ユニバーサルデザインは高齢社会に有効か


法学部 政治学科 3年 04142081

水野 香



目次


はじめに


第1章 ユニバーサルデザイン

 第1節 ユニバーサルデザインとは

 第2節 ユニバーサルデザインの7原則

 第3節 バリアフリーとの違い


第2章 事例

 第1節 室内

 第2節 移動手段

 第3節 コミュニケーションをとる


第3章 今後のユニバーサルデザイン

 第1節 メリット

 第2節 デメリット

 第3節 高齢者に必要なもの


おわりに


参考文献


参考サイト






はじめに


私は以前から福祉に興味を持っており、福祉関係の道に進もうと考えた時期があった。また現在高齢社会問題が深刻化し、新聞、テレビで取り上げられることが多くなった。高齢化社会に関わることで論文を書きたいと思い、調べていたところ「ユニバーサルデザイン」という言葉が目にとまった。CMなどで聞いたことのある言葉だったが、私自身どのような意味なの分からなかったし、知らない人も多いだろうと思った。そこで論文を通して知識を身につけ、多くの人に知ってもらいたいと思い、論文のテーマとして取り上げることにした。

高齢化社会とは、65歳以上の割合が人口の7%を占めている場合をいい、14%で高齢社会と言われる。現在の日本の状況は高齢社会であり、2015年には65歳以上の割合が25%を越えると推計されている。日本はイギリス、ドイツなどに比べ、急速に高齢化社会から高齢社会へと移り変わった。このことを踏まえ、日本では高齢者がより良い生活していくために、住宅、まちの設備が見直されている。高齢者が快適に暮らすためにユニバーサルデザインという考えは有効なのか。事例を交えながら考察を進めていきたいと思う。

第1章 ユニバーサルデザインとは


第1節 ユニバーサルデザインの概要

@ユニバーサルデザインの概要

ユニバーサルデザインは“すべての人が、人生のある時点で何らかの障害を持つ”ということを発想の起点としている。障害の有無、年齢、性別、国籍、人種等にかかわらず、多様な人々が気持ちよく使えるようにあらかじめ都市や生活環境を計画するという考えである。例えば、都市空間であれば、誰もが歩きやすいように電柱を地下に埋設した道路や、外国人でも分かるような多言語表記の看板がユニバーサルデザインといえる。日用品であればテレホンカードの切り込みやシャンプー容器のギザギザ、建物であれば自動ドアや多目的トイレが例として挙げられる。ユニバーサルデザインは、障害者や高齢者を対象としたものだと思われがちであるが、特定の人のためではなく、ありとあらゆる人を対象としている。

Aユニバーサルデザインの歴史

1990年にアメリカではADA法(アメリカ障害者法)が成立した。この法律は、

  1. 障害者への慣習的な疎外意識、単純な誤解や紋切り型の差別がいまだに存在しており、これらは人権、平等を謳う合衆国憲法の精神に反する。
  2. これらの差別が自立を望む障害者を自宅や施設に放置する結果となっているだけでなく、そこでの生活維持のために政府が支出する経費は年間600億ドル(6.6兆円)となっており対策は急務である。1

という2つの理由によって制定された。障害者の人権の保護、そして就業権の確保を宣言し、差別を禁止するものである。障害を持つ人といっても視覚、聴覚、肢体、知的など様々な障害の種類と程度の差がある。また、怪我により一時的に障害を持つこともあるし、言葉の分からない土地では話が通じず障害となる。それを契機としてノースカロライナ州立大学のロナルド・メイス氏は、それまでのバリアフリーの概念に代わって“できるだけ多くの人が利用可能であるように製品、建物、空間をデザインすること”をユニバーサルデザインとして提議した。

WHO(世界保健機構)は、1980年を国際障害者年と定め、世界的な運動を起こした。その10年前の1970年、WHOは、世界の学者たちに障害のある人たちに向けた調査報告書の作成を依頼しており、ロナルド・メイス氏も依頼を受けた。彼は1974年にWHOへ『バリアフリー報告書』を提出し、ここで「ユニバーサルデザイン」という言葉を初めて使った。このころからアメリカでは「ユニバーサルデザイン」という言葉が使われ始めたといえる。 2

