《中國映畫コレ見ヨ(情念的・恣意的コラム)

14:64歳の鄭少秋・『忠烈楊家將』

〜年を取ってもさすが秋官〜

 2013年4月公開の鄭少秋主演『忠烈楊家將』を見た。ここ数年来の古装映画は、06年の『黄金甲』(周潤発主演)にしろ、07年の『投名状』(劉徳華主演)にしろ、09年の『蘇乞兒』(趙文卓主演)・『花木蘭』(趙薇主演)にしろ、11年の『鴻門宴』(黎明主演)にしろ、前評判ほどではなく、08年の甄子丹主演『錦衣衛』がまあまあ面白かったなと言えるが、この『忠烈楊家將』は可成り見応えが有る。2月に主演の鄭少秋や若手イケメン俳優を揃えて、アジア各地でプロモーションしたのも、宜なるかなと思える。

 過去に『白髪魔女伝』や『霍元甲』を撮った于仁泰監督の作品である。内容は単純で、遼との戦いに出陣した宋の名将楊業が、味方の裏切りと遼の大軍とに因り窮地に陥り、その父を救出すべく楊家七人の子供達が戦場に赴き、七人中六郎だけが生き残り、父の遺骸を背負って帰る、と言うストーリーで、所謂小説『楊家將演義』からすれば、将に話の出だしの部分である。無論『演義』のメインは、生き残った六カ(楊延昭)のその後の活躍が中心であるが、映画は、六カが生き残るまでの話である。

 この父親楊業を演じているのが、64歳の鄭少秋である。実に1994年の『酔拳V』以来19年ぶりのスクリーン登場である。かつては色香漂う中年の鄭少秋であったが、今回は実年齢相応の老け役である。しかし、さすが秋官、体形は若い時のままであり、目元にはやはり秋官独特の色気が感じられる。若い時ほど派手な立ち回りは見られないが、変わりに渋い演技を見せてくれる。年は取っても、さすがは鄭少秋と言うべきであろう。テレビでは相変わらず活躍していたが、銀幕は20年近くのブランク、もうスクリーンではお目にかかれないのかと想っていたが、今回図らずも粋な鄭少秋ではなく、落ち着いた渋い鄭少秋を見ることが出来た。

 無論、潘仁美も八王も柴郡主も登場するが、主役は楊業役の鄭少秋である。この鄭少秋の脇を固めるのが七人の子供達で、当代の若手イケメン俳優が出演しており、本来はこの七人がメインで、彼等の活躍を見せる映画である。長男の太郎を演じるのが香港の鄭伊健、二郎が中国の于波、寡黙な弓の達人三郎が台湾の周渝民、四郎が中国の李晨、五郎が香港の林峰、唯一生き残る六郎が台湾の呉尊、裏切りで壮絶な最期を遂げる七カが中国の付辛博と言う具合である。他には、適役の耶律原を中国の邵兵が、六郎の婚約者柴郡主を台湾の安以軒が、楊家を恨む(息子が七カに殺された為)潘仁美を香港の梁家仁が演じている。

 鄭少秋は死ぬまでの前半部分の登場で、立ち回りは少ないが、この七人の子供達の立ち回りが良い。後半部分は見応えの有る戦闘シーンが多く、太郎のストイックな身を挺した立ち回り、CGを使ってはいるものの、三郎の弓での対決シーン、一見弱そうに見えた六郎のラストの決闘シーン、それぞれに嗜好が凝らしてあって可成り面白い。この生き残った六郎の末裔が、水滸伝に登場する青面獣楊志であろうか、などと宋代を題材にした小説を頭に置きながら見ていると、また別の面白味が感じられる。

 渋い鄭少秋の演技を見るのか、当代の若手イケメン俳優の演技を見るのか、好き嫌いはそれぞれ有るであろうが、何れにしてもこの『忠烈楊家將』は、最近では出色の古装映画であろう。

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