプの中には高校卒業後、10年間も学校で生活している人もいる。この理由は、いい就職先を得るためであるが、親も資格取得という理由には弱く、勉強するならば、家計が許す限り、万年学生を続けることを助ける。

第三節 NEETはなぜ働かないのか

ニートが働かない理由には、大きく分けて二つある。その二つとは、個人レベルの問題、つまりニートが自分自身の中で持つ問題と、社会的な要因である。

個人レベルのニートが働かない理由については、人それぞれ異なる理由がある。その理由の中で最も多いのが、社会に出て人付き合いができないのではないかという不安である。つまり、ニートの「コミュニケーション能力の欠如」が働くことを妨げている理由になる。こうしたコミュニケーション能力の欠如の問題は、社会に出た後に気づくのではなく、学生時代から始まっていることが多い。人間関係の困難さから来るのであるかはわからないが、ニートの場合、在学中の欠席日数が、21日以上に及んでいた割合は、失業者に比べ2倍以上も高い。在学中の不登校経験の多さもNEETの特徴でもある。また、学生時代の友人や恋人が、失業者やフリーターに比べ、格段に少なく、何かしら人間関係が会ったとしても、卒業後、そのつながりはなくなるか、軽薄になっていく。このことは、ニートの特徴ともいえる。また、ニートにとって家族や親といった人々は、生活費をまかなってくれる金銭的な援助者になるので相談をできる相手ではなくなる。学生時代に友人関係という人とのコミュニケーションでコミュニケーション能力が育成させなかった、できなかったという理由が、ニートの社会に対する不安要素になり、働くことに対し抵抗感を生んでいる。

そのほかのニートが働かない理由は、自分自身の適正・能力がわからない、適正・能力が合う仕事がわからない、自分自身に自信がない、などである。これらの理由はフリーターになる理由と似ている。ニートが働かない理由の中で、興味深い点は、「焦燥感」のなさである。ニートは失業者に比べ、将来に対する焦りを持つ人が2分の1以下である。これはなぜか。その理由は、今後の生活に対する余裕を持つからで決してはない。それは、就職に対して、働きたいのに、働けない一種の「あきらめ」のようなものがあるからである。

 ニートが働かない第2の理由は、日本社会の中流層が豊かになったことである。ニートは働かないので収入がなく、それを養ってくれる人が必要である。その人に、ある程度の金銭的な余裕がなければ、人がニートのような生活を送ることはできない。また、国際的に見ても、ニートの存在が確認された国は、途上国ではなく、先進国である。つまり、日本において、ニートが働かない社会的要因は、ニートが働かなくても、家庭の中で養っていけるだけの経済力あるからである。このことは、家庭の中からニートを生む原因にもなっている。

第2章NEET急増と社会的影響

第一節 NEETの出現と急増の理由

ニートは、最近出現した新しいタイプの人間だと思われがちだが、意外にも昔からそのような人たちは存在した。昔のニートというものは、富裕層だけに存在していた。この階層においては、人間の1人や2人働かなくても、その家庭が経済的貧困の窮地に立たされないほどの財産があった。そして、昔のニートは、富裕層だけに存在していたので、人口としても少なかった。しかし、現在、問題視されているニートは、けっして富裕層にしか存在しているものではなく、いわゆる「中流」と呼ばれる層に多く存在している。そして、昔から存在していたこの種のニートと、現代版ニートは異なる存在といえる。しかも、現在のニート人口は、前述の通り約40万人〜84万人にのぼる。

なぜニートの人口はこれほど膨れ上がったのだろうか。その理由は様々あるといえるが、一般的に言われているのが、「家庭環境説」、「教育問題説」、「労働市場説」の三つ仮説である。

「家庭環境説」とは、自分以外の他者との最初の環境は、家族・地域であることに基づく仮説である。「家庭」や「地域」という環境は、本来、ときには、叱られたり、励まされたりして、社会で生きるための知恵を学ぶ場である。この「家庭」や「地域」が、核家族化、少子化、地域交流の減少などによって、断絶や崩壊を引き起こし、子どもに社会で生きていくための知識を授けるという機能が消失してしまった。それが、ニートの急増の一因となっているのではないかと考える仮説である。

「教育問題説」とは、個性化、自由化が推し進められた教育改革の結果、教育段階での意欲を失う者と意欲を持つ者との二極化が進行し、その格差の拡大が、ニート急増の一因となっているという説である。