日本で初めてユニバーサルデザインという言葉が使われ始めたのは、1996年『人にやさしい公園づくり−バリアフリーからユニバーサルデザインへ−』(浅野房世・亀山始・三宅祥介 著)という著書の中であった。その後、新聞や各メディアで取り上げられ、企業の間にもこの考えが取り入れられるようになった。



第2節 ユニバーサルデザインの7原則

ここでは、ユニバーサルデザインの提唱者ロナルド・メイス氏の提案したユニバーサルデザインの7原則について述べたい。まず、ここで使用されているデザインについて定義する。通常、デザインという言葉を聞くと、美術、工芸、工業品などの形、模様、色、構成について工夫を凝らすことを考えるだろう。しかしこれではユニバーサルデザインとして優れていなくても、美しい色や形をしている商品はいいデザイしンとして判断されてしまう。『ユニバーサルデザインへの挑戦 住宅・まち・高齢社会とユニバーサルデザイン』の著者、古瀬敏は“よいデザイン”とは“使える”ことを念頭に置くと、@安全AアクセシブルB使いやすいCアフォーダブルDサスティナブルでなくてはならないと主張している。3

現在の日本経済は高価なものがよいものだとは考えられておらず、価格と機能が見合うものが売れている。そこで重要となるのがアフォーダビリティ、価格妥当性である。バリアフリーの場合、体の不自由な人へ商品を提供している。すなわち、全体の数%に与えるものなので、高価になる場合がほとんどである。ユニバーサルデザインは80%の人、90%の人、できるだけ100%に近い人に使ってもらえる商品を提供することである。このため、多くの人が手に入れやすい価格で提供することが必要なのである。また、サスティナブルというのは持続可能性のことである。すべての人にとって使い勝手がよいものがユニバーサルデザインなので、一度買ったら長く使える、ということも大切になってくる。これは地球環境問題も踏まえている。商品を作り出すには多くの資源、エネルギーが必要となる。この時に持続性のある商品であれば大量に作り続けることはなくなり、地球環境にもやさしいということになる。

次に本題のユニバーサルデザインの7原則を紹介したい

  1. 利用の公平性
  2. 利用にあたっての高い自由度
  3. 使用法が直感的にわかること
  4. 与えられる情報の理解しやすさ  
  5. 利用ミスの許容  
  6. 無理な姿勢や力がいらないこと
  7. 寸法と空間の包容性

これらを満たすものがユニバーサルデザインといえる。

第一に、誰もが同じ方法で差別を感じずに使用するため、公平性が求められる。

第二に私はすべての人と言ったときに、まず年齢層を考えていた。ユニバーサルデザインの商品というと、子どもからお年寄りまでが無理なく使えるものが必要であると思い浮かべていた。しかし、利き手ものことも視野に入れなくてはならない。日本において9割が右利きであるため、無意識のうちに右利きの人に使いやすいように、建物、街が設計されている。私は右利きなので、ユニバーサルデザインのことを考えるまで気付かなかった。洗面台の蛇口は右側をひねるとよく使う水が出て、左側がお湯の蛇口になっている。また、最近では左右どちらからでも開けられる冷蔵庫が発売されているが、少し前までは右手で開けやすいように左側にとっ手が付けられていた。このことから、使い方の自由度の高さが必要なのである。

第三、四に人間は経験、知識、言語能力がそれぞれ違う。その一人ひとりに対応できるように、使用方法の分かりやすさ、与えられる情報の理解のしやすさが求められる。

第五に人間は機械ではないので誰にでも間違えることがある。万が一間違えて使用してしまった時に危険につながってしまうようでは、誰にでも使いやすい商品だったとしても意味がない。そのためミスが起こっても危険につながらない商品であることが必要とされる。

