1998.4.19 に更新しました


第97段 中納言まゐりたまひて

本 文

■第九七段■  

 中納言まゐりたまひて、御扇たてまつらせたまふに、
 「隆家こそ、いみじき骨は得てはべれ。それを張らせて、進らせむとするに、
  おぼろけの紙は、得張るまじければ、求めはべるなり」
と申したまふ。
 「いかやぅにかある」
と、問ひきこえさせたまへば、
 「すべて、いみじうはべり。『さらにまだ見ぬ、骨のさまなり』となむ、
 人々申す。まことに、かばかりのは見えざりつ」
と、言高くのたまへば、
 「さては、扇のにはあらで、海月のななり」
ときこゆれば、
 「これは、隆家が言にしてむ」
とて、笑ひたまふ。
 かやうの事こそは、かたはらいたき事のうちに入れつべけれど、
「一つな落しそ」といへば、いかがはせむ。

★『枕草子』総目次へ戻る★

[ 浜口研究室の INDEX へ戻る ]

Copyright (C) 1997 Toshihiro Hamaguchi