重大犯罪の少年の心理

目次

はじめに

第一章 3事件の概要と事件が起こるまでの少年の行動について

第1節佐賀バスジャック事件について

第2節 大分一家六人殺傷事件について

第3節 「酒鬼薔薇」事件

第二章  事件が起きる要因となった事柄、心理的要因などについて

第1節 佐賀バスジャク事件の場合

第2節 大分一家六人殺傷事件について

第3節 酒鬼薔薇事件について事件がおこる原因となった要因、心理的要因について

第三章、仮説の結論について

おわりに。

はじめに

重大犯罪を起こした少年は、常に異常な心理状態から犯行を起こしてしまうのであろうか。私の仮説は、重大犯罪を起こした少年は、常日頃から「酒鬼薔薇事件の少年」のように、キレたら何をするかわからない状態であり、ナイフを持ち、異常な行動を取る、というものである。この仮説に基づき、少年の心理は犯罪を起こす時どのような心理状況だったのかについて論ずる。少年とは、20歳未満と定義する。マスメディアなどでは高校生以下を少年犯罪としていることが多く見られる。マスメディアは、現在の少年犯罪について以前(5、6年前)よりも、取り上げられていないように感じられる。現在では、マスメディアは、少女や少年など弱い立場の人が犯罪に会う事例の方を多く報道している。そこで、重大犯罪を起こした少年の心理を論ずる際、過去に遡って、佐賀バスジック事件、大分一家6人殺傷事件、酒鬼薔薇事件をとりあげる。この3つの事件は、少年犯罪がマスメディア・社会の中で大きく取り上げられ、議論された事件であったからである。

第一章 3事件の概要と事件が起こるまでの少年の行動について

第1節佐賀バスジャック事件について

これは、佐賀県の17歳の少年が2000年5月3日に引き起こしたバスジャック事件である。佐賀バスジャック事件が日本全国を震撼させたのは、17歳の少年がバスジャックしたことも要因の一つである。もう一つは、少年は精神病院に入院しており、精神病院からの外泊許可が出て外泊中に起こした事件であったことである。当時のマスコミは、事件を起こした少年を、酒鬼薔薇事件と同じように孤独な少年であり、キレてすぐにナイフを取り出し暴れまわるというイメージを報道した。

少年は、学校生活の中で、いじめられていたという。少年は、学校でのいじめによる「飛び降り事件」で重傷をおっている。「飛び降り事件」とは、5メートルの高さの階段から飛び降りるゲームである、少年はそのゲームによって足を骨折し、不登校になっていった。少年は、いじめグループが飛び降りないと隠した少年の私物を返さないと脅迫したので飛び降りた、と報道されている。学校側は、このいじめに対してなんの対応もせず、初めのうちはその事実を認めもしなかったとされている。少年は、不登校になり、中学三年から家庭内暴力を振るうようになった。不登校中の少年は、家の中で「でっかいことをやってやる」と大声で叫び両親が少年の部屋に入ったときには、ナイフと包丁がそろえられていた。少年の日記には、「僕が人を殺した時、自らの破滅によって一生を終える」などと書かれていた。それを見た両親が少年を精神病院に強制入院させる結果になった。少年は、精神病院入院中に外泊を許可されたが、牛刀をもって高速バスをハイジャクする事件を起こしてしまう。メディア・本などからまとめてみると、佐賀バスジャック事件の起こった経緯は以上の通りである。資料・本などを見ると、メディア・報道が加熱化し、少年を酒鬼薔薇事件とそっくりなように報道する傾向がある。

