犯罪被害者支援

はじめに

第一章 犯罪被害者の実態

第一節 被害者の抱える様々な問題

第二節 被害者の心理

第二章 被害者支援の歴史

第一節 日本の被害者支援の起源とその展開

第二節 諸外国の被害者支援の起源とその展開

第三節 日本と諸外国の比較

第三章 被害者支援をより良くしていくために

おわりに

参考文献

はじめに

近年、凶悪な犯罪が起き、いつ自分や家族が被害に遭うかわからないような時代にある。そこで私が注目することは、被害者の支援である。事件はニュースで取り上げられ、当たり前のように加害者の情報以上に被害者の情報が多く掲載、放送されているような気がする。私はもっと被害者をサポートすべきだと考える。そこで被害者の実態、被害者支援の起源、今後の課題を述べていきたいと思う。

第一章 犯罪被害者の実態

第一節 被害者の抱える様々な問題

犯罪被害者は、まず、命を奪われる、怪我をする、物を盗まれるなどの生命、身体、財産上の直接的な被害に苦しめられる。被害直後の精神状態は、被害者の多くが不安を感じ、信じることができない、自分を責めるなど、精神的に不安定に陥る。また、事件に遭ったことによる精神的ショックや身体の不調、医療費の負担や失職や転職などによる経済的困窮、捜査や裁判の過程における精神的・時間的負担や、周囲の人々の無責任な噂話やマスコミの取材、報道による精神的被害などの二次的被害がある。被害者本人だけでなく、被害者の家族・遺族が二次的被害に苦しめられる。

ここで私は、周囲の人々の無責任な噂話やマスコミの取材、報道による二次的被害に注目したい。まず、励ますつもりで、かえって被害者を傷つける友人・知人の言動が後を断たないことや、被害者は勘が鋭くなっているため「お気の毒に」という哀れみの視線や、被害に遭うにはそれなりの落ち度があったからだと思う周囲の人々の中傷に、人間に対する不信感を大きくしていってしまうことが多くみられる。この他に、極度の悲しみの中では家族もお互いを支え合う力や、相手を思いやる心のゆとりもなくなり、互いに傷つけあって家族は崩壊しがちになってしまう。また、メディアの報道姿勢は、被害者の心情を理解せず、プライバシーを侵害して読者の興味を引く内容になりがちである。

報道の主な問題点として、

@放置される被害者の現状や抱える問題等を伝える報道が少ない。

A加害者の人権を強調した記事は多いが、その加害者によって被害を被った被害者の人権を考慮した記事は少ない。

B事件に直接関係のないプライバシーを暴き出し、「被害に遭うにはそれなりの落ち度があったのではないか」と思わせる記事が多い。

C見せるため、読ませるための誇大な報道になりがち。

D事実と異なることを書かれることにより、被害者に対する社会の偏見を助長するなどが挙げられる。私は周囲の人々の対応よりメディアの記事、報道の方に問題があると考える。報道機関はもっと被害者のことを考える必要がある。また、被害者に関する情報の保護のために、警察による被害者実名の発表を匿名発表にした方が良いのではないかと考える。それはやはり、事件直後の過激な取材攻勢、付きまとっての強引な取材、プライバシーの侵害などの二次被害に繋がる恐れがあるからである。この件に関しては、内閣府に設置された犯罪被害者等基本計画検討会において検討され、「警察による被害者の実名発表、匿名発表については、犯罪被害者等の匿名発表を望む意見と、マスコミによる報道の自由、国民の知る権利を理由とする実名発表に対する要望を踏まえ、プライバシーの保護、発表することの公益性の事情を総合的に勘案しつつ、個別具体的な案件ごとに適切な発表内容となるようは配慮していく」と、基本計画案に記された。被害者にとって少しでもプラスになるように進んでほしい。

第二節 被害者の心理

被害者が抱える問題の中でも精神的被害は深刻で、犯罪の被害を受けた後は、一種のショック状態が続き、身体にも心にも変調をきたすことが多い。しかしこれは異常なことではなく、突然大きなショックを受けた後では誰にでも起こり得ることである。被害者の心の傷の回復には、周囲の人々が、被害者を責めたり、無理に励ましたりすることを避け、理解し、共感また支持することが大切である。

