近年、日本の国力が低下してきているという論議を耳にする機会が多くなってきている。また高成長を続ける中国だけでなく、インドやBRICSと呼ばれる新興国など、経済発展が著しい国が多く、インドのGDPは50年後には日本を抜き世界第3位になるといわれている。 そこでなぜ日本の国力が低下してきているのか、という疑問が出てきた。国力低下の要因としては、現代の学力低下や少子高齢化社会などさまざまな要因が言われている。そこで、このゼミ論では、その数ある要因の中で国力低下に直接繋がるものとして、上記要因のうち、有力な要因だと言われている少子高齢化を取り上げたいと思う。調べてみると、少子高齢化は、国力の低下という対外的な問題だけではなく、この国のあり方を含めた問題とも関わってくる。 そこで、第1章で国力と少子化の関係について触れ、第2章で少子化を引き起こす要因、第3章で少子高齢化による人口減少という問題が社会に及ぼす影響、第4章で、少子化に対する対策、社会がどのように変わっていかなければならないのか、などについて考えていきたい。
国力とは、国際関係においてその国家が持つさまざまな力を総合していう。その力とは、地理的・経済的な側面を構成する国土、食料生産能力や工業生産力、外貨保有量などから構成される経済力、情報などの質的な要素も含めた軍隊の能力をあらわす軍事力、また科学技術、政策能力、国際的地位、国民の生活や国民の質的要素を高めるための教育水準などが挙げられる。この国家の能力や影響力を総合的なものとして捉え、国力として考えることができる。国力によってその国の地位は変化し、特に国力が高い国は大国として国際社会で大きな存在感を示す。しかし、これらの構成要因は時代の国際環境の変化によってどの要因が重要視されていくかで変化していく。冷戦終結後には、国力に占める軍事力の重要性が大きく低下し、軍事力よりも、経済力、技術力が国の力を決定する重要な要因になってきた、また近年では、温暖化やこれに関連して生態系の維持などの環境政策も重視されるような傾向も出てきている。
その他の代表的な国力の考えとしてはハンス・モーベンソーが論じている地理的要因、天然資源(食料や原料)、工業力、軍事力(科学技術や軍隊の量と質)、人口から構成されるハードパワー(数量化できる量的な要素)と国民性、国民の士気、外交の質、政府の質から構成されるソフトパワー(数量化できない質的な要素)を合わせたものが国力の定義だという説。1
ジョージタウン大学クライン教授の人口や領土、経済力、軍事力のハードパワーと、戦略目的、国家戦略を追及する意思のソフトパワーを掛け合わせたものが国力の定義だという説も議論されている。2
さらに総合国力という考え方もある、総合国力とは、国力をさらに幅広くとらえようとする考えである。近代国家の特徴である福祉国家、市場国家、国際国家の3つの側面から国家を見ていく考え方である。 まず福祉国家では、国民一人一人が社会の一員として健全で豊かな生活を送られるようにする国家の能力である市民生活向上力の側面、次に市場国家は、企業活動に適した環境を与えることを通じて国民一人一人の生活を豊かにする国家の能力で経済価値想像力の側面、最後に国際国家とは、国際社会において、人類の平和と繁栄、共生に貢献するとともに自国民の利益を守るために使われる能力で国際社会対応力の側面、これら3つの要素を組み合わせたものを総合国力という。3上記で紹介したクライン教授の国力方程式によると、人口減少が著しく起こったと仮定した場合、経済力の低下により生産力が低下する。さらに、軍事力は兵士数と軍事費の関係で表すため、兵士数は人口の減少により減り、経済力低下によって軍事費にも影響がでてくるため、人口の減少は軍事力の低下を招く。つまり人口減少が起こると、軍事力の低下と生産力の低下を招く。この結果、国力の低下は避けられないものとなってしまう。 そして実際に、2005年から日本の人口は減少し始めている。これは出生率が人口を維持するのに必要な水準である2.1という数値を大きく割ってしまっているからである。実際に少子化が始まりだしたのは、1970年代前半からで、日本の少子化問題は約40年間続いている。いったん人口減少が始まりだすと、少なくとも発生後100年間は続くといわれていて、日本にとっての21世紀は人口減少の世紀となる。 子供を生むか生まないかは、私的な範囲の問題であり、国家が口を挟む領域ではないといえる、しかし人口減少による国力の低下は重要な問題であり、社会全体で取り組んでいかなければいけない問題である。