第六に無理な姿勢や力がいらないことが求められている。身長や力は人によって様々である。身長の低い人のために低めに商品を作ると、身長の高い人はかがんで使用しなくてはならなくなる。このようなことを避けるために第六の原則が挙げられている。

第七の原則を言い換えれば、使いやすいスペースと大きさを確保することである。立っていて見えたものが座ると見えなくなるようでは、それが重要なものであった場合困ってしまう。また一つのスペースいっぱいにものを置いた場合、車椅子などの補助具を通すことができなくなってしまう。これでは、一つの場所にものを集めているならば、ある人には使い勝手がよいが、その場所を通りたい人にとっては通りづらい。これを解消するために第七の原則が挙げられている。

第3節 バリアフリーとの違い

バリアフリーとはもともと建築用語として登場した言葉で、障害のある人が社会生活をしていく上で障壁(バリア)となるものを除去するという意味である。日本では建築学会ハンディキャップ小委員会が1981年の国際障害者年に合わせてハンディキャップ者に対する配慮の設計に関して調査、研究を進め、その中の文献で「バリアフリー」という用語が使われている。建築にかかわる専門家にとって1980年初頭頃がバリアフリー導入元年といえる 。建築面での物理的バリアの除去という意味合いが強いものの、広く障害のある人の社会参加を困難としている社会的、制度的、心理的すべてのバリアの除去という意味でもバリアフリーという言葉が使われる。一般に次のような4つのバリアがあるといわれている。

<物理的なバリア>

段差があったり幅員が狭かったりして車いすで通れない。容器の形が同じで中身の違いが分からないなど

<制度的なバリア>

障害の有無や級によって資格が制限されること。例えば盲導犬連れが利用できないホテル、レストランなどが挙げられる。

<文化・情報面でのバリア>

文化活動をするチャンスや必要な情報が平等でないこと。手話通訳されない場合、列車事故の放送が耳の不自由な人に届かないなどが例として挙げられる。

<意識上のバリア>

障害を持つ人を理解しないこと。相手を傷つける言葉を言う、点字ブロックの上に自転車や看板を置くことなどである4

このようなバリアを取り除いていくことがバリアフリーという考え方である。これに対してユニバーサルデザインは、あらかじめ利用者に合わせて設計するという考えである。階段に車いす用昇降機を付けるのがバリアフリーであるのに対し、最初からスロープやエレベーターにするというのがユニバーサルデザインなのである。バリアフリー=ユニバーサルデザインではなく、ユニバーサルデザインの中にバリアフリーがあると考えられる。ユニバーサルデザインを取り入れた商品はどのようなものがあるのだろうか、次の章で紹介していきたい。

第2章 事例


ここではユニバーサルデザインを取り入れた商品を紹介する。屋外の商品、屋内の商品、外と中をつなぐ役割をする商品の3つの視点から見ていきたい。

第1節 室内

まず浴室からみていこう。最初に取り上げるのはINAX【i-bath2003】である。湯温を光で知らせることが特徴である。光源をスリット状にし、柔らかい光を演出し、美しさと機能性が両立されている。また水捌けのよい熱伝導率の低い床を使用しているため、足を踏み入れたときの冷たい感触がない。また入浴方法はシャワーだけの人、浴槽につかる人と様々である。どんな人でも快適に入浴できるようINAX【i-bath2003】は10ヶ所のノズルからシャワーが噴射されるシャワー・ド・バスを採用し、シャワーだけの場合でも浴槽入浴時と変わらない保温が得られるようになっている。

TOTOの【フローピア魔法びん浴槽シリーズ】手すり一体タイプタッチ水栓は水栓金具、手すり、収納棚を一体化しシンプルで違和感のないデザインとした。以前から手すりを付けた浴室は作られていたものの、人は実際手すり以外のカウンターや水栓金具をつかんでいる。これらはつかまるように作られておらず逆に危険が伴うため、水栓金具、収納棚を一体化した手すりが作られた。縦にも手すりを付け、この水平手すりと組み合わせれば入浴時の様々な動作に対応できる。またタッチ水栓は石けんがついたままの手や手の甲でも簡単に操作ができ、チャイルドロック機能もついているので誤作動を防止できる。