「労働市場説」とは、ここ数年で若年層の雇用環境が改善しているといわれてはいるが、依然として雇用環境が厳しく、企業が新卒学生の採用を絞った結果、一部の偏差値の高い学校の学生以外、やりたい仕事に出会えるチャンスが少なく、就職活動をあきらめてしまうことが起こっている。また、高校卒業者の就職先の減少により、従来は、学校から社会へスムーズな移行ができていたが、近年は困難になってしまった。これがニートが急増する原因だとする仮説である。

 これらが、一般的に言われている3つの仮説であるが、この3つの仮説にも、それぞれ問題点がある。

「家庭環境説」の問題点は、家庭や地域の断絶・崩壊の問題、つまり核家族化、少子化問題や地域社会の交流の減少の問題は、ニートが急増する2000年より以前から始まっているため説得力を失ってしまう。

「教育問題説」においては、教育を受ける側に問題にあるというのは、すこし強引すぎる点があり、どちらかといえば、教育をする側の問題の方が大きいように思われる。また、二極化してしまった現在の教育は見直すべき時期に入っていると思われる。

 「労働市場説」に関しては、雇用環境が少なからず改善されている現状において、ニートの増加がとまる、減少するといったことが確認されなければ、「労働市場説」自体が成り立たなくなると思われる。

この3つの仮説のほかにも、地域社会の変化、(つまり、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどの増加による商店街の減少)により、「○○屋さんの○○ちゃん」といった身近に感じることのできる職業が減少し、幼児期の職業観の育成ができなくなったことや、働く以前の問題として、コミュニケーションがとれない若者が増加していること、そして、そのようなコミュニケーションのとれない若者たちであっても、かつては、社会にでなければならなかったが、現在は、何とか親頼みで生活ができるほどに家庭が豊かになったことなども考えられる。

このように、ニートの急増の明確な原因は不明であるが、ニート急増の背景には、様々な要因が複雑に絡み合い、増加の傾向を減少傾向へと移行させないために作用していると考えられる。

第二節 NEET増加による社会的影響

株式会社野村総合研究所は、ニートに関するインターネットアンケート調査を2004年10月18日〜10月20日にかけて実施した。この結果、ニートに関する認知度は2004年の時点では、それほど高くない(16.9%)ものの、今後、増加すると考える人は、87%近くにもなり、さらにニートの増加が社会に大きな影響をあたえると考える人が、92%を超えることがわかった。これだけの人々がニート増加に対し危機感を持っているが、実際に、ニートがこのまま増加し続けたら、日本社会はどのようになってしまうのだろうか。  昨今、「2007年問題」が喧伝されている。これは、2007年以降、団魂の世代が大量に定年退職するという問題である。この問題は、今まで日本経済を支えていたベテランが減少し、日本の技術力などの低下が問題化するといわれている。ニートの増加はこの問題をさらに大きなものにする。正社員ならOJT(企業の現場研修)等を受け、一人前の企業人なることができるが、仕事を持たないニートは、職業経験自体がない、もしくは、少ない。つまり、ニートの急増は、技能の研鑽や知識を積むことができない人が増えるということである。では、今後、ニートたちが、キャリアアップをして、社会や経済を下支えできるかというと、それもまた難しいことである。2007年問題は、ベテランたちの退職による技術力等の低下だけではなく、労働力不足の問題をも引き起こす。これまで、日本において、過剰雇用が深刻化していたが、団塊の世代の大量定年退職は、労働力不足の問題を明確にすることになる。この時、労働市場に参入してこないニートの増加は、潜在的な経済成長の抑制要因ではなく、現実の経済成長の抑制要因になってしまう。  ある人が、なんらかの理由により、ニートになってしまった場合、その期間の収入は一切絶たれてしまう。そのため、ニートでない人と比べて、生涯所得が無視できないほど差異が生じてしまう。また、ニート状態が長く続けば続くほどこの格差は広がっていく。なんらの職業訓練も受けていないニートは、たとえニートを脱出したとしても、ニートを経験していない人と同じ所得を得ることは難しく、多くの人は、パートタイム労働者となる可能性が高い。そして、仮に正社員となっても、企業側から、不利な待遇をうける可能性も考えられる。ニートの「消費」であるが、ニートは、ニートでいる限り、収入はなく、家族などに生活費を頼って生活しているので、生活は質素にならざるをえない。また、ニートを脱出したとしても、所得は少なく、そのため、ニート個人の消費は限りなく少ないと考えられる。

