《中國映畫コレ見ヨ(情念的・恣意的コラム)

12:最新版『書劍恩仇録』

〜主役は陳家洛それとも乾隆帝〜

 2008年に中国で制作された金庸の名作最新版『書劍恩仇録』は、雄大な中国大陸のロケーションが見所の一つであるが、内容も原作から大きく改変された構成で、「こんな話が有ったけ」と思うようなドラマ展開が複雑に絡み、エンターテイメントの度合い、或いは娯楽性の高さと言う點に於いては、過去の作品よりも遙かに面白い。

 キャステングは主役の喬振宇(陳家洛)を初めとして、大概は中国や香港で活躍する若手俳優を中心に構成されているが、脇を固めているのが、武侠ドラマの常連とでも言うべき香港のベテラン梁家仁・黄一飛・元秋らである。しかし、原作の改変に因って大きなポジションを得ているのが、原作では回想中の人物として殆ど出番の無い于万亭である。本作品では、物語を展開させる実在のキーパーソンとして、于万亭が重要な役回りに置かれている。この死んだはずの于万亭こと雍正帝の弟である允トウを演じているのが、監督やプロジューサーもこなす台湾の名優劉徳凱である。

 しかし、何と言っても本作品の目玉である最大のキャストは、乾隆帝を演じている鄭少秋であろう。嘗て『楚留香』で伝説的な名声を獲得し、武侠ドラマの二枚目主役俳優として活躍し、古装劇のカツラが最も似合う所謂「ヅラ役者」である大秋官が、乾隆帝である。であれば、この大秋官が大人しい役に収まるはずも無く、当然演技的にも主役の陳家洛を演じた若手俳優喬振宇を、乾隆帝を演じたベテラン鄭少秋が喰っている。因みに、鄭少秋は1976年版ドラマ『書劍恩仇録』で陳家洛・乾隆帝・福康安の三役を演じ、92年のドラマ『戯説乾驕xで乾隆帝を、92年の映画『方世玉』で陳家洛を演じており、その鄭少秋が、最新版『書劍恩仇録』で乾隆帝を演じていれば、主役の喬振宇が霞むのも宜なるかなである。しかし、演技力はともかく、さすがに年齢差は如何ともし難く、画面がアップになった時には、鄭少秋の首筋辺りに58歳の年齢が漂っているし、昔からそのきらいは有ったものの、目の演技が些か過ぎている様に思われる。

 この最新版『書劍恩仇録』は、陳家洛と乾隆帝の二人主役のドラマと言って良い。無論『書劍恩仇録』と言う作品自体の主役は陳家洛である。しかし、ドラマとしての主役は、出番こそ少ないものの乾隆帝の鄭少秋である。昔からそうであるが、鄭少秋は目の演技がすばらしい。今回も目力の有る渋い演技を、随所に見せている。于万亭(乾隆帝の叔父)と乾隆帝の怨念渦巻く複雑な因縁をドラマの縦糸とし、そこに紅花会主陳家洛を横糸として絡ませていると言えよう。因って、表の主役が喬振宇(陳家洛)で、裏の主役が鄭少秋(乾隆帝)とでも言えるドラマであるが、要するに乾隆帝つまり鄭少秋を見せる仕上がりになっているのが、最新版『書劍恩仇録』である。

 因みに、出演女優人の中で、個人的に気に入っているのが、四姉こと駱冰を演じている斉芳である。彼女は目に特徴の有る若手女優で、1984年生まれで山西省出身であるが、学生時代の2006年にミスユニバースに選ばれ、2007年の『大秦帝国』でテレビデビューし、以後女優として活躍している。

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