次にトイレを紹介する。INAXの【サティス】は、タンクレスシャワートイレである。便器の隙間を手軽に掃除ができ、汚れをふき取りやすい構造となっている。洗浄水がリム(便器の外周の環状部分)の上部まで届くため、汚れを力強く洗い落とすことができる。また、人が近づくと足元と便器鉢内を照らす「ほのかライト」を搭載しており、夜中にトイレに入ったときの眩しさ、覚醒反応に悩むことがないよう工夫されている。住宅トイレ空間のパウダールーム化をけん引したため、トイレ本体はコンパクト化されている。そのため、便器前に手洗い器の設置や棚手すりなどの設置が可能となった。

TOTO【レストパルDX】はタンクをなくし、700ミリの高さのキャビネットを便器の後ろに設置している。手をかけることができるため、立ち上がったり座ったりする作業が楽にでき、子供にも高齢者にも使いやすくなっている。便器のフチ裏をなくした「フチなし形状」と便器ボール面をくまなく洗浄できる「トルネード洗浄」を採用しており、先に述べた【サティス】同様清掃作業がしやすく作られている。また、着脱可能な背もたれをオプションで用意してあるので必要に応じて取り付けることができる。【サティス】【レストパルDX】ともに便フタの開閉と便器洗浄を自動化し、流し忘れをなくすほか、腰への負担が軽くなるように作られている。

次はサッシを紹介する。サッシは、開け閉めや段差など気になるところが多いものである。最初に取り上げるのは、立川アルミニウム工業【アペックスウォーキング】である。これはフルフラットな下枠を採用しているため、出入りの際につまずきにくく、清掃も簡単にできる。高い断熱性能を確保しているため、室内の温熱環境が外部の気温に左右されにくく、気密・耐風圧性能にも優れている。環境に優しい非塩ビ系樹脂を採用しており、内部側は木質感を強めてインテリア性を高めた。後付けシャッター、大型引き手つき障子といったオプションも用意されている。

トステム【デュオPG】は身体的負担の軽減を図った商品である。大型取っ手やアシスト取っ手(オプション)を導入することで、子供から高齢者まで弱い力でも楽に窓の開閉ができるようになっている。下枠用の「フラットアタッチメント」を設置すれば、車椅子の使用が必要になった場合でも移動がしやすい。また、指はさみ防止機能により子供でも安心して窓の開閉ができる。 サッシについてはどの商品も後付のオプションが豊富であることが特徴である。

第2節 移動手段

ここでは自転車と自動車、そして列車に乗るときに必要な列車案内板を取り上げる。自転車や自動車は多くの家庭においてあるだろう。 ヤマハ発動機【New PASリチウム】は20〜30代女性、50代以上のシニア層をターゲットとしてつくられた電動ハイブリット自転車である。「パワー強モード」を備えたため、坂道や向かい風での走行、重い荷物を積載しての走行において、楽に走ることができる。スタンド式充電器を採用しており、家庭用電源から簡単に充電できる。1回の充電で約34キロ連続して走ることができる他、「エコノミーモード」に設定すれば、消費電力を抑えて走行距離を伸ばすことができる。またモード切り替は手元のレバー式スイッチで行い、その周辺の文字は大きく表示されている。バッテリー残量がひと目で分かるインジケーターを付け、視認性と操作性に配慮している。フレームは低床の「U型」形状なので、スカートを着用している場合でも乗り降りしやすくなっている。

トヨタ自動車ではユニバーサルデザインを取り入れた自動車が販売されているが、ここでは3台を取り上げてみたい。

まず【プリウス】は1997年に世界初の量産ハイブリッド乗用車として発売し、エコロジカルな自動車として認められている。ユニバーサルデザインとしての最大のポイントは、運転操作を楽に行える電子制御システムを採用した点である。シフトレバーとパーキングポジションスイッチを装備しており、プッシュボタン1つで起動できる。センターメーターは情報の種類や優先順位を考慮した機能的なレイアウトで、スピードメーター部には虚像タイプの遠視点表示を採用した。メーターの視認性と乗降性に配慮するためステアリングから手を離さずにエアコンやオーディオ、ナビゲーションを操作できるステアリングスイッチを取り付けた。