このほかにも、本来ならば、社会保険料を払うはずの若者が、逆に生活保護の受給対象者になることもあり、それが、財政悪化の要因になる。ニートは経済的な不安要因であるため、結婚して子供を生むといったことができず、少子化の問題をも加速することも考えられる。また、ニートの多くの日常は、昼過ぎまで寝て、ぼんやりテレビを見たり、夜中までぶらぶらしたりという生活なので、ニート発祥の地イギリスと同じように、薬物・アルコールの乱用・窃盗などの犯罪に手を染めることが懸念されている。

このように、ニートの急増は、日本を経済的、社会的な窮地に立たせる可能を持っている。

第3章NEETに対する支援

厳しい雇用情勢等を反映して、若年層において、高い失業率、増加する無業者(NEET)、フリーターなどの問題が生じている。このような状況が続くと本人にとって、若年期に必要な技能・知識の蓄積がされず、将来にわたるキャリア形成の支障となる。さらに、日本における産業や社会を支える人材の育成が図られず、経済成長の制約となるおそれがある。この課題に対応するために、2003年6月に「若者自立・挑戦プラン」が策定され、2004年12月には、同プランの実効性・効率性を高めるために「若者自立・挑戦のためのアクションプラン」が、関係5閣僚(内閣官房長官、文部科学大臣、厚生労働大臣、経済産業大臣、経済財政政策担当大臣)によって取りまとめられた。これに基づき、産業界、教育界の協力の下、関係者が一体となって若者の働く意欲や能力を高めるための総合的な政策等に取り込むことがされた。

また、これを着実に実行するために、2005年からは、若者の働く意欲や能力を高める総合的な政策として「若者人間力強化プロジェクト」と呼ばれる、すべてのやる気のある若年者に対し、職業的自立を促進させるためこの政策が積極的に取り組まれている。これらのプロジェクト全体の予算は、372億円である。

「若者自立・挑戦プラン」の具体的な内容は、

(1)日本版デュアルシステムの拡充

日本版デュアルシステムとは、教育訓練機関による座学と企業による実習を平行的に行い、一人前の職業人を育成するというシステムである。2004年の三月末までに全国で開始され、約23000人が受講している。これは、進路が決まらない学卒者等に対し、受講を促進させるために体験学習を実施するとともに、企業、民間教育訓練機関の取り組みを促進する施策の強化等を行う。また、若年者のためのワンストップサービスセンター(ジョブ・カフェ)においても、受講受付を開始するというものである。

(2)若者向けキャリア・コンサルタントの養成・普及

若者向けキャリア・コンサルタントを職業能力開発大学校等で養成し、効果的な能力開発や職業選択に関する総合的な相談機能を強化するとともに、市町村の既存の施設等を活用したキャリア・コンサルティング等を実施するものである。

(3)学卒、若年向け実践的能力評価・公証の仕組みの整備

学卒、若年者が職業能力開発について目標を持ち、意欲を持って取り組むことができるよう、若者が持っている職業能力が適正に評価・公証される仕組みとして、若年者就職基礎能力支援事業、(通称:YES−プログラム)が、2004年から開始された。この事業の普及、促進をはかる。同プログラムでは、事務・営業の職種について、企業が若者に対して求めている「職業基礎能力」(コミュニケーション能力等)の具体的な内容について、それを身に付けるための目標とできるよう、「職業基礎能力習得の目安」を提示している。

(4)地域の関係者との連携による若年雇用対策の促進

 若年者のためのワンストップサービス(ジョブ・カフェ)において、新たに若年者の主体的な企画による就職支援活動や、インターネットを活用した相談・助言を行う等、就職支援の強化を図られる。

が上げられている。

さらに、若者人間力強化プロジェクトの具体的内容は、

(1)若者の人間力を高めるための国民運動の推進

若年層が抱える雇用問題について、国民各層の関心を喚起し、若者に働くことの意義を実感させ、働く意欲・能力を高めるため、国民運動を展開する。これは、このプロジェクトの根幹にあるものである。