主な被害者の反応は、身体的反応、感覚的反応が挙げられる。身体的反応は、緊張・動悸・下痢・吐き気、不眠・悪夢、食欲不振であり、感覚的反応は、感覚・感情が麻痺する、現実だという感覚がない、自分が自分でないと感じる、記憶力、判断力の低下などである。これらのような反応と同じように長期にわたる障害をもたらすような精神的な傷をトラウマ(心的外傷)という。トラウマとなる主な出来事として、@人間の生命あるいは身体に対する深刻な脅威、A自分の子ども、配偶者、身近な親族・友人に対する深刻な脅威・危害、B家庭あるいは共同体の突然の崩壊、C最近、自分以外の人間が事故・暴力のせいで重傷・死亡した事件を目撃した、D家庭・親友に対するひどい脅威・危害(誘拐、拷問、殺害など)を知った、などが挙げられる。いずれも、通常の人間の体験からほど遠い、強烈な出来事である。また、トラウマを受けた人の症状として以下のものが見られる。

非行問題や少年犯罪の対策が議論されるなかで、人々の間にかなり大きな「非行観」の対立があるという事実も顕著になってきている。人々が、非行という言葉に対して抱くイメージはさまざまである。非行の一般的な概念には、侵害性と自損性という2つの要素が含まれている。非行少年のイメージとして、性格と環境の両面で問題のある少年、また成人犯罪者と比べて立ち直る可能性が大きい者として観念されている。このような非行および非行少年の一般的概念を構成している諸要素のうち、どれを重く見るかによって非行観の対立は生まれる。このように非行観の対立が存在するからこそ、少年法に対する意見も異なってくる。実際これこそが少年法の中でも完璧だという法律は存在しないのかもしれない。それほど少年法という法律は難しいのである。しかし、だからといってそこで立ち止まるのではなく、少年・少女が社会復帰できるようになる理想の少年法に近づくためにも努力が必要である。

@恥…被害を受けたことを「恥ずかしい」と思う。被害者は加害者と同様に特殊な人間だという感覚があって、自分が被害に遭ったときに、自分が恥ずかしいと強く思ってしまう。

A自責…被害者本人に全く責任が無い場合にも、自分に責任があると感じてしまう。

B服従…自分という人間が「大切なもの」「守るべきもの」という感じを失い、自分が無力で卑小になってしまった感じを持つ。

C加害者に対する病的な憎悪…「加害者を苦しませれば、被害がなかったことになる」というような病的憎悪。

D逆説的な感謝(ストックホルム症候群)…被害者が、加害者に共鳴し、同情的になる。

E汚れてしまった感じ…レイプ被害を受けた人は、強くこういう感じを持つ。

F性的抑制…性犯罪の被害に遭った後、性的活動が縮小してしまう。

Gあきらめ…犯罪が重なったりすると、もうこういう状態を変えることができないと絶望し、あきらめる状態になる。

H二次受傷…警察や医療によって、被害者が再び傷つけられるという場合や、マスコミの取材が乱暴で、間違っていても訂正しない場合など。

I社会経済状況の低下…被害によって社会経済状況が悪化する。

以上述べてきたようなトラウマの症状は、被害者当人だけではなく、友人や家族、時には事件の目撃者にも表れることがある。

この問題で、最近よく知られるようになったのが、心的外傷後ストレス障害(PTSD)である。このPTSDは「病気」というよりは、「正常の人の・激しいストレスへの正常な反応と連続したものと考えるほうがふさわしい」という考えが一般的である。PTSDとはどのような症状がみられるのか、主要な症状を挙げてみる。

@進入…事件の記憶が、本人の意志とかかわりなく「侵入的」に甦る。通常の記憶とは違って、苦痛な感情を伴い、しかも自分でコントロールすることができない。もう一度事件の中に投げ込まれたように、同じ恐怖を体験することもある。