第2節 大分一家六人殺傷事件について

大分一家六人殺傷事件のあった場所は、二両しかない電車(豊肥線)沿線の・都会から遠い場所で起こった事件である。少年犯罪には、都会の中で異常な環境の中で少年が犯罪を起こすというのがイメージがつきまとうが、そのイメージを覆すような犯罪であった。事件の起きた場所は、山の中の数えるほどしか民家がなく、隔離されているかのような場所である。2000年8月、16歳の高校生が近所に住む普段から交友のあった被害者の家に深夜二時に忍び込み、サバイバルナイフで夫と妻、長女、孫の三人を殺害、他の三人に重傷を負わせた。大分一家六人殺傷事件は、佐賀バスジャック事件・酒鬼薔薇事件と比べても、殺傷した人数ということで言うならば最悪の事件である。周りの人の話では、少年の普段からの行動は、学校などではいじめなどにもあうことはなく普通の少年であったということである。少年の決まったような日課は、学校から帰るとすぐに駄菓子屋に行き、お菓子を買うことであった。もう一つの日課としては、駄菓子屋のすぐ隣の理髪店に行き一時間ほど漫画を読んで帰るという日課を繰り返していた。マスメディアの報道するところでは、少年が高校生になってから不良化した。本・マスメディアで、多くの取り上げられるのが、少年の普段の生活での問題行動である。この少年は、小動物に対する殺害をおこなっていた。この場合、犬や猫を殺害したことは、問題になる点でである。少年は、猫や犬を残酷な方法で殺害していた。心理学的には、犬や猫の殺害を殺害するということは、思春期において性欲が亢進するためであるとされている。少年の性欲がサディズムへと発達し、精神的に安定しなかったためこのような異常な行動になったと考えられる。

この事件が起こる前、地域でたびたび女性の下着が盗まれるという事件が起こっている。その盗まれた女性の下着の股の部分が刃物で切り裂かれ捨てられていた。下着を盗み切り裂くという事件は、少年が起こしていた事件であった。この下着の窃盗と一家六人殺傷事件との関連性は、少年が被害者一家の家にも下着を盗みに入っていたことである。しかし、下着泥棒事件が起こっていた時点では、少年には犯人としての疑いはかかっていなかった。少年は被害者宅の風呂場を、脚立を立てて覗きをしていたのであるが、被害者に見つかりかけて慌てて逃げだした。少年は、後日こっそりと被害者宅に戻り、証拠になる脚立を川底に沈め覗きをしていたことを隠蔽した。少年は、これによって安心していたが、両親に「夜中にうろつくな」と激しく怒られた。少年は、覗きをしたことが両親、被害者一家にばれたのでは、と動揺した。動揺した少年は、覗きがばれているのかを確認しようと被害者に近づいた。少年は、被害者が急に冷たくなったと思いこみ、覗きがばれたと考えた。少年は、犯行ノートというものを作り、犯行を事前に計画していた。犯行で使われたナイフは、自分の家の倉庫で見つけたものである。少年は、午前二時まで被害者宅前で息を潜め犯行に及んだ。

この事件を通してみると、少年は普通の生活をしており、日課のようなものもどこにでもいる少年にも共通の面がある。しかし、どこにでもいるような少年だが、異常なサディズムの性欲があった。これが、少年を事件に向かって駆り立てたと考えられる。

第3節 「酒鬼薔薇」事件

この事件は、少年犯罪の中でも一番強い衝撃を社会に与えた事件であり、重大犯罪のさきがけとなったものである。事件が起こる前の少年の普段の生活について見てみる。事件を起こす前の少年は、佐賀バスジャック、大分一家六人殺傷事件の少年たちよりも異常であった。少年は、小学校時代からオブジェ・似顔絵などを作っている。普通の少年が作るような粘土細工・似顔絵(ロボット・人形など)ではなく、異常な作品が部屋の中に飾られていた。少年の作品は、真っ赤の絵の具で色をつけた粘土の塊にカッターナイフを何本も刺した奇妙なオブジェ、カッターナイフが何本も貼り付けられた箱、カッターナイフのついた黒い箱、流れる血の絵、ジェイソンの似顔絵などである。少年は、学校でも奇妙なオブジェを作っていた。オブジェを学校で作った理由は、少年が学校でいじめられていたため、いじめっ子を威嚇するために作っていたとしている。

