「ワーキング プア」という言葉を、聞いたことがあるだろうか。テレビなどにもよく取り上げられているので、ワーキング プアという言葉を知っている人もいると思う。しかし実際聞いたことある程度でどのようなことを指すのかわからないと思う。事実自分もその一人であった。けして他人事ではなく今の自分にとってとても重要なことだと思い、今回の論文ではこの現代社会で問題となっているワーキング プアの核心に迫りその原因は何なのかを大きなテーマとして挙げて探っていきたい。
ワーキング プアというのは、きちんと仕事をして働いているにも関わらず、収入がとても少ない人達のことをさす。もともとワーキング プアとは米国で生まれた言葉である。英語になおすとワーキングプアの意味がよりわかりやすくなる。(ワーキング プア=working poor、ワーキング=働く、プア=貧乏人、)ということである。無職ではなく働いている、ということで労働問題となっている。ちなみに、日本語訳ではワーキングプアは「働く貧困層」とよばれている。ここで勘違いしてしまいがちだが、ワーキングプアはあくまでも働いている人のことを指している。教育を受けず、労働をおこなわず、職業訓練もしていない人と定義されているいわゆるニートとは別ものである。余談だがニートは「Not in Education, Employment or Training」を取った略称(NEET)で、1999年にイギリスで名づけられた。発祥の地とされているイギリスと日本ではその捉えられ方が違う。イギリスでは「16歳〜18歳の、教育機関に所属せず、雇用されておらず、就業訓練にも参加していない若者」と定義され、上記の定義通り、離職中や求職中、病気や育児・出産中の休職、ボランティア活動も含むので、「ひきこもり」や「働く意思がない」というイメージには結びつかない。これに対し日本では上記でも挙げた通り学校に通学せず、独身で、収入を伴う仕事をしていない15〜34歳の個人と定義され、上記の定義に加えて、「就職したくない若者」、「就職はしたいが就職活動をしていない若者」という意味合いもあり、「ひきこもり」や「働く意思がない」というネガティブなイメージが強い。
ワーキング プアと呼ばれる層の収入は一体どのくらいなのか。ワーキング プアとは上記でもさしたが、「働いているにも関わらず、生活保護水準以下で生活している人たち」のことをいう。具体的な数字を出すと、年間の収入が200万円未満程度いうことになる。
「ずいぶん少ないんだな」と感じた人もいるだろうがしかし、これくらいの収入で生活している人というのはそう少なくない。フリーター、アルバイトであれば、これくらいの数字が妥当である。事実、コンビニなど、サービス業のバイトや低賃金のパートではこれが当たり前だ、というのが本当の所ではないかと考える。
例えばコンビニのバイトを例に出して見てみると自給900円で8時間働いて7200円、 月20日で20万円強である。この数字だけを考えると、一年で240万円くらい、ということになる。数字だけ見るとぎりぎりワーキング プアではない、ということになるがしかし、実際毎日これを続けられるかを考えた時、そう簡単にはいかない。身体を壊したり、急に休むこともあるだろう。正社員であれば休日にも支払われる給料が、時間給であれば休んだ分だけきっちりとひかれることになる。また、企業にもよるが、アルバイトといっても仕事の内容はほぼ社員と変わりないところが大多数である。疲れも溜まり体を壊すか、無理を感じれば、アルバイトの日数を減らすことになってしまう。そうなれば、月10万円〜、年間200万円未満、と考える。
どうしてワーキング プアの人たちは、そのポジションに甘んじて、もっと努力をしないんだ、脱却しないのかと考えてしまう。しかし、ワーキング プアに一度陥ると、そこからの脱却がとても難しい。ワーキング プアというポジションは、パート、アルバイト、フリーター、低賃金の正社員、などという「労働条件の悪さ」で構成される。であれば、脱却するためには「転職」という道が出てくる。しかし、ワーキング プアにとって、そもそも転職、再就職が難しい。一旦ワーキングプアに陥ると、悪循環が生じ、ワーキング プア、という状態から抜け出すのが非常に困難となる。
ワーキング プアのほとんどの就業形態は、アルバイト、パート、契約社員だと考えられる。この場合、休暇、福利厚生などの条件が一般には正社員ほど整っていない。また、正社員であれば、スキルアップにつながる研修などを受けるいれる機会も多く提供されるものの、パートやアルバイトにはそういった機会を与えられないのが普通である。スキルアップをする機会が与えられず、休暇、福利厚生の諸条件が悪く、生活するための賃金ギリギリであれば、仕事の後にもう一つ掛け持ちでアルバイトをこなす必要がある、というケースも考えられる。ただ単にお金のためだけに時間を使う毎日が待っていることからワーキング プアからの脱却をはかるために必要なスキルを磨くお金も時間もなく、悪循環は続くというわけである。