少子化問題は、日本だけのことではなく、日本を含む先進国のほとんどでみることができる。少子化の進行に先立って女性の高学歴化と学歴の男女格差の縮小、女性の労働市場への進出、賃金格差の縮小など女性の社会経済的地位の変化が起こった。女性の社会進出が始まる以前では性別役割分業システムが主流で、このシステムは、男性は仕事で家庭を支え、女性は家庭に留まり守るというように簡単に説明するとこのようになる。この近代家族の考え方が絶対的であったと考えられていたため、多くの女性が長期的就業を続け、職業役割を継続し続けるようになると、家庭での女性の家事や育児の負担が高く、また職場環境が整っていないために、結婚にともなう家庭役割を延期したり、放棄してしまったり、軽減する女性が増え始め、結婚の晩婚化や未婚化などの高年齢に先送りにする現象が起きたと考えられている。この現象を数値化してみると1975年の平均初婚年齢24,7歳から2005年には27,8歳へと3,1歳も伸びている。このような問題に対して、近年のフランスやスウェーデンでは、政府が寛容な対策を打ち出したため、出生数が高水準に戻ってきている。 また、少子化を引き起こしているもう一つの社会的要因として、小児科医と産婦人科医の極端な減少が指摘できると思う。これは診療報酬単価が他の専門医に比べると少なく、採算が取りにくいことから病院経営の悪化につながり、閉鎖する小児科医、産婦人科医が多いためである。高度な医療を担い、地域の拠点病院としての役割を果たしている国立病院などでも経営悪化は深刻だという調査結果を厚生労働省が発表している。さらに日本病院団体協議会が発表した調査報告によると、2006年度は赤字経営の病院の割合が6パーセント増の43パーセントにのぼり、その内訳は自治体病院で93パーセント、国立大学病院と国立病院機構病院で69パーセント、公的病院59パーセント、医療法人(民間病院)25パーセントだとしている。このような今の日本の医療事情から子供を生み育てることに不安が生じ、少子化を加速させてしまっているのではないかと思われる。現在、小児科医、産婦人科医に対する診療報酬単価の引き上げが前向きに検討されているが、子供の医療費増大は子供を持つ親に対してどのような影響をもたらすのか、慎重にこの問題を考えていかなければならないと思われる。
時代の変化によって生じた社会的価値観の変化から論じていきたいと思う。具体的に社会的価値観の変化とは、出産年齢の高齢化、同棲や結婚以外での子供の増大、人工妊娠中絶の合法化、離婚率の上昇、単身家庭の増大などが指摘されている。つまり性関係、同棲、中絶、家族構成、離婚などの私的領域の行動に関して、従来の社会規範にこだわらずに、個人の自己実現欲求の充実を基準にする個人主義化が進行してきている。こうした社会的価値観の変化は1970年代以降の西欧諸国において見られるようになり、現代の日本の社会や日本以外の先進国、例えばアメリカなどにも少なからず影響してはいるものの、日本の価値観変化の場合は、固定的性別役割分業観や結婚適齢期の上昇、離婚に対する意識の低下、老親扶養などの諸社会意識が弱体化し、女性の就業につながっていった。それによって、結婚の環境の変化を生じさせた。この結果、夫婦の出世力の低下につながり、少子化が発生したと思われる。女性の未婚率は20代で1975年の20,9パーセントから2005年の59,9パーセントに、30代では7,7パーセントから32,6パーセントと異常なまでに上昇している。
人口規模が日本の経済社会に与える影響について、「総合国力」という概念を使って考えてみる。まず、21世紀に相応しい国家を形成するための「総合国力」は三つの側面から構成されるとする。第一は、「市民力」であり、国民一人ひとりの生活ないし福祉を向上させる力である。第二に、「経済力」であり、企業活動を支援する力である。第三に、「国際発信力」であり、国家が国際社会へ向けて発揮する力である。総合国力を構成する要素の分野としては、人的資源、自然や環境、技術、経済や産業、政府、防衛、文化、社会が考えられ、上記で述べた三つの側面には、それぞれの要素が含まれているため、総合国力はこれら三つの力の総体として捉えることができると思われる。人口減少が「総合国力」に与える影響について、国力を構成するこれら「三つの力」に沿ってみていくと、まず、「市民力」については、人口減少は、一人当たりの社会資本の維持費の増加につながる。これまでと同水準の公共サービスを維持することは困難となることが懸念されている。また、人口比率の高い高齢者向けの政策が政治的に優先され、世代間の利害対立が激しくなることにより、社会的な連帯を弱めることも予想される。 次に「経済力」については、人口が減少すれば、GDP規模は引き下げられ、また、人口の減少によって優秀な人の絶対数が少なくなれば、技術開発にもマイナスの影響を与えることになる。最後に「国際発信力」については、経済規模が縮小すればODAや国際機関などの分担金はある程度減額せざるを得ないが、これにより国際社会への貢献が後ろ向きであるとの批判を受けることなり、要するに人口減少をそのまま放置すれば社会の至る所で矛盾が生じ、これまでの社会経済システムの枠組みでは立ち行かなくなる。