少年の凶行について。少年には、サスケと言う愛犬がいたが、その愛犬が死んでしまった。愛犬サスケの死を、猫のせいだとすり替え少年の猫殺しが始まる。1997年2月5日に少年は女子高校生の後をつけてアパートまで行くなどという行動をとる。少年の猫への凶行が人間へと方向転換したと考えられる。女子高生をつけるという行動は、女子高生の友達に強く叱られることによって犯罪には到らなかった。少年は、女子高生の次に女子小学生が目に入り、そのとたん金槌を出して殴った。少年は、猫を殺し、次に女子小学生に対する通り魔事件を引きおこした。少年が猫殺害を始めた頃から、少年の空想の世界で自分のことを「酒鬼薔薇聖斗」とし、空想の世界の神「バモイドオキ神」を作り出していた。少年は、酒鬼薔薇聖斗として別の人になることによって犯罪を犯すに到る。空想の世界では、酒鬼薔薇聖斗が「バモイドオキ神」に犯罪を起こしたことを報告する。少年は、「酒鬼薔薇聖斗」・「バモイドオキ神」を内面的世界に作ることによって、外の世界(現実)と自己とを隔離することになった。少年は、通り魔事件から、人間はどの程度の攻撃でどのようになるかに興味を持った。1997年3月16日の昼、少年はナイフと金槌を持って家を出た。少年は、公園で女児を金槌で叩き、帰り道で違う女児の腹部をナイフで刺した。少年は、自分の家に帰って、日記を書き、「バモイドオキ神」に報告した。この時、少年は最終的な目的として人の殺害を目論んだ。1997年5月4日「酒鬼薔薇聖斗事件」が起こり、テレビ、メディアが大きく取り上げることになる。この日、少年は昼過ぎごろ、人を殺すという目的のためにママチャリで出かける。少年(酒鬼薔薇聖斗)は、たまたま通りかかった男児を見て自分よりも小さいので殺害できると考えた。少年は、男児をタンク山と呼ばれる茂みの多い近くの小山に誘い出し、首を絞めて殺害した。そのあと、少年は、家に帰り、中学校の中にはまだ遺体をおいていない。少年は、遺体を隠すよりはあえてどこかにさらすことによって警察の捜査をかく乱させようとした。警察の捜査をかく乱させることに成功したが、約二週間後に逮捕された。

酒鬼薔薇事件について考察すると、この事件が、佐賀バスジャク事件・大分一家六人殺傷事件と大きく異なる点は、その残忍性である。佐賀バスジャック・大分一家六人殺傷事件の二つの事件は、犯罪が起こる前は残忍な面は隠そうとする傾向がある。しかし、酒鬼薔薇事件を起こした少年は、学校など公共の場で残忍な行為を顕示していた。酒鬼薔薇事件と前述の二つの事件の違いは、酒鬼薔薇事件の少年が、小学生の頃から残忍な行為を行い、異常なオブジェなどを作っていたことにも現れている。

第二章  事件が起きる要因となった事柄、心理的要因などについて

第1節 佐賀バスジャク事件の場合

少年の要因・心理的要因と考えられる点は、少年の両親の子どもへの接し方から始まった。少年の家庭は、非常に冷め切っていたと証言されている。少年が学校でいじめられていても、両親は、学校にも報告に行かず、自分の子どもがいじめられていることを問題にもしていなかった。少年がバスジャック事件を起こした後は、手の平を返したように、学校におけるいじめについて問題に取り上げ、いじめが原因で息子が異常になっていたとして、学校側の態度を問題とした。少年は、学校でいじめにあっていることを両親に相談したかったが、相談することができずにいた。少年は、両親と話(コミュニケーション)をしたかったが、両親は子どもに冷たく、歪んだ親子関係(歪んだコミュニケーション)ができあがっていた。少年は、いじめが原因で家の中に引きこもってしまった。両親は、自分が直接子どもに外に出るように話し合うことはしなかった。両親は、引きこもりの専門家(心理学の先生)をよびカウンセリングしてもらった。少年は、両親が自分の方を向いてくれるのではないか、と思いひきこもりを続けていた。