今日、日本ではワーキング プアとよばれる人たちが全世帯の20%(700〜800万世帯)ほどいるといわれている。なぜ、ワーキング プアが増加しているのか。その理由は、バブル崩壊以後の日本経済、社会をみてゆくと、比較的分かりやすくなる。
バブル崩壊依然の日本では、過剰な設備投資、雇用の拡大を行っていた。右肩上がりの日本経済を信じている人たちが、ゲームを過剰なものとしてしまったのだ。しかし、90年代の幕開けとともに、バブル経済も終焉を迎え借金をしてまで行った設備投資や過剰な労働力は、企業の経営を圧迫しはじめる。ここにきて企業は、コストの削減を迫られることとなった
長引く不況の中で企業が選んだ選択肢とは、人件費の抑制である。事実、人件費はもっともお金のかかる部門、これをカットしよう、というわけであった。別の言葉で言い換えると、低賃金の労働力を増やす、という選択肢をとった。最もコストのかかる部門を縮小すれば、それだけ企業の財政は楽になる。正社員の採用を抑制し、人員を減らす一方、不足した労働力はアルバイトやパート、契約社員の割合を増やすことにより、まかなう。結局、総人件費の抑制につながるというわけである。しかし、これは低賃金層が自然増加する、ということを意味し多くの企業が同じ選択肢を選べば選ぶほど、ワーキング プアが増加する、ということにつながるのである。
その後、少しずつ日本経済は回復してきた。日本経済は回復のさなかにある、といわれているが、相変わらず回りを見渡してみても景気の良い話は一部だけでワーキング プアは増加している、という現実がある。これは一体どうしてなのか。
一度人件費を抑えたシステムを作ってしまうと、そのままのシステムを維持しようとするのは自然な考えであり、実際に国際競争力のある大企業であっても、可能であれば人件費を抑制したいと思うのは自然なことである。事実、非常に合理的なコスト圧縮法だといえる。日本が資本主義で、企業は利益を追求するものである限り、これはこれで合理的な選択肢だ。景気が回復している、というのは、こういった大企業の業績が良くなっているからなのだろう。しかし、これも派遣社員、アルバイト、といった低賃金労働者、すなわちワーキング プアのような人たちに支えられてのことではないか。これが意味する所は、経済が回復しているとしても、ワーキング プアの増加は進んでゆくだろう、と考えられている。
ワーキングプアに対する対策のひとつとして、税金の減額、免除がある。税金が減額、免除されるためには、様々な条件がある。その条件とは、収入が生活保護の基準額を下回っていることである。どれほど働いていても、生活保護の基準を下回っている人は、税金を免除されることになる。生活保護の支給には、さらに二つの条件があり、第1に家や土地、店など資産を持っていないことである。他にも生命保険や株など持っていると除外されてしまうことになる。第2には、親族(ここでは二親等以内と規定されている)からの扶養が不可能であるということである。つまり親族にひとりでも金銭面に余裕のある人がいると生活保護を希望しても、除外されてしまうのである。本人が,各自治体に申請に行った際,その親族に連絡が行き、「経済的に扶助できるならば、扶助するように」という確認がある。これは強制ではない為、断ることも可能である。しかしこれは精神的にきつく、その後の親戚関係のもつれからなどの理由で申請しない人が多数だといわれている。
他にも厚生労働省は、生活保護のうち食費や光熱費などの生活費に充てる生活扶助の見直しをめぐり、都市部と地方の支給額の格差を縮小させるため、2008年度から、全般的にみて都市部を引き下げ、地方圏を引き上げる方向で最終調整に入っている。また2007年11月28日、最低賃金法の改正によりワーキングプア解消を目指し最低賃金を決める際、「生活保護に係る施策との整合性に配慮する」ことを明記し「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう」との文言も加えられることになった。最低賃金未満で働かせた企業への罰則も、労働者1人あたり「2万円以下」から「50万円以下」に引き上げられることになった。最低賃金法とは、賃金の低廉な労働者について、事業若しくは職業の種類又は地域に応じ、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的として制定された法律である。
