幼児虐待について

法学部 政治学科 03142334 三條 大介

はじめに

私が幼児虐待について論文を書きたいと思った理由は、第1にマスメディアでしばしば報道される虐待が、どのような原因によっておこなわれているのかが気になったからです。第2に2005年度前期ゼミの共通課題が「少年犯罪」であり、少年犯罪の原因としてしばしば虐待が指摘されていたからです。

私は、虐待というものは1つしか存在しないと思っていました。しかしゼミでの勉強により、虐待にも、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待、の大きく分けて4種類あることが分かりました。虐待というものの奥の深さ、事の重大さも分かりました。

なぜ、虐待は起きるのか。どうすれば虐待は事前に予防出来るのか。それは大変難しい事です。今すぐに答えは出ません、しかし、できるだけ解決に近づく何かを探し出し、早急な対応をしていかないと、これからの社会変化に対応できないと思います。少子化が続く中、子どもが大切な時代であるはずにもかかわらず、なぜ虐待などというものが発生してしまうのか、親はなぜ虐待をしてしまうのか、など問題は山積みです。私は1つ1つ事例を見ていかなければならないと思います。

今回はその中でも私の一番気になっている幼児(今回は出生直後〜小学生低学年程度)に対する虐待について虐待の定義などにも触れながら論文にしていきたいと思います

第1章  虐待について

第1節 虐待とは?

大きく分けると、虐待には4種類存在します。

身体的虐待・・・殴る、蹴る、首をしめる、投げ落とす、首をしめる、溺れさせる、逆さ釣りにする、タバコの火を押し付ける、毒物を飲ませるなど、子どもに対する身体的暴力のことをいう。

性的虐待・・・子どもに性交をおこなったり、性行為を行うこと。父親(義父、継父)が娘を対象にすることが多い。兄が妹にというように兄妹の間でおきることもある。家庭外で、知人や見知らぬ人から性的暴行を受けることも性的虐待と見ることができる。

ネグレクト〔放置、保護の怠慢〕・・・健康状態を損なうほどの不適切な養育、あるいは子どもの危険についての重大な不注意のこと。例えば、家に監禁する・学校に登校させない、重大な病気になっても医者につれて行かない、十分な栄養を与えない、ひどく不潔なままにする、などです。親がパチンコや買い物をしている間、乳幼児を自転車の中に放置し、熱中症で子どもを死亡させたり、誘拐されたりする事件もネグレクトの結果といえます。  

心理的虐待・・・「お前なんかどうして産んだんだろうね」などと言ったり(言葉による脅かし)、子どもからの働きかけに応えなかったり(無視)、拒否的な態度を示すことで、子どもの心を傷つける(心理的外傷を与える)こと。

虐待とは、上に述べた4種類が存在します。様々な事例があるが、概して、この分類のいずれかに当てはまるはずです。

第2節 乳児虐待

 まず、幼い子どもに対する虐待についてふれたいと思います。乳児の虐待の代表的なものに「殴打乳児」という言葉があります。この「殴打乳児」とは親やその子どもの保護者によって、身体的に虐待を受けている乳児のことを言います。この虐待の大きな特徴は親にあります。子どもはまだ話せる年齢でもないので、親に対する反抗などは考えにくくなります。また子どもからの反撃等も考えにくいものです。このような乳児に対する親の虐待行為は親の考え方に特徴があります。虐待をおこなう親またはその子どもの保護者は、子どものことを愛していると言います。親、または保護者が、愛し過ぎてしまうために、子どもの行動に対して心配しすぎて些細な事でも騒ぎ立ててしまい、虐待のつながってしまいます。

またこの「殴打乳児」は母親によるものがほとんどです。ごくわずかに父親からのものもありますが、ほとんどのものが母親からの虐待です。しかしそれはなぜなのか、はっきりとした理由は分かりませんが、私なりに資料をもとに仮説をたててみたいと思います。まず「父親および母親における子ども・教育への感情」という1994年のデータに、「子ども・育児への肯定的感情があるか」という項目があります。これは子育てが楽しい、子どもがかわいいといった感情です。この質問に対しては父親も母親も同じくらいの数値で肯定的に感じていました。次に「子ども・育児への否定的感情」これは、子どもに対してのイライラやストレスです。この質問に対する返答で差が出ました。母親は父親に比べ約2倍もの否定的感情を抱いていたのです。次の質問は「子どもとの一体感」についてです。これは、子どもが自分の分身のように感じるかといった質問です。この質問への回答には、父親、母親ともに差はほとんど感じられませんでした。