このような親子関係(コミニュケーション)によって、親子の関係には亀裂が深くなっていく。少年は、両親が自分に振り向いてくれるように家の中で暴れるようになる。暴れるといってもテレビのリモコンを投げたり、妹をいじめたり、犬をいじめたりなどしたが、両親には手を上げることはなかった。少年は、両親の気を引くための家の中での暴れたのであるが、両親には家庭内暴力と判断された。少年のサインが両親に届かないため、もっと強い手段で少年はサインを送る。少年は、「でっかいことをやってやる」と大きな声で叫び、部屋の机の上にナイフと包丁をおいて置いた。両親は、少年のサインに対して全て自分から接していなかったため、少年の行動をすぐ警察に連絡し、精神病院に入院させる結果になった。少年は、両親に振り向いてもらいたかっただけで、意に反して精神病院に入院させられた。このことが少年を犯行へと駆り立てる結果となった。両親に対しての復讐心と自分の汚名返上のため大きなこと(バスジャック)を考えつき、大分バスジャック事件をが引きおこしてしまった。

少年の精神、心理について考察してみる。少年には「自己愛性格者」「自己顕示欲」の傾向があると考られる。自己愛性格者とは、自己の愛を傷つけられると、過敏になって攻撃する。自己顕示欲の傾向は、少年がバスジャックしている時、劉備になったつもりで「我、天帝なり」、「目立つことをしたい」、「僕の事件は、新聞の一面で報じられているか」などと発言していたことである。少年と両親の歪んだ親子関係(歪んだコミュニケーション)から始まり、親子の関係に溝が深くなっていった。佐賀バスジャック事件を考察した結果、両親と子どものコミュニケーションが取れてさえいれば、少年の犯行(バスジャック)だけは回避できたと考えられる。