また民主党が国会に提出する格差是正緊急措置法案を打ち出した。これは雇用や福祉面での格差是正策が柱で、パート労働者と正社員の差別的待遇の禁止など 6項目の緊急措置を実施するための関係法令の改正を明記した。3月初めに法案として提出する予定である。 差別的待遇の禁止は、すべてのパート労働者を対象に同一労働同一賃金を導入し、パート労働者の一部しか対象としない政府案との差別化を図るとしている。 最低賃金は、現行の全国平均673円では生活保護水準以下の暮らししかできない。ワーキングプアの問題も指摘されているため、1000円以上への引き上げを図る。他には 非正規社員の優先採用の努力義務化により正規雇用化を促進する、募集・採用時の年齢差別を禁止する、サービス利用の原則一割負担を定めた障害者自立支援法の一部を凍結する、2004年度税制改正で実施された公的年金控除縮小と高齢者控除廃止を撤回する、といった内容であり、この法案が通れば少しはワーキングプアの抑制になると言われている。
パートタイム労働者の均衡待遇推進や、正社員への転換の促進などを主とするパートタイム労働法の見直しが大きな柱となってくる。
ワーキングプアの人たちは全てが同じ環境、同じ境遇というわけではない。一人ひとり違う。ここでは都市と地方ではいったいどのように違うのか、見ていきたい。
ワーキングプアにあたる人口が増加する一方で、「富裕層の人口は1990年〜2005年の15年間でほぼ倍増しており、2006年に富裕層の消費総額が10兆円規模に達したのではないかと発表されている。」1
国際競争力向上と経済活発化を謳い、株式売買から得る利益への減税、大企業に有利な減税など高額所得者に有利な政策が実施され、都市部でも格差拡大を促している。東京など都市部では最近、ネットカフェや漫画喫茶を宿代わりにする若者が増えている。2007年4月に全労連などが東京、大阪、愛知など全国10都府県で行った調査では、ネットカフェ計34店舗のうち8割近くの店で長期滞在の若者がいた。都市部で非正規雇用が拡大しており、雇用契約打ち切りなどによって寮などを追われ、蓄えがないと敷金・礼金を払えないため、住居を得られない。このため、仕方なくネットカフェで寝泊まりするケースが増えている。
都市部に限ったことではないが、都市部から広がっていったものがある。オンコールワーカーという新しい形の労働者たちである。オンコールワーカーとは、事業主の求めに応じて不定期に短時間就労する契約労働者のことをいう。事前に派遣会社などに登録を行い、必要に応じて呼び出されて短期間の就労を行う。オンコール労働者とも呼ばれることがある。待機時間外に他の仕事を持つことも可能であり、自由に働くことができる。欠員や繁忙期を見込んで募集され、雇用主は必要に応じて登録した労働者に対して勤務を要請する。一般的には数日から数週間の期間で勤務し、給与は時間給または日給で計算される。専門性の高い職種においては、待機時間に対する「拘束料」、登録期間中の労働時間を保証する「最低労働時間」、登録中の所得を保証する「月給制」などの労働条件が設けられるケースもある。しかし、一般的なオンコールワーカーの待遇は悪い。不意の連絡に備えて他の仕事を持たずに待機するなど、実質的に登録した事業主に拘束される反面、登録した会社からの連絡がなければ無業・無収入の状態が続く。基本的に給与は労働時間に対する時間給であり、諸手当や休業に対する補償もない。多くの国では不安定な身分であるオンコールワーカーについて非正規雇用として扱われ、パートタイム労働者に準じた法規制の対象となっている。
このオンコールワーカーが日本全体に広がっていくのではないかと懸念されている。しかし3人に1人が非正規雇用という世の中で懸念されるので、こういった人たちをもっと正確に把握することが必要であろう。
この節では地方におけるワーキングプアついて見ていく。都市と地方での大きな差は平均所得に現れる。都市と地方の1人当たり県民所得額を見ると、2006年度、東京都456万円に対して東北6県241万円であり、東北6県の所得は、東京都の所得の53%という結果になっている。また、最低賃金には地域別と産業別とが設定されている。優先順位は産業別>地域別となっており、産業別で設定されている産業(業種)については産業別の最低賃金が適用され、産業別で設定されていないその他の産業については、地域別の最低賃金が適用される。現在の都道府県別の最高は東京都の739円。最低は秋田県・沖縄県の618円となっている。