 上記の質問から、考えられるのは第2の質問での差がなぜ出たのかです。その理由は育児を主にしている親がどちらかによることで分かります。現在の日本では男性も女性も平等な社会を目指しているので女性も社会には多く進出しています。しかし、現状ではまだ女性が育児を、男性が仕事をといった考え方が完全に無くなった訳ではありません。そういった理由から母親は必然的に子どもと一緒の時間と過ごすことが多くなります。これが原因と考えられます。子どもと一緒の時間が増えると言うことは、自分の時間は減るということに繋がります。それにより、母親は子どもの良い所も多く見ますが、逆に泣き止まなかったり、自分の言うことを聞かなかったり、など子どものいやな面も多く見てしまうのです。父親は仕事から帰り、子どもの顔を見てかわいいと思ったり、休みの日に少し遊んであげれば自分は子育てをしていると錯覚してしまうのです。

このような、父親は子どもの良い点を多く見るから、子どもがかわいくてしょうがないという気持ちになると理解できます。母親は子どもに1日の大半の時間を費やし、自分の趣味も持てず、フラストレーションがたまるのも理解できます。

母親による「殴打乳児」が多い理由は、子育てによる、苛立ちや不安からのものと考えられます。特に責任感の強い母親の場合は、父親が何もしないから自分がしっかりしないといけないなどと感じ、子どもに目を配り過ぎたり、または愛情を沢山与えようと考えたり、考えればいくらでも出てきます。このような問題は父親の協力があれば解決できると考えられます。ですから、父親が子育てに参加しておらず、母親への負担が大きいために、「殴打乳児」が多発していると考えられます。

 「殴打乳児」はごく普通に行われているものだと理解されます。親、その子どもの保護者には虐待をしているという意識がないので、躾との境界線も大変難しいのです。全国児童虐待防止協会(NSPCC)の調べによると生後5ヶ月未満から23ヶ月(満2歳)までの子どもに対して「殴打乳児」に類する行為と判断されるものは、全体の62%もあるのです。これは驚くべき数字だと思います。しかし、これが現状ならばこの現状を受け止めて、これから先にどのように対応していくべきかを考えるのが先決だと思います。

「殴打乳児」には、「殴打乳児」の定義というものが存在します。その定義をまとめとして書いておきます。

「殴打乳児」の定義

1、 普通4歳未満、2歳未満ではもっと頻繁に行われている、幼少期の子どもへの虐待。

2、 無視などというネグレクトはめったになく、逆に心配性、所有欲(独占欲)の強さなど親からの過剰な愛情の犠牲者。

3、 虐待を行っているのは彼(彼女)を世話していると思われる親、保護者。

4、 医師の診断が困難で、病院に行ってもその事実は受け入れずに分かりやすい嘘をついてしまい、最終的には、自分から真相を顕してしまう。

「殴打乳児」は愛情の現われだと思われています。しかし、そのことが原因で幼い子どもが苦しむことはあってはならないのです。「殴打乳児」以外の虐待にも共通して言えることは、躾と虐待の境界線がはっきりしていないということです。今の所これは親の判断に委ねるしかありません。いかに愛していても、その愛情表現を暴力によっておこなうということは納得がいかないものがあります。これまでの統計から考えると、これから先も「殴打乳児」が無くなることは難しいと考えられます。ですから、この事実を前提にして、これからの少子化社会における子どもの存在を考えていかなければならないでしょう。