【ポルテ】は、生活を楽しく快適にすることを目指して開発された。運転席側と助手席側、内側と外側のどちらからでもスイッチ操作1つで開閉できるスライドドアと、室内空間が広いことが特徴だ。乗降口と地上の段差を30センチに縮めたことで楽に乗り降りができる。助手席を折りたたんで前後にスライドできるのでテーブル代わりに使ったり、サーフボードを積み込んだり、多彩なシートアレンジが可能である。また、飲料や傘などを収納するスペースを確保している。

【ラウム】は運転手や乗員の身体的負担を軽減し、快適な走行性や居住性を提供している。助手席のドアと後部座席のドアを仕切るセンターピラーを取り外し、問口を広く取って乗降性を向上させた。スライドドアに電動機構を備え筋力が少ない子どもや老人に配慮されている。また助手席を前方に折りたためるので、後部座席で脚をゆったり伸ばすことができる。オーディオやエアコン、シフトレバーなどをセンター部分に集約し扱いやすくした。意味を分かりやすくするために警告灯を3種類用意し、安全性に一層配慮した。

次に列車情報案内板を見てみる。公共交通における情報提示はすべての利用者に平等に与える必要がある。そこで東海旅客鉄道の【東海道新幹線フルカラーLED列車案内システム】は弱視者モニタ−による検証と疑似体験ツールによる補正を組み込み、見やすさと分かりやすさを目指してつくられた。列車案内の表示に従来製品に比べて10倍以上の輝度を持つフルカラーLEDを利用したことにより、十分な屋外視認性が確認された。書体は最大24ドットから最小7ドットまでの文字を使用し視認性に優れたオリジナル文字も開発した。静止文字、テロップ文字など目的別に最適な書体を選択することができるのである。文字はRGB値を調整し均質な色みを出した。

第3節 コミュニケーションをとる

次に人と人とをつなぐ電話を見ていく。

NTTドコモ【FOMAF880iES】はボタンや文字が大きく、コントラストの高い色を採用して見やすいよう配慮している。操作するボタン光り、画面上で操作方法を指示する「操作ガイダンス表示」を充実させ、不慣れなユーザーでも簡単に操作することができる。そして音声読み上げ機能も搭載し、目が見えにくくてもコンテンツを利用できるようになっている。40〜60才代までを中心に携帯電話ユーザー、非ユーザーに対しセンターロケーションテスト調査による感性的評価を実施した。視覚障害を持つ人の意見も取り入れ創られた商品である。

ツーカーグループ【骨伝導携帯電話TS41】は高機能化により比重を置き、複雑操作になってきた携帯電話から、使わない機能を極力外した携帯電話である。骨伝導式スピーカーを搭載しているため、駅のホーム、ゲームセンターなど騒がしい場所での通話や難聴のユーザーの利用が可能となっている。また背面キーを設置し、これを用いれば電話を閉じた状態のまま受信と1件の登録先に対する発信ができる。よく使う機能を分かりやすい言葉と大きな文字で表示する「シンプルメニュー」があるので、使い慣れていない人でも簡単に利用できる。

携帯電話やPHSの普及に伴い便利になった反面、子供や高齢者のユーザーから「機能が多すぎて分かりづらく操作が難しい」「ボタンや表示が小さくて使いにくい」といった印象を持たれることがある。そこでトヨタ自動車は【ぴぴっとフォンAK-K303T】を販売した。3つのかけ先ボタンを□、○、△で表し、「はなす」キー、「おわる」キーの計5つのボタンだけで基本的な通話操作を可能にした。また子供ユーザーに配慮し、インターネットコンテンツの利用に対応せず、機能を通話中心に絞り込んだ。防犯ブザーと連動した「ぴぴっとコール」や位置情報サービス「ここだよナビ」を搭載し、安全性と安心感を高めた。