地域経済全体が落ち込んでいる地方では、収入が少なくて税金を払えない人たちが急増している。基幹産業の農業は厳しい価格競争に晒され、離農する人が後を絶たない。集落の存続すら危ぶまれている。高齢者世帯には、医療費や介護保険料の負担増が、さらに追い打ちをかけている。また、「地方経済はハコモノ公共事業と農業補助金で経済を保ってきた。現在の政策では国の補助からの完全な自立が求められているのが現状。農協や役所だよりでは潰れてしまう。」2 今日まで、地方は国から生活保護を受けているような状態だったので、生活保護がもらえなくなると、生活が破綻してしまう。
ここでは、平均所得、自殺率、求人倍率が全国でワースト1位、2位を争う、つまり景気回復から取り残された地方、秋田県を事例に見ていきたい。秋田県では 誰も住んでいない集落が100を超える。その多くは荒れた田畑、廃虚(元住宅)となっていて、地域まるごとの「地盤沈下」が起こり,税金が払えない人が大量に発生している。秋田は東北地方でも雪深いところであり、初雪が降ると、4月末の雪が解け始めるまで深い雪に閉ざされる。ここで必須となってくるのがストーブなどで使う灯油である。冬に灯油が無いというのは即凍死を意味する。しかしその灯油も買えない人が増えているという。しかも最近の原油高騰も重なり,食費を削って灯油を買うしかなくなる。自然と生計が苦しくなり、こんな状態では税金を払える訳が無い。まさに悪循環、負の連鎖と言わざるを得ない。また農業に関しては米の価格は大幅に下落しており、これは近年の規制緩和や競争激化によるためである。すでに秋田県下で既に6000戸が農業を廃業している。農業で生活できない現実であり、当面の対策としては第1章第3節でも挙げたように生活保護や最低賃金の改正、労働基本法などに頼るしかない。
「都市と地方の格差」が拡大したのは、前小泉内閣がすすめた『「都市再生」戦略が元凶となっている。「都市再生緊急整備地域」を指定。建築規制を大幅に緩和し、超高層ビルの建設ラッシュを招いた。』3公共事業も、生活に必要な地域の事業は削減し、都市部の大型事業に集中させたことが理由として挙げられる。高度成長期に地方から都市へ建設労働者として人が集められた。地方では炭坑の閉鎖など失業するものが増えていたことも理由としてあげられる。そのころから過疎化が始まり現代に至ってしまった。地方の没落による廃村につぐ廃村。都市への流入。グローバル化に襲われた地方の厳しさは絶え間ないものであり、格差は今後も広がっていくと考えざるを得ない。
ワーキングプアは日本だけの問題ではなく新自由主義と親和性の高い市場原理主義が導入された先進国でも、既に日本と同様の問題が引き起こされ、問題解決への様々な取り組みが各国で行われている。韓国では派遣社員(非正規社員)の増加を規制する法案を成立させ、イギリスでは若者に職業訓練受けさせ、その期間中は生活費を支払い、就職できるまで見守る取り組みが国を挙げてなされている。特にこの問題に積極的に取り組んでいるのがアメリカである。
ワーキングプアの発祥地アメリカではこのワーキングプアは隠れた労働問題として捉えられている。アメリカという社会そのものが資本主義経済を重視している。資本主義というシステムは、そもそも対価が平等になるようには作られていない。努力した人に大きな対価を支払い、その努力を求める人の力を利用して社会を発展させてゆこうというシステムである。いわゆる成果主義を主とし構成されている。
事実、アメリカのワーキングプアは約3700万人も存在するといわれている。これだけ多くのワーキングプアを抱えているアメリカだが、今後日本も、このまま放っていたら格差が広がってゆき、アメリカのようになるかもしれない。
非正規雇用の人たちへの対策としてアメリカでは、まずホームレスに住むところを世話して、当座いろんなサービスを提供し、次に継続して働くすべを仕込む事業は社会起業の定番である。有名なものは、ニューヨークにあるグランドコモである。ここは荒廃したホテルを改装して住居を与え、ホテルの仕事をトレーニングして被雇用力をつける。ワシントンDCには、ホームレスを料理人に鍛えるためのキッチンがあり、有名な社会起業になっている。また州立大学に企業の講師を招き、最先端バイオテクノロジーに関する授業料を格安で低所得者に学ばせ、地域の安定した労働者に育て上げる取り組みがなされている。
教育・訓練の拡充を最重視。とりわけ高等教育を重視するとともに、労働者の教育訓練機会の拡大を図る。また、貧困者を対象とした医療保険制度(メディケイド)の充実や福祉受給者の就労促進を図るための制度改革等に力を入れている。