第2章 虐待の起こる原因

 第1節 虐待の現状

現在では、虐待という言葉がごく一般的に使われています。インターネットのニュースで虐待に関係する記事を検索しようと思えば、数多くヒットします。最近では、新聞の社会面に毎日のように虐待の記事が掲載されています。私はそれらの記事を見て、本当に虐待が行われているのかということが大変気になっています。マスメディアとは確かに我々の社会に無くてはならない存在です。マスメディアが無ければ私たちは社会の流れを把握できません。しかし、マスメディアは、時には誤った、あるいは誇張した記事を記載してしまうことがあります。マスメディアが報道することは危険なことがあり得ます。虐待に関する記事にもそれらしい事は沢山書いてあります。しかし同じ事例でもいくつかの見解を聞き、見て、自分なりの意見に基づいて解釈する必要があります。これからいくつかの事例を挙げますが十分、虐待現象を分析するに足るものにするのは、困難です。さらに材料を集めて、多面的な角度から分析しなければなりません。現在の所、提示できる事例にとどめることにします。

第2節  ケース 1(身体的虐待)

第1の事例は典型的な身体的虐待の事例です。

母親は、自分自身が実父から身体的虐待と養育の放棄を受けたことがあり、児童養護施設で育っています。母親は、児童の異父兄に対する傷害致死容疑で服役し、出所後再婚して児童を引き取りました。しかし、児童に対して身体的虐待が続きました。母は、虐待を認めていますが、児童相談所の指導には従いません。児童は児童養護施設で暮らしていますが、養父が児童の引き取りを希望しています。

家族状況

養父(44歳) 会社員

実母(32歳) 主婦。パート勤務

児童(8歳、小学2年生・女)

異父弟(2歳)

家庭への引き取り後、当該児童の母から、殴る、蹴る、たばこの火を押しつける、布団叩きでたたく等の暴行が加えられるようになりました。母は父子家庭で育ちました。母の父親(当該児童の祖父)には飲酒癖があり、母の母親(同祖母)も、幼いころからしばしば暴力を振るい、母は、犬小屋に寝たこともあるなど、養育不十分な家庭で成長しました。このため、母は小学校2年の時から児童養護施設へ入所措置され、高校を中退するまで施設で育ちました。母は、児童を引き取ってからも児童に対する愛情がわかず、また、感情をコントロールできずに児童に暴力を振るい続けました。頭の中が真っ白になり、ハッと我に返るなどの状態があり、治療を受けたいとも思っていたとのことでした。学校からの通報を受け、児童福祉司が調査した結果、虐待が認められたので、直ちに一時保護しました。児童は母に対する不信感が強く、母との生活を拒否しました。また、母にも当該児童を養育していく意思がありませんでした。父は温厚な性格で、当該児童も慕っていますが、父が仕事で外に出ている間、児童に対する母の虐待が再発する可能性が高いと判断されました。母は、虐待を認めていますが、だんだん児童相談所との接触を拒否するようになりました。そのうち、母は家出をし、その後、児童の養父とは協議離婚して、親権者は養父となりました。児童は現在、児童養護施設で暮らしていますが、養父が引き取りを希望しています。面会や外泊を続けて、引き取り時期を検討しています。

この事例の典型的なところは、第一に母が幼少期に自分の父親からの虐待を受けているということです。これは自分が受けていたことで自分の子どもに対しても同じことをしてしまうという身体的虐待の典型です。おそらくこの母は十分な愛情を受けて育ってはいないと思われます。そのため子どもの愛し方が分からないと思われます。虐待の原因を母の父(祖父)までさかのぼるのは極端かと思われますが、遠い原因はそこにあったと考えられます。この事例は、虐待が連鎖する可能性を示唆しています。

 第二に、一度は児童相談所からの指導を受けているのにも関わらず、また同じことをしてしまうという点です。この母親も虐待を行うことが楽しいと思っていたとは考えられません。しかし、同じことを繰り返してしまうのです。このことは虐待をする親に共通した点であるといえます。もちろん全ての虐待者が更正出来ないわけではありません。しかし児童への虐待は子どもからの抵抗も少ないために、親は自分の過ちに気づくのが遅くなってしまう可能性があります。

 第3節 ネグレクト

ネグレクトの事例は多く存在します。しかし、ネグレクトに関しては、いくつかの種類があるので、まずその分類をおこないたいと思います。第1章で説明したように、ネグレクトとは育児放棄、子どもの無視などです。しかし程度によりその形を変えてしまうのがネグレクトなので説明したいと思います。