A他のストレス…失業・離婚・死別など、人生のストレスを経験したばかりの人は、新たな被害からより重大な影響を受けやすく、回復にも時間がかかる。

B早期支援の有無…被害の影響を小さくするような危機介入的支援を受けた人は、それを受けなかった人よりも回復が早い。

C社会的支援の質…家族・友人などとよく話し合える機会に恵まれているか否かが、回復の程度や期間を左右する。

これらのことを、どれだけの人が理解しているであろうか。今日、凶悪な事件が目立つようになってきたが、大体の人は他人事だからといって済ませてしまう。実際私もこのテーマを選ぶまで、犯罪被害者に対して無関心であった。しかし、被害者を救うには、まず周りの人の支援が絶対必要である。そのためには、少しでも多くの人に理解してもらい、関心を高めていくことが求められる。

第二章 被害者支援の歴史

第一節 日本の被害者支援の起源とその展開

日本の被害者支援の動きは、1970年代に高まった被害者補償制度の立法化運動に始まる。それ以前から、犯罪被害者の遺族らが組織する「殺人犯罪の撲滅を推進する遺族会」や「被害者補償制度を促進する会」などの運動や、被害者への刑事補償制度導入の提案は存在したが、犯罪被害者対策についての社会的な関心を集めるには至らなかった。しかし、1974年に「三菱重工ビル爆破事件」で状況は一変した。この事件では、無関係の通行人を含めて、死者8名、重軽傷者380名に及ぶ被害が発生した。このような爆弾テロや通り魔的殺人などいわれのない犯罪の被害に遭った者に対して、当時のわが国には、何らの救済措置も存在しなかったことから、国家的な救済の必要性が叫ばれるようになったのである。その後、社会の関心は薄れたが、性犯罪被害者に対する援助活動が見られるようになった。

1990年代に入ると、被害者支援の動きが活発化していく。まず、犯罪被害者の精神的な支援を行う専門家の組織として、1992年に犯罪被害者相談室が開設された。ここでは、精神医療の専門家によって、犯罪被害者やその遺族の精神的なショックを和らげるための電話や面接によるカウンセリングが行われた。

次に、民間ボランティアによる被害者支援組織も相次いで設立された。これらの組織では、被害者からの電話による相談を受けるほか、情報の提供や関係機関の紹介を行う。さらに、1998年には、「全国被害者支援ネットワーク」が結成された。また、被害者や遺族らによる自助グループ結成の動きも見られた。例えば、1991年に「全国交通事故遺族の会」が、1997年に「少年犯罪被害者当事者の会」が結成された。これらの自助グループでは、被害者の相互支援活動とともに、被害者の観点に立った刑事司法改革の必要性を訴える運動を展開している。そして、刑事司法関係機関による被害者支援体制の強化が図られつつある。例えば、捜査段階では、警察庁が1996年に「犯罪被害者対策要綱」を制定し、全国の警察において被害者対策室の設置や性的犯罪の被害者を担当する女性警察官の配置などの被害者対策を実施した。また、被害者に対する情報提供を目的とした「被害者連絡制度」も導入した。被害者連絡制度では、事件担当捜査員によって捜査の進行状況などに関する情報が提供されるほか、被害者からの照会に適切に応じるため、警察署において被害者連絡担当係が指定されている。この被害者担当係は、被害者からの各種照会に応じる窓口業務のほか、被害者連絡の実施状況の管理、被害者連絡を担当する捜査員に対する指導などを行っている。