第2節 大分一家六人殺傷事件について

少年が事件を起こす要因となったのは、少年の身の回りの環境である。大分一家六人殺傷事件があった場所は、都会とは違い山の中にあり、少年は小さな社会の中で生活していた。都会のように、好きな時にどこにでも遊びに行けるような開放的な所には少年は住んでいなかった。少年の家庭状況は、母親は人の好き嫌いがはっきりとしていて嫌いな人には些細なことにでも怒りかかる。母親は、自分の意に沿わないことがあると、誰に対してでもクレームをつける人であった。父親は、他人の話を聞かず、自分の意見を一方的に押しつけるような育て方をしていた。少年の家庭は、父親・母親のような性格の家族しかおらず、少年は一番弱い立場にいた。少年の生活日課として、学校から帰った後すぐ駄菓子や理容店に行くなどしていた。少年は、学校から家に帰ると一番弱い立場になるため、駄菓子や理容店などに行き、家庭での弱い立場から逃げようとしていたのである。弱い立場であった少年は、強い自分であるために不良化する。不良化した少年は、強い自分を役割演技することで自己確立をしていく。ここから少年は「ワル」という否定的な意味で「強い」自己像を獲得しようとした。「ワル」という自己像を獲得しようとする心理と思春期の性欲によって新たな問題が起こる。家庭環境で一番弱い立場にいた少年は、パーソナリティーの安定した発達に失敗して、原始的な攻撃性が出てサディズムとして突出した。少年のサディズムが犬猫の殺害、女性の下着を盗み股の部分を切り裂くなどの異常な行為に発展した。少年は、自分の中にあるサディズムや性欲を周囲の目から周到に隠していた。サディズムや性欲は、絶対に知られてはいけない「秘密」であった。少年の秘密が明るみに出ると、小さな地域または家族から完全に孤立することになるためである。少年は、秘密を持つようになってから他人との距離を異常に気にするようになった。少年は、被害者宅の風呂場を脚立を使って覗き、発見されそうになり慌てて逃げる。覗きの証拠を隠蔽したが、何日後かに父親に「夜中にうろつくな」と厳しく怒られたため少年は動揺する。被害者が、覗きをしていたことを見破り自分の両親に苦情を言いに来たと少年は受け止めた。実は、被害者一家は、少年が覗きをしていたことには気づいていなかった。少年は一方的な思い込みで、被害者一家が急に冷たくなったと感じ、秘密がばれたと確信して犯行に及んでいる。犯行を決意した少年は、犯行ノートをつくる。犯行ノートには、映画『ランボー』の主人公と同じ格好をして犯行に臨むと計画が記されていた。金銭的にランボーの格好を模倣することはできず、家にあったナイフで犯行に及ぶ。ここで、少年が「ランボー」になるという演技が重要になる。今まで少年は、強くなるために「ワル・不良」を演じることで自分にない強さを演じた。少年にとって、これは、自己にとって不可能なことを可能にする儀式であった。さらに、少年は、ランボーを演じることによって、自分には不可能なことを可能にしようとしたのである。大分一家六人殺傷事件の大きな要因は、少年の住んでいた地域・家族との関係・少年の資質であると考える。大分一家六人殺傷事件は、他の二つの事件と違う点は、少年の動機である。多くの場合、少年犯罪における殺人行為の動機として、社会に対する破壊的衝動があげられる。しかし、大分一家六人殺傷事件を起こした少年は、初めから人を殺したいなどの動機などはなく、自分の秘密を知られたと思い込み、被害者一家を口封じのために殺人をしたところが他の少年の重大犯罪との違いである。

第3節 酒鬼薔薇事件について事件がおこる原因となった要因、心理的要因について

酒鬼薔薇事件の少年は、小学校の時から異常なオブジェを作るなどの行動から見ると、少年は幼少の頃から心理的に殺人へと発展する要因があったと考える。少年の父親は、大手企業のサラリーマンであり、普段は無口であるが子どもたちが兄弟喧嘩をすると厳しく叱っていた。少年の父親は、どこにでもいるような父親であったと考えられる。母親は、きつい体罰で加えて、少年を育てていた。少年は、幼い頃の母親からの体罰を受けて育ち、次第に母親から強い口調で呼ばれるだけで体をこわばらせ脅えるようになった。小学生の時に父親に叱られている時、少年は泣きながら「お母さんが見えなくなった」と言い出した。「お母さんが見えなくなった」という発言を診察した医師は、母親の体罰が原因で少年がこのような発言をしているとした。普通のどこにでもいる小学生の子供が母親がいるのに「母親が見えなくなった」などの発言することは、かなり問題のある発言であったと、考えられる。少年の幼年期は、母親から厳しく叱られまたは体罰を受け、そのたびに毎日のように弟をいじめ泣かせた。少年は、幼い頃から母親からの体罰による被害者であり、毎日のように弟をいじめる加害者であるという環境に育った。家庭における親・兄弟の親密関係の乏しさを背景に、弟いじめと母親からの体罰によって、幼少期の親子・家庭関係の発達が未熟になってしまったと考えられる。少年の母親は、少年を支配していた。母は、少年に対して、あらゆる点で他の子どもに負けることを許さないという考えであった。少年が、ハキハキしていなかったら格闘技を習わせた。母親は、体罰という方法で強制する態度を強め、子どもを支配していった。少年は、母親の体罰の中で分裂気質になっていく。分裂気質とは、感情がおもてに出なくなることであり、相手の受ける傷をおもいやらずに無慈悲な攻撃をするようになることである。普通の人が感情を荒げる時は、興奮したり、泣いたり、叫んだりすることで感情をあらわにする。分裂気質の人が怒ったり、悲しくなったりした時は、ただただ冷ややかになる。少年は、いままで普通に話していたのが突然だまりこんだり、口調から感情の起伏が抜け落ちたような喋り方になったりするようになった。幼年時代に受けた体罰が分裂気質につながり、のちの酒鬼薔薇事件への要因の一端となったと考える。