一般的ネグレクト・・・子どもの食事の世話をしない。体や衣服が汚れていてもそのままにしておく。

医療的ネグレクト・・・子どもが病気で医療を必要とされる場合でも、病院へ連れて行かない。

教育的ネグレクト・・・子どもが学校へ行かなくても無関心でそのまま放置する。

情緒的ネグレクト・・・子どもに必要な情子どもに予防接種などの必要な保健上のケアを与えない。

保健ネグレクト・・・・子どもに予防接種などの必要な保健上のケアを与えない。

消極的ネグレクト・・・

1、子どもの健康的な成長のためにどういった養育が必要かに関する知識を親が持ち合わせていない場合に生じる。

2、知識はありながら、子どもとは直接的に関係の無い何らかの要因(経済的要因等)のため、養育や世話ができなくなった場合に生じる。

積極的ネグレクト・・・親が子どもの成長に必要な養育に関する知識を持っており、物理的にも可能な状況にありながら、何らかの理由で十分に養育しない場合に該当する。

これらのことからも分かるように、親とは子どもに対して親密な関係にならなくてはならないはずであるが、その関係がつくれない現象です。親とは子どもが母親のお腹の中にいる時から親なのです。育児放棄などということはあってはならないことであって、いかに子どもに愛情を持って接していくかが大切なのです。そのためには、最低限以下の事が必要です。

1、親は子どもの衣食住をはじめ、体の健康に必要としている栄養など養育に必要な事には応えなくてはなりません。

2、親は子どもを、肉体的な危険や害から守らなくてはなりません。

3、親は子どもの愛情や安心感に常に注目し、心の面で必要としていることに応えなくてはなりません。

4、親は子どもに道徳観念と倫理観を教えなければならない。

これらは、本来普通に行われているものです。しかしネグレクトをしてしまう親はこの1番大切で、大事な部分を欠いているのです。そして、ネグレクトは発見することが難しく、全般的に子どもは体を揺すったりして落ち着きがないことが多い。それに気づくためには、その子の性格などを加味して注意深く観察をする必要があります。児童側は、虐待を受けている親に自分が言った事が伝わると、もっと大変なことになると考え、虐待を受けていても本人は親に執着し、虐待を受け入れて自己否定感を根強く抱いてしまっている場合もあります。しかし、多くの児童においては心的ストレスが表面化してきます。最近では、保育園・幼稚園・小学校などで、教員に対して虐待早期発見のための資料も配布されているようです。

ネグレクトは、虐待の中でも一番酷い虐待だと思われます。なぜなら他の虐待は親からの何らかの明確なアクションがあるからです。暴力を振るう、性的な暴力を振るう、言葉による暴力を振るう、など、虐待はひどいものです。しかし、ネグレクトはそのような親からの攻撃がある訳でもなく、ただ親からの養育を受けられないのです。親になった以上は自分の子どもを育てる義務があります。その義務を果たせないのであれば親になる資格など無いに等しいと思います。ネグレクトは本当に辛く、切ない虐待だと考えます。

第4節 ケース 2(性的虐待)

ここでは、性的虐待についての事例を挙げます。性的虐待と言われると親からの性行為などと思ってしまうかもしれませんが、それだけではありません。親が子どもに対して猥褻な画像や写真を見るように強要することなども立派に性的虐待になります。これらのことは、子どもにとって発育の妨げになります。まだ何も分からない子どもが無理やりに見せられる苦痛を考えるとたまらない気持ちになります。

今回の事例は、中学2年生の事例です。しかしみなさんに性的虐待の何たるかを理解していただくには比較的分かりやすいものになっています。最後に私の意見も述べたいとおもいます。

家族状況

 実父(46歳) 20歳で上京。以来、会社員。

実母(43歳) 児童が4歳の時、借金を作って家出。その後、所在不明。

 児童(16歳・女)

両親の離婚後、児童は祖父母と暮らしていたが、中学2年のとき帰省した父から性的関係を強要されました。中学校卒業後、父と一緒に暮らし始めたが妊娠し、中絶をしました。児童は警察に相談し、児童相談所に通告がありました。児童の精神的・心理的な影響が大きいため、一時保護後、児童は児童養護施設に入所しました。児童が4歳のとき、父母が離婚していたため、児童は祖父母とともに、地方のある都市で生活を始めました。父は、単身で東京に移り生活していましたが、中学2年の冬、帰省した時に児童に対して性的関係を強要し、その後もたびたび性的虐待を加えました。