(2)フリーター、ニートに対する働く意欲の涵養・向上

この項目には、次のような事業がある。

@) 若者自立塾の創設:合宿形式による集団生活の中で、生活訓練、労働体験等を通じて、職業人、社会人としての基本的な能力、勤労観の醸成を図り、働く自信を付与する。

A)ヤングジョブスポットと呼ばれる若年層向けの職業安定所の強化:若年層が集まりやすい場所に出向き、情報提供、相談等を実施する。

B)インターネット等を通じた情報提供をし、若年者に職業的自立を働きかけること。

C)民間事業者を活用した職業意識の啓発、職場におけるコミュニケーション能力や基礎的ビジネスマナー等の習得のための講座を10日程度で実施し、早期の就職促進を図るための就職基礎能力速成講座の実施が含まれる。

(3)学生・生徒に対する職業意識の形成支援、就職支援の強化

 この項目には、ボランティア活動などの無償労働体験の機会に関する情報の収集・提供を行うとともに、これらの活動の実績等を記録する「ジョブパスポート」を開発し、企業に対する働きかけ等を通じ、これらの活動実績が企業の採用選考に反映されるように図ること。小中高校生向けの職業意識形成支援授業として、ハローワークと産業界が連携して、学校において実施しているキャリア検索プログラム、ジュニアインターシップ等、小中高生を対象とした職業意識形成支援事業について、対象校の拡大、職場体験に係るコーディネート機能等の充足を図ること。そして、認められる大学卒業者等の就職環境を踏まえ、大学等就職担当職員の技能向上や大学等と職業安定機関との連携強化を図るとともに、学生職業総合支援センターの拡充等により、未内定学生と未不足求人のマッチングの促進を図るなどのことが含まれる。

(4)若年者に対する就職支援、職場定着の促進

この項目には、若年者に対する就職実現プランの策定による個別総合的支援の実施として、若年者の雇用保険受給者を対象に、再就職に向けた求職活動プラン(就職実現プラン)を個人毎に作成する。これに基づき個別総合的な相談援助を重点的に実施すること。学卒の未就職者を対象に、短期間(3ヶ月以内)の試用雇用を行い、早期の常用雇用の実現を図るため、2001年から始まった若年者トライアル雇用事業を拡充実施すること。中小企業等における若年労働者の職場定着促進のため、地域の業界団体が主体となった若年労働者の相互交流、企業人事管理者を対象とした講習等の取り組みを促進する。それとともにインターネット等を通じて、働くことに関わる幅広い相談に身近に応ずる体制を整備すること。

(5)ものつくり立国の推進

 ものつくり現場において深刻化する後継者不足等の問題に対処するために、若者に対してものづくり技能の魅力を啓発し、興味・関心をもたせ、その習得に向かう環境を整えること。これによって、若者のものづくりの現場への就労を促進することが急務となっている。このためには、子供から大人までの国民各層が、技能の重要性を広く認識し、ものづくりに親しむ社会を形成することが必要である。また、この具体策として、2005年からものづくり技能を国民各層に浸透させるための各種事業を国民的規模で展開するとともに、若年ものづくり人材を育成を推進することにより、その雇用を図ること。

 このような支援がニートに対し行われ、その効果が期待されている。

おわりに

現在は、携帯電話やインターネットなどの発達により、気軽にコミュニケーションがとれるようになった。しかし、そのような人間関係は、はたして、どれほどのものなのであろうか。また、コミュニケーションがとりやすくなった現在において、コミュニケーション不全症候群とでもいうべきニートは、なぜ誕生したのであろうか。それは利便性の追求により、フェーストゥーフェースの人間関係がなくなったためだと私は考える。

 ニート急増の問題は、まだ、様々な要因が絡み合い、急増の原因の中核が見えていない。しかし、ニートと呼ばれる存在は、現在、増加の傾向にあることは間違いなく、早急な対策が必要である。国による支援もなされているが、ニートは、社会と断絶している人が多いので、形だけの支援はそれほどの効果をあげられないと考える。ひきこもりなどのニートを、どのように国の支援にのせ、社会復帰をさせるのだろうか。国による支援には様々な問題点が存在している。そのため、今後は、現在のような支援をハードの支援とよぶのなら、「内面的な支援」、いうなれば、ソフトの部分での支援を充実させるべきだと考える。

「ニート」という存在は、やる気がなく、生きることに怠慢で、働く気がなく、親のスネをかじり、けしからん存在だと考えられがちであるが、決して、そのようなニートばかりではない。「働かない」のではなく、「働けない」「働くことに対し動き出すことができない」というニートもいるはずである。そのため、ニートと呼ばれる存在に対し、「けしからん存在」という偏見は持つべきではない。そして、ニートは誰しもがなる可能性をはらんでいるということを強調しておきたい。

参考文献