今日の被害者対策は法的整備の推進がみられる。これまで、被害者対策は、民間ボランティアを中心とした支援団体による活動に負うところが大きい。そして真の被害者支援を目指すためには、法的整備が必要であるとして民間ボランティアは運動を展開した。例えば、全国被害者支援ネットワークは、1999年5月に被害者の権利宣言を公表し、「犯罪の被害者を助けることは、本来、社会当然の責務である」として、被害者が本来的に有する7つの権利を揚げ、立法化に向けた運動を進めた。@公正な処遇を受ける権利。A情報を提供される権利。B被害回復の権利。C意見を述べる権利。D支援を受ける権利。E再被害から守られる権利。F平穏かつ安全に生活する権利。これらをみると、権利として認められて当然のものばかりである。いかに犯罪被害者が放置されていたかが分かる。また、日本弁護士連合会は、1997年に設置した「犯罪被害回復制度等検討協議会」において、被害者基本法の試案作りを進めていた。そして1999年5月に「犯罪被害者基本法」の要綱案を答申した。要綱案の骨子は、第1に、基本理念として、「被害者の権利の権利性」を明確にした。そこでは、被害者を保護の対象ではなく、基本的人権の尊重の観点から支援される人権の享受主体であるととらえるとともに、被害者に対する差別的扱いを禁じた。第2に、被害者の被害回復と社会復帰を速やかに実現するため、「国及び地方公共団体がなすべき責務」を明らかにすることを求めた。具体的には、@被害者要請に応じて経済的・物理的・精神的支援を行える制度の構築、A被害者の刑事司法への関与(捜査、裁判の進行状況の通知、刑事記録の閲覧、意見陳述)と保護(プライバシーの保護、証言妨害・報復からの保護)を行うための制度の構築、B被害者支援のための教育・啓蒙活動の充実(被害者実態調査の実施、警察・司法機関・ボランティアなどの研修制度の整備、被害者の問題についての啓蒙活動の実施)、C犯罪被害者支援会議の実施が揚げられた。第3に、上記のような被害者の権利を認めるにあたって、被害者及び被告人の権利を不当に制限してはならないとした。

第二節 諸外国の被害者支援の起源とその展開

被害者支援の先進国とされるイギリスやアメリカでは、今日では、犯罪被害者支援がすでに社会福祉サービスの一種として定着し、その充実を促す法令が制定され、ボランティア援助組織を中心に、全国的な支援ネットワークが構築されている。しかし、人権・福祉問題にきわめて敏感な社会を有する英米両国においても、歴史的に見ると、犯罪被害者支援への全国的な取り組みは、開始されてからまだ日が浅い。被害者支援の開始がこれほどに遅れたのは、犯罪被害者の実態が正しく伝えられなかったことによる。

いくつかの国を、具体的に見てみる。

@ドイツには、被害者援助組織として「白い環」がある。今では世界的に著名な「白い環」は、1976年に設立された非営利団体であり、今日では、オランダ、ベルギーなどの近隣諸国を含めて、約400箇所もの支部を抱え、支援会員約7万人、ボランティア相談員2100人を数えるまでに発展した。「白い環」の活動内容は、(1)被害者に対する精神的支援、(2)警察などに接触する際の被害者への助言や法定への付き添い、(3)他の援助機関に関する情報の提供やそうした機関と被害者の仲介、(4)弁護士費用の援助、(5)被害者補償の適用を受けるための経費の援助、(6)医療費などの援助、(7)被害者や遺族などに対する支援プログラムの提供など広範囲に及ぶ。また、被害者援助活動とは別に、(1)犯罪予防の啓蒙活動、(2)防犯技術の指導・アドバイス、(3)刑事司法機関との連携などの活動にも力が入れられている。こうした活発な活動を支える経済的基盤は、会員の支払う会費、寄付金、交通関連事犯の罰金の一部割り当てによって支払われる。

Aアメリカにおける被害者支援をみてみると、1960年代に犯罪発生率が急激に上昇したことや、1966年に政府によって行われた被害者調査で、警察に通報されない被害が非常に多いことが明らかになったことなどから、被害者支援活動に公的資金が投入されるようになった。これを契機として、各種の被害者支援活動が活発に行われるようになった。アメリカで被害者支援が大きな広がりを見せたのは、もう1つ大きな理由がある。それは、ヴェトナム戦争帰還兵に多発した、精神的外傷体験に基因する精神障害についての研究と、治療法が進んだことである。これが契機となって、被害者支援の重要性が再確認され、多くの精神科医及び心理臨床家が民間支援者と連携して被害者の心のケアにかかわるようになり、社会における支援の輪がさらに大きく広がったのである。 今日アメリカでは、様々な被害者援助組織が存在する。こうした被害者援助組織のうち、全国規模のものとして、被害者援助機構(NOVA)と全米被害者センター(NVC)がある。このうちNOVAは、1997年に設立された民間主導の非営利団体で、本部をワシントンDCにおいている。NOVAの活動内容は、全米各地で被害者に対する直接的な援助活動を実施している各団体への支援、団体間の連絡調整、研修、情報の提供などが中心であり、NOVAが直接被害者の援助活動を実施するケースはほとんどないが、犯罪被害者対策の充実を目指したロビー活動を積極的に展開している。各州で立法化された被害者の権利章典や犯罪被害者法などは、そうしたロビー活動の成果といえる。 これに対し、NVCは、1985年に設立された民間団体で、犯罪被害者に関する各種データの収集、被害者援助活動のモデル・プログラムの開発、被害者援助ボランティアに対する研修、被害者援助のための啓蒙活動などを実施している。NOVAやNVCの活動資金は、個人や団体による寄付金のほか、犯罪被害者法によって認められた連邦政府による被害者補償プログラムや被害者援助プログラムへの経済的援助によってまかなわれている。