中学校卒業後、父が迎えに来て、児童は上京し、父との共同生活が始まりました。同居して半年後に妊娠しましたが、父が金を出し、中絶させました。その後は、性的関係を拒否していましたが、父が身体に触れたり、布団に入って来ようとするため、夜も安心して眠れない日々が続いていました。児童は、父との同居生活が疎ましくなり、意を決して警察署に出向き相談し、警察から児童相談所に通告がありました。児童相談所は、児童を直ちに一時保護しました。 児童に、父の処罰についての意向を聞いたところ、「このことで父が捕まると、田舎の祖母が心配するので、父を処罰することは望まない」とのことでした。心理診断をしたところ、児童には、これまでのことが強い心的外傷体験となっており、ストレスに弱く、今後の生活でも周囲の大人の細やかな支援が必要であるとの結果が出ました。実父による性的虐待は、再発予防が困難であり、また、児童への精神的な影響が非常に大きいため、家庭復帰は困難です。児童も希望し、また、父も承諾して、児童養護施設に入所しました。

この事例は、父による子どもへの性的な虐待です。性的虐待は再発を防止することが難しいとのことです。身体的虐待などは外傷が残るため周りから見ても発見をしやすいものです。しかし今回の事例のように、妊娠させるなど重度のものになればわかりますが、ただ触ったり、画像を見ることの強要では、親からの口止めなどもあり、周りには見つけづらいものになっています。解決策は正直に言うと見当もつきません。しかし、絶対に見つかるはずです。ですから、これからも性的虐待については深く調べていきたいと思います。

第3章 虐待の防ぎ方

第1節 各機関での対応

本章では、児童相談所、保育所、幼稚園での虐待に対する対応について述べていきます。基本的には、虐待は一番身近な親や家族からの虐待が基本になっています。もっとも頼りになるべき存在が自分を攻めてくるのですから、残るのは通っている機関に信号を出すしか子どもには手段が残されていないのです。その事を踏まえて、各機関の対応、教育方針を調べて行きたいと思います。

(1)児童相談所での対応

 児童相談所の児童虐待への関わりは、「強制的な介入」が強制されがちです。それは、児童相談所が他の機関にない特別な権限を有しており、それを活用することなしには、児童虐待への援助がなかなか進まない面があるからなのです。虐待や不適切な養育の原因が育児知識の不足であったり、育児不安からくる事例については、子育て支援の視点から援助を行わなければなりません

例えば、地域で行われている子育てグループを紹介したり、保健婦に家庭訪問をお願いしたり、保育所や幼稚園が行う公開保育などの子育て支援サービスを紹介するなど、育児疲れからの解放を図って行きます。また、本人が求める場合はもちろん、職員が必要と感じた場合は、保護者を対象にカウンセリングも行っています。

(2)保育所での対応

保育所は児童福祉法に基づき「十分に養護の行き届いた環境の下に、くつろいだ雰囲気の中で、子どものさまざまな要求を適切に満たし、生命の保護及び情緒の安定を図る」ところである、とあります。保育者の被虐待児童への対応では、1、子どもの安全を確保する。2、保育所に楽しく通う働きかけをする。3、子どもや保護者を総合的・客観的に見る。4、子どもの24時間を視野に入れる、などの事柄が考えられています。特に、3では、その時々の状況に応じながらも、保護者のペースに巻き込まれない、客観的な冷静さが大切です。

保護者への対応では、1、全面的に受け入れる。2、支援のポイントを定める。3、相談しやすい雰囲気を作る。4、他の保護者との関係を取り持つ。などの事柄が考えられます。特に、1では、保護者からの不満に保育者が取り合わないでいると、保護者は自尊心を傷つけられ、保育所に子どもを通わせる事を嫌がるようになります。どんなに危うさを抱えている人も、その子どもの保護者としてのプライドがあります。そのプライドを思いやり、保護者の気持ちを全面的に受け入れることが大切なのです。