急速に高齢化が進み、難聴者は総人口の約5%を占めていると推定される。三洋電機は「聞きやすい」「見やすい」「使いやすい」をコンセプトに電話機を開発している。【コードレス骨伝導電話機TEL-KU2】は骨伝導スピーカーを搭載しているため、聴力が弱くても通話の声が聞き取りやすい。そして相手の声の速度を約0.75倍に落とす「ゆっくり機能」を採用しており、話が聞き取りやすく快適な通話が実現する。声の大きさを8段階に調節でき、声の高さも「高・中・低」3段階に調節できるようにし、聞こえにくさを低減した。

第3章 今後のユニバーサルデザイン


第1節 メリット

今まで「若くて健康で右利きの男性」といったイメージを想定して、まちや商品を作ってきた。しかしユーザーは、成長途中にある子ども・男性と比べて力が劣る女性・握力や脚力の衰えた高齢者・視覚や聴覚に障害を持つユーザー・妊婦・ケガを負ったユーザーなど、様々な人が存在する。ひとつの仕様で可能な限り多くの人々が利用しやすいというのが一番のメリットだろう。すべての人を対象としているため、バリアフリーのような差別感もなく使うことができる。あらかじめユニバーサルデザインを取り入れたまちや商品を作ることにより、将来何らかの障害を持ったとしても大きな不自由を感じずに生活できるはずである。

年をとると足や腰が弱くなる場合が多い。浴室、トイレでは立ったり座ったりする動作が多いため、注意をはらった商品が作られている。滑りやすい浴室では頑丈な手すりが必要となる。サッシをフラット化し段差をなくすことで、車いす生活が余儀なくされた場合でも同じ家で今までどおり暮らすことが可能である。サッシについてはオプションが豊富であるため、窓に「アシスト取っ手」をつければ力が弱くなった高齢者でも簡単に窓の開閉作業ができる。

このように室内のユニバーサルデザインは“ユニバーサルデザインの7原則”の原則6が重要視され、いかに家の中で快適に暮らせるかが問われている。

第2節 デメリット

ユニバーサルデザインはいろいろな人の利用を補おうとする反面、おのおのの障害に対する配慮が障害特化型商品に比べて劣ってしまうことがある。すべての人に使いやすいよう考えたつもりであるが、逆に弊害をもたらしてしまう。また導入コストの問題点も挙げられる。浴室、トイレ、サッシなど自宅に取り入れる際は自己負担である。機能がそろっているだけであり、他のものと比べると高価になってしまう。まちにユニバーサルデザインを取り入れる際、各市町村によって使えるコストは異なるため、どの地域も同じような住みやすいまちが作られるわけではない。第2章で取り上げた商品は体力が以前よりも低下したという人には便利なものである。しかし、痴呆の進んでいる人にとって使いやすいだろうか。このような症状がある人にとっては、ユニバーサルデザインを取り入れたものの他に援助が必要になってくる。

今回の事例では挙げていないが、低床路面電車やノンステップバス、車いすのスペースを作った列車もユニバーサルデザインである。これらは車内に余裕のある空間をもたせているため、座席数が少なくなり、デメリットが生じる。

第3節 高齢者に必要なもの

介護の必要な高齢者にとって人の助けがなければ何もできないという状態、寝たきりでいる状態は幸せなのだろうか。きっとできることは自分でやりたいと思っているに違いない。そこで高齢者には「自立」を求め、それを周囲が支えるということが重要になってくる。昔は高齢者の割合が少なく、それを支える人手は多かった。医療事情も現在ほど発達していないため、寝たきりで何年ということも少なく、重度の介護が必要な期間も限られていた。逆に現在は少子高齢化が進み、高齢者に対する支える人の割合が少なくなった。医療事情がよくなり、寝たきりの期間も以前より伸び、高齢者を介護する側の方がくたびれてしまうこともある。筋肉は使わないと衰えてしまう。高齢者は時間をかけてでもなるべく人の手を借りずに自分の力で物事をこなすべきである。手すりをつたいながらでも自分だけで行動することを心がけるべきである。自立という強い意志が必要なのである。