Bイギリスでは、1974年に、侵入盗難被害者への実際的な支援を行うプログラムが、ボランティアによって地方都市において実施された。当初、活動の主な目的は、犯罪者の更正、社会復帰を円滑にするための、被害者の被害感情の緩和にあったが、被害者支援の実施のなかで支援を必要とする被害者の実態が明らかになるとともに、その充実が図られた。1979年に、全国被害者支援組織協会として全国組織となり、ヨーロッパ最大の支援組織へと発展した。全国被害者支援組織協会は、実際の支援活動のほかに、被害者支援への理解を社会一般に広めるための啓発、広報活動も積極的に行っている。

第三節 日本と諸外国の比較

日本と諸外国を比較してみられる共通点は、民間によって被害者支援が行われていることである。そこで民間の支援組織とボランティアについてみていこうと思う。

日本の民間支援組織において提供される支援サービスは、電話相談が中心であるが、週日稼働している組織は半数にとどまり、稼働時間もほぼ日中の時間帯に限られている。そのほかに、ほぼ半数の組織において面接相談が並行して行われている。面接相談では、電話相談でその必要を認められた事例に対して行われるのが一般的で、一部の組織では、臨床心理専門家や精神科医による継続的カウンセリングサービスも提供されている。一方で欧米国を中心とした被害者支援の先進諸国では、実際的な支援を民間のボランティアによる支援組織が行っているところが多い。民間のボランティアが行われる利点は何なのか。

@ボランティアは時間的にも比較的余裕があり、柔軟に対応できる。

A少数の専門家ではなく、多くのボランティアが活動に参加することで、より多くの被害者により広い範囲の支援を行うことができる。

B被害者支援に関心をもつボランティアやボランティア希望者が、研修や実際に被害者に接することを通して、被害者や被害者支援についての理解が深まる。

C被害者や被害者支援についての理解を深めることが社会的な啓発活動にもなり、二次被害を防ぐことにもつながる。

D被害者の孤立感を和らげる。

これらの民間支援組織が組織を立ち上げ、運営していくためにはいくつかの条件が必要となる。まず、組織が活動するためには資金が確保されていることが必要である。直接活動にかかわるための人件費はボランティアの参加で大幅に割愛できるが、事務局の設置ための諸費用や、維持費として光熱費や通信費などの資金がなくてはならない。また、ボランティアが活動していくには、それを統括的にみて、ボランティアをマネジメントしたり、組織の運営に責任をもって携わる者がいなくてはならない。そして、多くのボランティアが参加し、十分に活動するためには、ボランティアを希望する者を研修して育成し、ボランティアとなってからも適切な活動ができるように指導や研修を継続的に行うシステムがなくてはならないと考える。

第三章 被害者支援をより良くしていくために

これまで民間の支援機関やボランティアを述べてきたが、被害者支援をより良くしていくには国家の後押しも重要である。民間に任せきりでは問題は解決しない。ここからは政府の動きをみていくことにする。

まず平成16年12月、犯罪被害者等が直面している困難な状況を踏まえ、これを打開し、その権利利益の保護を図るべく、犯罪被害者等のための施策に取り組み、総合的かつ計画的な推進していく基本構想を示した「犯罪被害者等基本法」を制定し、平成17年4月に施行した。この基本法の概要は以下の通りである。

○ 目的…(1)犯罪被害者等のための施策に関し、(2)基本理念を定め、(3)国、地方公共団体及び国民の責務を明らかにするとともに、(4)犯罪被害者のための施策の基本となる事項を定めること等により、犯罪被害者等のための施策を総合的かつ計画的に推進し、もって犯罪被害者等の権利利益の保護を図ること。