少子化による人口減少は、同時に人口の高齢化にもつながる。ここでは高齢化によって生ずる社会保障制度への影響をみていきたいと思う。日本の高齢化は、具体的に1950年代の出生力の転換期から始まった。高齢化の一つの指標である総人口における65歳以上の人口割合が、1950年にはわずか4,9パーセントに過ぎなかったものが、1985年には10パーセントに達し、2005年には20パーセントに達した。高齢化現象に関しても、少子化と同様に欧米諸国にもみられるが、日本の高齢化は戦後の進行が急激であったために今日では悪い意味での世界一に位置つけられている。どちらにしても高齢化は少子化の影響もあって加速しつづけている。 戦後、人口における老年層の指数がまだ低かったため若い働き世代の税収や社会保険料収入が増えた。1980年代の年金・医療の両面において、他の先進国諸国とさほど差がなかった。しかし、その後の老年指数は急激に増加し、1990年代の経済不振から社会保障を悪化させ始め、供給水準の削減・負担の増加を柱とした改革が続けられてきている。年金制度に関しては、高齢化が想定以上に進んだ場合には見直しが余儀なくされ、さらに医療・介護保険制度についても、老年人口の増大と長寿化により老人医療費も介護費も増大を続けていくと思われる。 社会保障全体のシステムを今のまま維持し続けた場合、勤労者の税や社会保険料負担の増大などといった国民負担の増大が続くと予想される。これは勤労者の労働意欲をなくすことにつながり、行政の税金無駄使いにつながり、企業のコスト高につながるとして経済成長の妨げになる恐れがありうる。
非三大都市圏の道県では今後人口減少と高齢化が進み、過疎化の懸念が指摘されている。国土交通省の過去の調査によれば、全国約5万の過疎地の集落のうちすでに2000集落が存続困難の見通しがでていて、その数は今後さらに増加していくと予想されている。これに対して、現在では、総務省の誘導で、1999年に成立した市町村合併特例法により、これを平成の大合併と呼び、全国に3232もあった自治体は2007年10月までに1801に再編され、全国の市町村合併は進行中である。将来的には道州制のような都道府県レベルでの合併も可能性としては十分に考えられると思われる。しかし、地方自治体の再編を行うと、過疎地域における行政サービスや行政水準の低下などの影響がでるといわれている。
少子化を食い止めるには、行政、地方自治体、企業など日本社会全体が一丸となって出産と育児に対する・これまで以上の理解を示し、協力し合っていくシステムを構築し、これらを確実に実行していく体勢を構築していかなければならない。国は少子化政策として実際に今日に至るまでさまざまな政策を展開してきた。その中でも最も注目したのが、平成14年9月に厚生労働省から具体的に示された「少子化対策プラスワン」です。第三章ではこの対策プランを参考に少子化対策を論じていきたい。
第一に男女を問わず、自己実現や経済的理由で働くことが子供を出産し、育てることへの障害にならないように男性の育児休業取得率を上昇させ、その際の従業員に対する企業からの助成金の支給、子育て短時間勤務制、育児休業を時間単位で取得できる仕組みなどといった育児休業制度の見直しや子育てに必要な時間確保の推進することが必要である。出産を機に退職した女性に対して再就職支援、出産後の職場復帰支援といった子育てと仕事の両立を支援すべきで、そのためには就労形態の多様化や就労時間のフレックス化など、雇用に対する意識改革が必要である。さらに保育サービスの面を見ても、保育所の設備の充実、保育師の資質の向上、親が働いているときの子供の病気への対応など親の考え方や仕事事情などのニーズに合わせて柔軟なシステムを整備する。日本での出産の98パーセントは結婚後という実態があるので、結婚生活をよりよくするための環境を企業の長時間労働や有給休暇が取得できないような現状を改善する努力が必要である。