幼年時代を過ぎ少年の転機が起こる。少年の家族の中で唯一の味方であった祖母の死である。少年は、祖母の死に目に会うことができず、祖母の死に困惑する。少年は死について考え始めた頃、愛犬サスケが死亡したことによって、家のなかで心の休まる場所がなくなる。祖母、愛犬サスケの死に対して困惑した少年は、道にいた猫に石を投げて殺してしまう。少年は、猫が死んでいくところを見ながら死への関心を深めていく。少年は、「僕からおばあちゃんとサスケを奪った死とは何なのか疑問がわきそのために猫を殺した。」と言っている。このことから少年は、祖母とサスケの死をターニングポイントとして小動物虐待に走り始める。少年は、小動物がしばらく前まで活発に動いていたものが、死んでしまうともはや二度と動かず横たわっているという断層の不思議にしびれるような戦慄を感じ、これに浸るようになる。小動物殺害によって、自己が死を支配する者になるという要素を自分に取り入れることによって、少年は、祖母・サスケの死ショックのから逃れようとした。

猫を殺すことによってしびれるような戦慄(快感)を得ていた少年は、人を殺すことはどのようなことになるかということに興味を持ち始める。少年は、自分のよりどころとなる祖父を失ったため、自分の妄想の中に深く入り込むことになる。妄想の中では、「酒鬼薔薇聖斗」「バモイドオキ神」が登場する。少年は、バモイドオキ神とは、唯一信頼できる存在として創り上げられ、何も与えてくれず、姿も見えず、脳内宇宙にいると語っている。マスメディアの過剰報道の中では見逃されていたが、バモイドオキ神のもう一つの役割は、少年の自己嫌悪を紛らわす存在である。「酒鬼薔薇聖斗」とは、どのようなもので、どのようにでき上がったのであろうか。それは、少年が猫を殺し始めた小学6年生の頃に遡ることができる。猫を殺し始めた頃、少年は自己嫌悪を抱いていた。猫を殺し楽しんでいるのは違う自分であり、その異なった自分に「酒鬼薔薇聖斗」という名前をつけた。猫を殺し楽しむ自分を「酒鬼薔薇聖斗」とすることによって、自己嫌悪を紛らわせたのである。1997年5月4日、少年は、猫を殺しているうちに人を殺すことに興味を持ち、「酒鬼薔薇聖斗」として犯罪を起こそうと決意する。酒鬼薔薇聖斗事件は、少年の幼少期の体罰から始まり、祖父・愛犬の死によって死について興味を持ち、現実から妄想へと発展して、死の興味と妄想の肥大化によって殺人事件にまで発展したと考える。

第三章、仮説の結論について

私の仮説は、重大犯罪を起こした少年は、常に異常な状態から犯行を起こしてしまうというものであった。重大犯罪を起こした少年は、常日頃から「酒鬼薔薇事件の少年」のように、キレたら何をするかわからない少年であって、ナイフを所持し、異常な行動を取るということである。3つの事件を検討することによって、私の仮説の結論は、少年犯罪を起こす少年は常に異常で犯罪計画を立てているわけではないということである。考察の中で、マスメディアが少年犯罪の取り上げるにあたって、少年の凶暴性や事件の凄惨さを強調しすぎるということを痛感した。そのため、少年犯罪を起こす少年は、残酷でナイフを常に持ち歩き、キレれるとすぐに人を刺すというイメージを抱かされてしまう。私の仮説も、このマスメディアの報道から得たという可能性が高い。しかし、佐賀バスジャック事件の少年は、ただ親に振り向いて欲しいとサインを送っていただけである。両親に振り向いてもらいたくサインを送ることは、普通にどの少年でもすることである。佐賀バスジャク事件の少年は、普通の少年と同じようにサインを両親に送っていたが、両親との歪んだコミュニケーションを転機に、事件に引きおこす結果となった。佐賀バスジャック事件の少年は、常日頃から人を殺したい、バスジャックしたいという衝動があったわけではない。両親に振り向いてもらいたい、精神病院に入れられたことを逆恨みするという心理が混ざりバスジャックしてしまう。