○ 対象…犯罪(犯罪及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為)の被害者、その家族・遺族

○ 基本理念

・ 犯罪被害者は個人の尊厳が尊重され、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する

・ 被害の状況及び原因、犯罪被害者等が置かれている状況の事情に応じた適切な施策を講じる

・ 再び平穏な生活を営めるまでの間、途切れることなく支援を行う

○ 国・地方公共団体・国民の債務、関係団体を含めた連携・協力等

○ 基本的施策

・相談及び情報の提供

損害賠償の請求についての援助等

給付金の支給に係る制度の充実等

保健医療サービス及び福祉サービスの提供

犯罪被害者等の再被害防止及び安全確保

居住及び雇用の安定

刑事に関する手続への参加の機会を拡充するための制度の整備等

保護、捜査、公判等の過程における配慮等

国民の理解の増進

調査研究の推進等

民間団体に対する援助

意見の反映及び透明性の確保

基本法は、犯罪被害者等のための施策を総合的かつ計画的に推進し、犯罪被害者等が直面している困難な状況を打開していくための基本構想及び必要な基本的施策を条文化するものであり、犯罪被害者等の視点に立って施策を展開し、権利利益の保護を図る過程の第一段階として位置づけされる。基本法に基づき、政府は犯罪被害者等のための施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、犯罪被害者のための施策に関する犯罪被害者等基本計画を定めなければならないこととされた。基本計画は、第二段階として、今後一定の期間内に構築すべき施策体系の具体的設計図と工程を示すものであり、犯罪被害者等及びその支援に携わる者からの要望を基に、これからいかに満たしていくかという視点で検討・策定され、個別具体的な施策の着実な実施を図っていくためのものである。

犯罪被害者等基本計画では、犯罪被害者等が直面している困難な状況を打開し、権利利益の保護を図るという目的を達成するために、個々の施策の策定・実施や連携に際し、実施者が目指すべき方向・視点を示すものとして、「基本方針」を設定した。基本法は、国及び地方公共団体が犯罪被害者等のための施策を策定・実施していく上で基本となる3つの「基本理念」を掲げているとともに、国民の配慮と協力を責務と定めている。施策の実施者において目指すべき方向・視点は、これらの理念・責務に立脚すべきであり、こうした考え方から、基本方針は尊厳にふさわしい処遇を権利として保障すること、個々の事情に応じて適切に行われること、途切れることなく行われること、国民の総意を形成しながら展開されることの4つとした。

また、基本計画は、犯罪被害者等及びその支援に携わる者の具体的な要望を基に策定されたが、広範囲・多岐にわたるそれらの要望を総覧し整理する中で、大局的な課題として浮かび上がってくるものとして指摘できる、@損害回復・経済的支援等への取組A精神的・身体的被害の回復・防止への取組B刑事手続への関与拡充への取組C支援等のための体制整備への取組D国民の理解の増進と配慮・協力の確保への取組の5つの課題を「重点課題」として設定した。これらの課題は、関係府省庁がそれぞれに対応していくのみならず、各府省庁が、有機的な施策体系の一部を担っているという意識の下で横断的に取り組んでいく必要のあるものである。各府省庁は、個々の施策の実施に当たっては、各課題に対する当該施策の位置付けを明確に認識し、課題ごとに総合的な施策の推進・展開が図られるよう努める必要があり、それによって、一層効果的な取組が可能となるものである。そしてこれらを基に「犯罪被害者白書」が初めて国会に提出された。教育や経済政策並みに犯罪被害者の権利利益を保護する国の基本的な取組が始まったのである。

おわりに

犯罪被害者を支援するには、周りの人の理解が必要である。そして、二次被害は絶対に起きてはいけない。まだまだ問題は山積みであるが、これから、犯罪被害者がいなくなる社会が一番の理想だが、より良い支援制度が行える環境が整うように期待したい。

参考・引用文献

参考サイト

  • 内閣府政策統括官ホームページhttp://www8.cao.go.jp/hanzai/seihu/seihu.html 
  • 全国被害者支援ネットワークホームページhttp://www.nnvs.org/realname.html