《中國映畫コレ見ヨ(情念的・恣意的コラム)

11:レッドクリフU是レッドクリフ、不是『三國志』

〜オヨヨのレッドクリフU〜

 鳴り物入りの大宣伝で昨年10月から公開されたジョンウー監督レッドクリフ、いよいよこの4月10日からパートUが公開されるが、外地では既に公開されている。マスコミは、「アジア映画NO、1の興行成績」と喧伝してはいるが、これは「邦画以外のアジア映画NO、1の興行成績」と言う意味であり、純粋に「アジア映画NO、1の興行成績」ではない。無論「世界映画NO、1の興行成績」でもなければ、「ハリウッド映画NO、1の興行成績」でもない。ジョン監督は、「アジア映画でも、ハリウッド映画でもなく、世界映画なのです」と言っておられたが、興行成績面から言えば、「韓国・中国・台湾・香港・モンゴル・東南アジア・インド等の、日本で上映された映画の中でNO、1の興行成績」と言うことに過ぎず、残年ながら「世界映画」とは成っていない。

 パートTの所感は、既に「嗚呼赤壁、『三国志』or大アクション映畫?」で述べたので、ここではパートUの所感を述べて見たい。

 端的に言って、144分もの間だ座席に座っているのが辛くなる映画である。パートTでは、それでもアクションのテンポの良さとカメラワークで飽きさせず、大アクション映画と思って見ていれば、それなりに楽しめた、しかしパートUは、飽きる、どこか間延びしたアクション映画である。

 一見派手には見える。それは、多量の火薬とCGを駆使しての炎上シーンが多いからである。しかし、残念ながらパートTで見せたカメラワークの切れが無い。但し、岩代氏の手になる太鼓と横笛を基調とした音楽は、相変わらず耳に心地よく響く。

 パートUでは、孫尚香の趙薇がやたらに活躍するが、これではとても公主とは思えない。まるで武侠映画の少爺を助けるおきゃんなY頭である。如何に男勝りの公主殿であっても、余りにも安っぽ過ぎる。

 パートTで、本来は赤壁の場面では無い話が挿入されていた。それは、曹操が關羽を助けるシーン(本来は赤壁より遙か以前の徐州の戦いである)である。それは、パートUで敗走する曹操を關羽が見逃すシーンの為の布石であると思っていたが、パートUには、誰でも知っているあの有名な關羽見逃しのシーンは登場しない。それどころか、曹操を見逃すのは周瑜である。とすれば、パートTでの、あの關羽のシーンは、一体如何なる意味があって設定されたのであろうか。

 更に言えば、細かい事ではあるが、宋代の茶碗が使われている。重ね焼きした見込みに無釉が一周した朝顔形の茶碗が、度々登場するが、釉薬をかけて重ね焼きをした碗など、寡聞にして後漢末の遺物から、未だ一個すら見たことが無い。また、お茶を入れるシーンが、重要なシーンとして設定されているが、当時のお茶は「煮る」と表現されているが如く、煮立てて出すものと理解していたが、煎茶でも入れるような入れ方が有ったとは、これも寡聞にしてとんと聞いたことが無かった。

 ついでに言えば、パートTからずっと気になっていた事であるが、男性登場人物の頭が關羽と張飛以外は、全て秦の時代の兵馬俑頭であることである。秦の統一から後漢末の赤壁の決戦までの間だは、ほぼ450年以上の時間差が存在する。例えば、江戸時代の話の時に平安時代末期の侍の頭で登場するようなものである。専門家に因る時代考証が行われているはずなのに、何故兵馬俑頭なのか、パートUに至ってもこの違和感が拭い去れなかった。

 また如何に呉と魏の戦いとは言え、それぞれの最高戦闘指揮官が直接刃を交えて指呼の間に立つなど、一寸考えられない。曹操と周瑜が刀を交え、孫權が弓で曹操を射て、それを趙雲らが見守ると言うラストシーンは、決して『三国志』には存在しない話であり、歴史的にも、曹操と周瑜が直接顔を合わせて会話する様な事例は無い。

 ただこの曹操と周瑜が刀を交えるシーンを見ていて、瞬時に頭に過ぎったのは、1990年代末に香港で作られたジョン・ウー監督の「新・男たちの挽歌」で、トニー・レオンとチョウ・ユンフアが互いに拳銃を向け構えるシーンで、「ああ、これは拳銃が劍に変わったパターンだなあ、やっぱりジョンさんの作品だ」と思ってしまった。

 要するに、パートTでも言えた事ではあるが、『三国志』映画では無い。この点は、パートUの方がより鮮明に『三国志』映画では無い。『三国志』のネタを使った似非『三国志』映画なのである。

 因って、レッドクリフはレッドクリフでしかなく、レッドクリフは、チャイニーズオールドコスチュームアクションムービーであって、決して『三国志』映画では無いのである。

 最後に一言、曹操役の張豊毅は、やはり名優である。光っている。彼の演技の前では他の役者が霞んでしまう。暫くスクリーンから遠ざかっていて、テレビドラマで活躍していたが、久々にその勇姿を見た。93年の『覇王別姫』以来のスクリーンと思われるが、上手い、張豊毅の演技はピカイチに光っている。レッドクリフの主役は、トニーレオンでも金城武でもない、張豊毅こそが主役である。それは、当然のことである。レッドクリフのコンセプトが、愛と野望の一大決戦である以上、その愛と野望の主人公こそが曹操、つまり張豊毅なのである。

 重厚で手堅い名優を中心に、人気の中堅・若手で脇を固めた、大アクション映画、それがレッドクリフであろう。出きれば、T・Uの一挙公開が望ましかったと思う。TのテンポがUで腰砕けになった、と感じるのは小生一人であろうか。

 恣意的結論は、まだパートTの方が救われた。パートUは、アイヤー、アイヨーのオヨヨヨヨでありまする。

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