「ワーキングプア」という言葉が世の中で知られたのは、最近のことである。その前は「ニート」や「フリーター」という言葉を目にすることが多かった。「なぜ、若者は働こうとしないのか」ということが問題視されていた。それは当事者の若者たちに問題があるため、と思う人が多く、ニートやフリーターと呼ばれる若者たちは学生時代の延長ように考えていて、自ら生き方を選択した人たちだと思っていたからである。
しかし、若者は、「働かない」のではなく「働きたくても、働けない」というのが現状である。長引く景気の低迷の中で、就職難に悩んでいるのである。目に見えないところで広がっていた若者年層の賃金カットや、年収300万円以下の派遣・請負といった低所得者の問題が今になって表れてきた。多くの若者たちが派遣や請負、アルバイトといった不安定な雇用形態のまま低い賃金で働き、昇格の見込みもないままでいるのである。
「仕事が中でも苦し紛れに職を探し求めている。世間の冷たい視線にも耐え、厳しい労働環境やつらい現実の中で必死にもがいているのだ。」4
「ネットカフェ難民」という言葉を聞いたことがあるだろうか。まさに現代のワーキングプアとは切っても切り離せない言葉である。ネットカフェとはマンガ喫茶とも呼ばれ、「一時間 380円」「三時間 980円」と低価格でマンガ・インターネットが読み放題、使い放題で、フリードリンクもついている場所である。店舗によってはシャワーもついているところもあり、昼間は学生や束の間の休息をとるサラリーマンで賑わっている。しかし夜になるとその風景は一変することになる。約9時間のナイトパックを目当てにここを寝床代わりにするワーキングプアと呼ばれる人で埋め尽くされるためである。一晩で1000〜1400円程度の安さであるために皆集まってくるという。つまりこれまで過ごしていた自宅(実家やアパート)や寮を諸般の事情(家賃の滞納や家庭の事情など)で退去して、24時間営業のインターネットカフェや漫画喫茶で夜を明かし、日雇い派遣労働などで生活を維持している若年者をネットカフェ難民という。厚生労働省は最近「住居喪失不安定就労者の実態に関する調査」の結果を発表した。住居を失い、インターネットカフェやマンガ喫茶などで寝泊まりしながら不安定就労に就いている「住居喪失不安定就労者」(ネットカフェ難民)が全国で約5,400人に上ると推計されているとした。内訳は、アルバイトや短期派遣労働者などの非正規労働者が約2,700人、正社員が約300人、職を探している失業者が約1,300人、無業者が約900人となっている。年齢別で見てみると、 20代が26.5%そして、30代が19.0%、40代が12.8%と続き、50代で、23.1%、60代も8.7%いた。 この数字からわかることは20代が一番多いのはある程度予測されていたことだが、それより驚いたのが40代以上の中高年が、半数近くを占めていたことである。つまり、ネットカフェ難民は、けっして若い男性だけの現象ではないということがわかった。ついで全体で見たとき、総務省の2006年調査では、日雇いや派遣労働といった非正規雇用で働く人たちは1677万人、いまや働く人の3人に1人が正社員ではない時代に入っている。このような状態では上記のような人たちが増えるのも当然である。
第1節でワーキングプアになってしまう要因を説明した。では、なぜネットカフェや漫画喫茶に駆け込むのであろうか。彼らは,身の回りの荷物を長時間低額で使用できるコインロッカーを入れ,物置代わりに利用している。低額料金のナイトパックで利用できる個室席、シャワー施設を完備したネットカフェなどを利用している。このような人々の増加から、社会情勢が変化して、ネットカフェ難民になることへの敷居が低くなったことが挙げられる。また日雇い派遣では家賃・光熱費など数万円のまとまったお金が作りにくい。毎日仕事に入れるとは保証されていない上に、日払いの賃金がその日暮らしを維持することに使われるため、住居のコストを抑えざるを得ないという事情もある。
ではネットカフェ難民に対してはどのような対策が取られているのか。厚生労働省は2008度にネットカフェ難民への支援策予算1億7000万円を計上した。具体策はNPOへ委託して、賃貸住宅に入居する資金を積み立てるための金銭管理術を教える。ハローワークと連携して住み込みで働ける就職先を紹介する。支援情報を提供するホームページを開設、メールや電話で相談できるようにする、などといった対策を打ち出している。
はたして今のネットカフェ難民たちの救世主となれるのか注目である。