(3)幼稚園での対応

 幼稚園では保育入園児に比べて、身体的虐待は比較的少なく、ネグレクトも保育園に比べて少ない。そのかわり、子どもへの過剰期待による圧迫や逆に心理的拒否が多くなっています。(心理的虐待) 保育所の子どもへの対応では、1、子どもにとって「安全な場所」の提供。

2、親とは違う価値観の提供。3、子ども同士で遊ぶことで、本来の「子ども」として自由に振る舞える。4、子どもの自己表現を奨励する中で、「自分が大切にされる、自分の感情や考えを表現する」体験を積む。5、適度の自己主張と適度の自己制御を学ぶ、などの事柄が考えられます。

保護者への対応では、1、親子で楽しく遊ぶ方法を教える。2、子育てのちょっとした工夫や知恵の伝授。3、母親が持つ「子どもへの拒否感」をそのまま受け入れる。4、母親同士の出会いや話し合いの場、居場所を保障する、などの事柄が考えられます。

各機関では法律に基づいた行動をします。これは国が決めていることなのでどうすることもできません。私の考えは、保育所、幼稚園の対応にもっと裁量を与えてもよいという考えです。児童相談所での対応には特別な権限があるのに対し、児童たちが直接接する保育所、幼稚園には権限がないのでしょうか。これには何らかの意味あいであると思いますが、保育士たちは子どもの教育、養育のスペシャリストなのです。その人たちに権限を与えることにより、虐待がもし減ったならば、私は良いことだと考えます。もし減らないにしても、増えなければ良いのです。 

 第2節 疑いの目

疑いの目とは、周囲が「もしかしたらあの子は虐待をうけているのではないか」や「最近元気がないな」などという周りの人間からのアプローチです。この節では、「マルトリートメント」という言葉を使います。「マルトリートメント」とは、大人の子どもに対する不適切な関わりを意味します。虐待よりも広い概念です。

それでは、マルトリートメントを受けているのではないかと気をつけなければならないのは、どのような子どもなのでしょうか。子ども虐待に関する研究から、注意を要する子どもの特徴として、次のようなことがあげられています。

乳児の様子から

1、 特別な病気がないのに身長や体重の伸びが悪い。

2、おびえた泣き方をする。

3、抱かれると異常に離れたがらず、不安定な状態にある。

幼児の様子から

1、雰囲気が暗く、喜怒哀楽の表情を示さない。

2、おやつや給食の時にむさぼり食べる、食べ物への執着が強い。

3、特別な病気がないのに身長や体重の伸びが悪い。

4、基本的な生活習慣が身についていない。

保護者の様子から

1、子どもの扱いが乱暴で冷たい、罵声や暴力行為がある。

2、語りかけをしない。

3、イライラしてよく怒る。

子どもの行動・情緒面からの問題は、必ずしも虐待が原因であるとは言い切れないこともありますが、子どもの以上の様子に早く気がつく事は、早期発見、早期解決の糸口にはなりえるのです。

  あとがき

今回の論文をまとめるに至っていろいろな本、サイトを読ませていただきました。どれも私には難しく、理解するのには大変な時間がかかりました。しかし、今回の論文を書いたことにより、私の関心はより深いものにもなりました。虐待は許されてはならない犯罪だとおもいます。しかし、減らすことは並大抵の努力では、出来ないのです。私は現在のゼミに後1年所属します。今回の論文には満足していません。ですから、来年こそはもっと解決策などまで発展できる論文を作成し、私の論文を読んでくれた人が、虐待についての理解を深められ、何らかの手助けに出来れば幸いです。

参考文献

・ジーン・レンボイツ(沢村 灌・久保 紘章訳) 『幼児虐待と予防』 星和書店、 1977年
・日本家族心理学会編 『児童虐待 家庭臨床の現場から』 金子書房、1997年
・柏木 惠子・高橋 惠子編者 『心理学とジェンダー 学習と研究のために』 有斐閣、 2003年
・上野 加代子・野村 知二 『児童虐待の構築』 世界思想社、2003年
・春原 由紀・土屋 葉 『保育者は幼児虐待にどうかかわるか』 大月書店2004年