各地方自治体による子供を産みやすくて育てやすい環境や就業環境を整え、過疎化する地方に人口を移住させることも重要な要素になってきている。 第二に子供にかかる育児費の経済負担の軽減を、国が出産から奨学金制度まで一貫した支援策を検討することです。これは児童手当の充実や扶養控除、高校教育への奨学金制度の充実、年金制度における育児の評価を検討などといったものです。また、一般的に子供が大学を卒業するまでに約二千万円かかるといわれていているので教育費を引き下げることも重要な課題です。 第三に家族や隣人とのコミュニティーによる子育てが失われつつあり、さまざまな人とのつながりを通じた人格形成や社会性の形成などが行われなくなっている現状がある。これに変わる町内会などの小さな集いの場の形成促進が急がれるべきである。この政策は、現代の核家族化の形態が薄れつつある中で、祖父母の代わりとなる高齢者とのつながり、子育てをしている親同士のつながり、子育ての経験をした人とのアドバイザーとしてのつながりなど、地域においていつでも気軽にコミュニケーションが取れる仕組みつくりによって、親の子育てへの不安感を解消し、子育てに意欲的になることを重要としている。現在の社会の社会情勢は、これまでに述べたように固定的性別役割分業観や結婚の晩婚化、離婚に対する意識の低下、老親扶養などの諸社会意識が変化してきている。女性の社会進出によって子供を育てにくい状況、環境が生じてきていたが、上記に挙げた政策を実施することによって、女性の社会進出を助け、子供を出産し育てやすい環境を作ることができるのではないでしょうか。
一つは、これからさらに少子化が進行していく社会に対して、子供を出産し育てる価値観を育成させることが今後の日本の重要課題であるという認識を若い世代に広めていかなければならない。それは、自分たちの生活スタイルや時間の使い方を子育てに優先させる考え方にどのように変換できるかである。子育ての楽しみを伝えるためには、大人の生き方がそのまま反映される家庭や教育現場である学校で、学生による地域への参加を促進し、乳幼児などの異年齢間の交流を行っていくべきである。具体的には、学校外活動として月1回土曜日に幼稚園や保育園にインターンシップに行き、乳児や幼児と触れ合って、育児方法などを学ぶといったことが考えられます。こうした教育現場で乳児や子供と触れ合う機会を持つことによって、将来の親となる世代が、子供の社会的意義について考える機会、結婚し出産するときに、子育ての苦労や対処方について知識を得る機会を与えられるのではないかと思う。もう一つは、将来の人口不足により発生する労働力不足にどのように対応していくかが問題になってきる。その対応策としては制度改革や雇用慣用の見直しを行い、多様な労働力を活用していくことである。ここでいう多様な労働力とは、女性の労働力化、高齢者の労働力化、選別された外国人労働力の受け入れのことを意味している。 女性の就業率は、子育て期にどうしても下がってしまう。女性の労働力化はまず、いかにこの現象を解決するかが重要になってくる。子育て期の年齢層の女性の就業希望率は非常に高いのですが、育児との両立が難しいために再就業をあきらめてしまうのが現状です。子育てのために仕事をやめなくてもいいような第一節でも述べた保育所の充実や短時間勤務制などといった環境を早急に整備するべきだと考える。さらに父親として、男性側からのサポートもできるようにしていくべきである。また、育児を終えた女性を労働力として生かしていくことも重要です。しかし一度やめてしまうとそのほとんどの女性が職場に復帰できず、パートなどの生産性の低い労働についているのが現状です。これらの再就業機会を奪ってきている形態を見直し、政府が提案している性別に関わりなく、能力と仕事内容に報酬体系を基にした、効率的で多様な男女共同参画型の働き方を実現することで女性の労働力化が活用可能になりうる。 高齢者の労働力化を現実のものにするためには、年齢中立的な社会性を見直すこと。これによって高齢者の定義とされる65歳という年齢を労働市場からの引退者と再定義し、健康で労働意欲があればその熟練した能力で何歳になっても働き続けられる環境を構成し、雇用や社会制度の再構築が重要です。 女性労働と高齢者労働と同時に外国人労働力も検討していくべきだと思われる。外国人を選別的に増大される理由としては、国内治安維持の問題のほかに、未熟練の外国人労働者増加が懸念されるなどさまざまな要因が予想されるからです。つまり、外国人労働力を考える場合には混乱が生じないように、諸外国の例を参考に注意を払って対応する必要がある。