2007年、団塊の世代と呼ばれる人たちの大量退職がはじまる。団塊の世代とは、第二次世界大戦直後の日本において、1947年から1949年(1953年、または1955年生まれまで含まれる場合もある)にかけて第一次ベビーブームが起こった。この時期に生まれた世代のことである。終戦に伴い、多くの兵士が復員をしたため、おのずと婚姻、出生人口がこの時期に重なった。実に今の日本の人口の10%を占めているという。さらにこの世代が一気に定年退職することで、日本の高齢化がいっそう進んでいくことになる。しかも今の風習からすると、核家族が大半を占めている。働き盛りのこどもたちが家族から離れていくのである。「数十年働きつづけた会社を定年退職し、その退職金と年金で悠々自適、第二の人生を歩き出すというのはほんの一握り、もう過去のものになりつつあるのが現状である。」5
2004年、社会保険庁の調査によると、65歳以上の高齢者のうち、年金をまったくもらうことができない人は全国におよそ40万人強も存在する,という数字を打ち出している。年金制度は崩壊したと言ってもおかしくない一方で、定率減税撤廃、住民税増税、公的控除縮小・廃止、医療費用負担増、社会保障費削減など厳しい政策が実施されていく。このような状態の中では生きていけない。ゆえに働くしか無くなるのだ。それは生きていくため、働き続けるという選択肢しか残らないのである。
ではそのような人たちはどうやって仕事を探しているのか。調べてみると彼らを支援している団体を見つけることができた。NPO法人による「高齢者就労福祉事業団」もその1つである。就労を望む高齢者、障害者に希望と能力に応じた就業機会を開拓、提供することで、高齢者・障害者の社会参加と雇用の増進に寄与する事を目的として、事業の拡張に取り組んでいる団体である。今では250人が加入し、15箇所の事業所で作業している。
主な仕事内容としては公園・除草・砂ふるい・トイレ等清掃などを行う公園清掃、ビルメンテナンスなどのビル清掃、樹木管理・剪定・ペンキ塗り等の技術分野、スポーツ広場総合管理・河川管理 自転車駐車場管理等の管理分野、訪問介護事業所・ 訪問介護・家事援助・その他、道路清掃・ゴミ回収作業等の清掃がある。
決して充分な額とは言えない。日給にしたら8000円弱である。しかし、少ない年金の中で彼らは一生懸命働いて少しでも生活を楽になろうと努力している。
第一章ではワーキングプアとはなにか、第二章ではワーキングプアに関する問題として都市・地方、また世界から見るワーキングプアについて、そして第三章では実際のワーキングプアの現状として今話題となっているネットカフェ難民、働くしかない老人について見てきた。調べていてここまでワーキングプアが日本の中に浸透しているとは思わなかった。自分が、いつワーキングプアになるかわからない状況にあると知った時は恐怖さえ覚えた。政府も何らかの政策は打ち出しているが、それがすぐに彼らに効果をもたらすわけではない。景気の回復で雇用状況も良くなりつつあるとさえているが、これが今後も続いていくのか、それとも一時的なものなのか、それは誰にもわからない。しかしその間、彼らは必死に我慢していくしかない。
年金と医療に社会保障費が多く使われて、税金を払えない人から無理やり取ろうとするのではなく、高額な税金を払っている人に課税するなどしていくべきではないかと考える。
健全な市場主義と効率的な社会保障制度を作っていかなければやはり「ワーキングプア」という言葉は消えていくことは無いだろう。
1・門倉貴史 『ワーキングプア いくら働いても報われない時代が来る』 宝島社、2006 年、 74ページ。
2・NHK『ワーキングプア』取材班/編『ワーキングプア 日本を蝕む病』ポプラ社、2007年 130ページ。
3・門倉貴史 前掲書,103ページ。
4・NHK『ワーキングプア』取材班/編、前掲書、197ページ。
5・同書 48ページ。
門倉貴史 ワーキングプア いくら働いても報われない時代が来る 宝島社 2006年
NHK『ワーキングプア』取材班/編 ワーキングプア 日本を蝕む病 ポプラ社 2007年
民主党ホームページ
http://www.dpj.or.jp/厚生労働省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/全国労働組合総連合(全労連)ホームページ
http://www.zenroren.gr.jp/jp/index.htmlワーキング プアをさぐる
http://working-poor.got-real.info/ワーキング プア 〜お金ある生活へ〜
http://working-poor.life-helper.netNOP法人東京高齢者就労福祉事業団
http://www.tokyo-koureisha.com