高齢者に自立を望むのであれば自立のための環境を整えることが大切である。バリアフリーはどこまでやればいいのだろうか。自立を支えるバリアフリー環境の役割は、実質的に、介助、援助の必要性をどこまで減らせるかで変わってくる。手助けを受けずにどこまでやれるかは、サービスの供給側からすればどれだけ人手が少なくてすむかということになる。しかし福祉サイド側は人手を減らすことを目的とはしていない。あくまで自立を支援するのである。

介護をする側は肉体的にも精神的にも大きな負担がかかる。自宅内にユニバーサルデザインを取り入れていれば年をとって力が弱くなったとしても、今まで暮らしていた家でそれほど大きな不自由も感じずに生活することができるだろう。介護する側としても安心できる。排泄、入浴が、介護する際に困難だと思われるが、トイレや浴室は使いやすさを重視して開発された商品が多い。介護する側、される側ともに生活しやすい生活空間を生み出すことができる。

また現在は技術の発達が進み、携帯電話に様々な機能が付いていたり、一つのリモコンで多様な操作ができたり、と便利になっている。その反面、多くのボタンが使われている場合がほとんどで、ひと目見ただけでは機能を把握できないことがある。そこでボタンの近くに機能を表示するなど意味を分かるようにすれば使いやすくなるだろう。

ユニバーサルデザインは100%に近い、少しでも多くの人が使いやすいと思うものを提供している。時と場合によってカバーしきれなかったり障害を持つ人が少し不便と感じたりすることもあるだろう。ユニバーサルデザインの理念だけで、大勢の人によいデザインを提供するのは無理なことである。

2000年から始まった介護保険では認定者のランクをその症状に応じて「要支援、要介護1〜5」の6ランクに分けられている。「要介護1」のような軽い症状の人に対して、リハビリなどで回復可能な人が多いにもかかわらず車椅子供与や過度のサービス提供で自立能力を奪ってしまうようなことが多く発生している。技術、制度をよく見直し多くの人が快適に暮らすことができるよう目指していくべきである。



おわりに


日本ではユニバーサルデザインの考え方はあまり広がっておらず、まだまだ知らない人も多いだろう。現時点で高齢社会に有効であるとはっきり述べることはできないが、私はこれから日本にユニバーサルデザインを取り入れたまちや商品が増えることによって確実に生活しやすくなると思う。それはユニバーサルデザインが私たちの生活に多くのメリットを与えているからである。これから高齢社会がさらに問題とされるだろうが、一人ひとりが高齢者の立場になって考えることが大切だと思う。




1)萩原 俊一  『バリアフリー思想と福祉のまちづくり』 (ミネルヴァ書房 2001年6月) 16頁

2)梶本 久夫  『ユニバーサルデザインの考え方』 (丸善株式会社 2002年5月) 44頁

3)古瀬 敏   『ユニバーサルデザインへの挑戦 住宅・まち・高齢社会とユニバーサルデザイン』 (ネオ書房 2002年7月) 141頁

4) 萩原 俊一  『バリアフリー思想と福祉のまちづくり』 (ミネルヴァ書房 2001年6月) 60頁



参考文献


梶本 久夫  『ユニバーサルデザインの考え方』 (丸善株式会社 2002年)

古瀬 敏   『ユニバーサルデザインへの挑戦 住宅・まち・高齢社会とユニバーサルデザイン』 (ネオ書房 2002年)

荻原 俊一  『バリアフリー思想と福祉のまちづくり』 (ミネルヴァ書房 2001年)

中井 法之  『ユニバーサルデザイン事例集100』 (日経BP社 2004年)



参考サイト


UDCユニバーサルデザイン・コンソーシアム

http://www.universal-design.co.jp/