第一節、第二節の内容と重複してしまうかもしれないが、第三節では人口減少問題に対処するための方法として、「少子化抑制方法」と「人口減少適応方法」の二つの方法もみていきたいと思う。 少子化抑制方法とは、少子化に歯止めをかける方法である。第一に、子育ての直接的・間接的なコストを軽減することである。そのためには、就業の有無にかかわらず、保育サービスを必要としている全ての家庭に対し、希望に沿った多様な保育サービスを安価に提供すべきである。フランスでは3歳になるとほとんどの児童が幼稚園あるいは託児所を利用している現状がある。早期に教育・保育システムを整備することが重要で、直接的な子育て費用のなかでは、教育費の負担が重い。保育だけでなく、教育の段階でも、奨学金制度の充実化を図ることにより、その軽減化を図ることが重要だと思われる。その財源の確保には、税財源もしくは社会保険財源とうい2つの方法があります。これには国民の理解と納得が必要です。まず育児保険制度の創設の検討や、年金、医療、介護、雇用、労災などの各保険制度からの支援強化を検討し、財源が更に必要なときには、税制からの支援も検討します。子育てはできる限り国民全体で支えることが重要であり、広く薄く負担をする消費税を導入する。そのために税と保険料による国民負担率を明らかにする必要があります。 第二に、若年者の雇用環境を改善し、結婚力を高めることである。最近増加している非正社員のなかには、将来に不安があるため結婚に踏み切れないでいる若者も多いので、非正社員の雇用条件を非正社員並にする。また、年齢に関わりなく個人の生産性に見合った賃金へ移行することにより労働市場の流動化を促し、若者に雇用機会を確保する。さらに、多様な勤務時間の選択を可能とすることにより、子育て層の共働きを容易にしていける。 人口減少適応化方法の狙いは、人口減少に適応した社会を作ることである。第一に、人的資源の質を高め、国民一人一人の生産性を高める。そのためには、日本が強みをもっている分野で活躍できる人材を発掘・育成していくことが近道となりうる。民間企業で行われている選択と集中を、国家レベルで考えることが必要である。第二は、人口に中立的な社会保障・財政システムを構築することによって、特に重要なのは公的年金制度を持続可能なものに変革していくことである。現在の賦課方式の規模を圧縮し、最低生活保障を確保しつつ積み立て型に移行することも検討する必要がある。
合計特殊出生率は一人の女性が生涯に産む子供の数をいうが、現在の人口を維持するには、合計特殊出生率が2.1前後なければならないとされている。しかしながら、現在の日本の合計特殊出生率は1.3を切ってしまった。また、2003年には合計特殊出生率は1.29と、過去最低を記録してしまった。現在の出生率の水準がこれからさき継続したと仮定した場合、500年後には日本の人口はわずかに13万人とほぼ縄文時代と同等の人口水準になる。これは極端な例であるが、諸外国と比較しても現在の日本の水準は際立って低い水準にある。日本の1.29という水準は、人口の減少に危機感をもち、積極的な家族政策を推進しているフランスでも、経験したことがないものである。 出生率の低下には、その時代の背景となる社会経済システムが大きく影響しているが、現在の日本における出生率の低下は、日本の社会経済システムが時代の流れに不適合となっていることを象徴しているように思われた。特に、女性の社会参画という流れとの不適合が甚だしい。日本のように子育て終了後の女性の再参入が難しかったり、正社員とパートとの賃金格差が大きくなったり、男性サイドが長時間労働を強いられるため、家事への参加が難しくなるといったことが起き、これが女性の子育ての機会費用を大きくしている。現在の少子化は、日本の経済社会が構造的に大きな問題を抱えているということを示す赤信号だと考えるべきだと思う。
人口減少時代の日本社会 阿藤誠 津谷典子 原書房 2007
西川吉光 現代国際関係論 晃洋書房 2001
地域に求められる人口減少対策 平修久 聖常学院出版会 2005
41 付論1 NIRA型総合国力指標について http://www.nira.go.jp/newsj/kanren/130/134/sanko2.pdf
松下政経塾 http://www.mskj.or.jp/getsurei/onot0306.html
日本産婦人科学会 http://www.jsog.or.jp/
総務省 http://www.soumu.go.jp/