一家六人殺傷事件の少年は、常に地域の中でどこかの家族を皆殺しにしようなど考えてはいたわけではなかった。この少年は、自分のサディスティックな性欲によって、女性の下着を盗み切り裂いたということが主なきっかけである。一家六人を殺傷する事件を引き起こす要因となったのは、自分が一番弱い立場であって、極端に他人との距離を気にしている気質である。覗き行為がばれたと動転してしまい、地域の中で弱い存在である少年は、行く場所(生きる場所)がなくなることを恐れた。少年が一家六人殺傷事件を起こしたのは、覗きをした行為が地域にばれないためであった。マスメディアが取り上げられる際、事件が重大であったため、少年の凶暴性が強調され、危険な少年が夜に忍び込んで一家を殺傷したということが強調されて報じられた。

酒鬼薔薇事件については、他の二つの事件とは異なっている。酒鬼薔薇事件の少年は、私の仮説に当てはまる。重大犯罪をおこす少年は、常に異常な状態であり、事件を起こすというものである。少年は、幼年期から異常な状態であり奇妙なオブジェを作ったり、流れる血の絵を何枚も描いたりしている。小学校6年生の時から猫・小動物を殺し始める。猫を殺し始めた少年は、死に対して快楽的なものを感じ始める。少年が死について快楽的になり、人を殺してみたいなどという異常な考えを抱いていたということが私の仮説に当てはまるのである。他の二つの事件との違い、この酒鬼薔薇事件の少年の場合には、事件を起こす心理的要因が、異常性を帯びていたという点で異なっている。

仮説の検討の結果は、酒鬼薔薇事件にだけあてはまることになった。酒鬼薔薇事件の強い印象が植えつけられていたために、マスメディアにおいて、社会において、大分一家殺傷事件・佐賀バスジャック事件の原因を、安易に異常な少年の犯行と片づける傾向があったということは否めない。その後、少年の重大犯罪を報道したり、考察したりするとき、ややもすると、類型的な思考に陥りがちであり、冷静にその要因を検討することが大切であるということが、多くの人々によって指摘されるようになってきた。

おわりに。

重大な少年犯罪として取り上げた三つの事件は、私の考えた仮説にあう事件は、酒鬼薔薇聖斗事件だけしか当てはまらないという結果になった。この結果は、酒鬼薔薇聖斗事件が少年の重大犯罪の初めての事件であり、連日事件についてマスメディアが報道したことが強く印象に残ったためだと考える。そのため、酒鬼薔薇事件のような異常行動をとる少年のみが犯罪を引き起こすと考えがちである。自分の身の回りにはそんな子供がいないと考えるから、身の回りにいる小さな子どもの変化に気づかないのかもしれない。少年犯罪を起こす少年のケースを考察してみると、幼年期の体罰によって分裂気質になるという可能性が高い。また、少年の両親が子どもとのコミュニケーションが不足すると、幼年期に発達すべき他人を大切に思う感情などが欠落することなどにつながる。少年犯罪のおこる要因は、身の回りの環境、特に両親との関係が大きく作用していくことになる。それゆえ、少年の一番近い環境、つまり家族が少年犯罪を誘発したり、抑止する可能性が高いとと考えられる。

参考文献

/body>