《中國映畫コレ見ヨ(情念的・恣意的コラム)

16:歴史ドラマの『精忠岳飛』

〜歴史物もやっぱり武侠〜

 2013年のテレビ連続歴史物ドラマ精忠岳飛は、二年前の11年に放映された新水滸伝の続編の様なイメージを与える。当然と言えば当然の事で、時代背景が水滸伝の直ぐ後、北宋末から南宋にかけての混乱時期であるが、それよりも映像やカメラワークまでが何処か似ている感じを与えるのは、監督が新水滸伝でメガホンを執った香港の名監督鞠覚亮だからである。

 故に、立ち回りは可成り派手であるし、忠義社との絡みや女侠もどきの女性の活躍等々、何処か武侠ドラマ的でもある。キャストの配置も悪役を香港男優に演じさせる所等、微妙に新水滸伝に似ている。主役の岳飛は、北京電影学院出身のイケメンで、2006年の神雕侠侶で楊過を演じた黄暁明が務めているが、その妻役は、台湾の女優で還珠格格や新楚留香・新三国志に出ていた林心如が務め、また重要な役回りである母親役は、香港の大ベテラン女優鄭佩佩が演じ、悪役の秦檜は、香港の男優羅嘉良が務めると言う具合で、その脇を、13年の映画忠烈楊家將で適役の耶律原を演じた中国の邵兵が韓世忠を演じ、岳飛の武将牛皋を、新三国志の張飛や新水滸伝の李逵を演じた康凱が務め、南宋の高宗(趙構)を、02年の流星蝴蝶剣や05年の雪域迷城に出ている香港の若手男優丁子俊が演じている。

 若手役者を動員した群像劇で見せた新水滸伝に比べれば、精忠岳飛は、個々の役者の演技で見せるドラマである。鄭佩佩にしろ林心如にしろ羅嘉良にしろ邵兵にしろ丁子俊にしろ、演技に関しては一応定評の有るキャストである。但し、ちょっとミスキャストかなと思わせるのが康凱である。決して下手と言う訳では無いが、過去の張飛役と李逵役があまりにも嵌っていたため、せっかく牛皋を演じていても、演技も台詞回しも何処か李逵的・張飛的である。或いは、意図的にそのように演出されているのかもしれないが、筆者としては、別の形の康凱を見たかった気がする。他には、呉秀波・于栄光・劉承俊・王海祥・王鴎・安澤豪・崔林らの男優陣、張嘉倪・張馨予・劉蘭芳・劉詩詩らの女優陣が出ている。

 このドラマは、宋王朝に忠義を尽くした岳飛の一生を描いたもので、岳飛の忠義や家族愛が丁寧に描かれており、所謂岳飛伝ドラマである。しかし、当時の武将の立ち位置や文官の立ち位置等を見る上でも、なかなか面白いドラマである。所詮映像イメージの世界に過ぎないと言ってしまえば、それだけの話であるが、それでも歴史上の実際の人物が多数登場するドラマであれば、それなりに見応えのあるドラマである。因って、宋代史に興味の有る学生諸君には、ぜひ見て頂きたいドラマである。

 同じ監督(鞠覚亮)の手になるドラマを、先ず北宋末のフイクションの新水滸伝を視続け、引き続き北宋末から南宋へのノンフイクションの精忠岳飛を視続けると言うのも、一興であろう。筆者は実際二夏かけてその様に見たが、正直疲れた。しかし、敢えて歴史物などと思わず、単純に武侠ドラマの連続もので、全百数十話と思ってみれば、見られなくも無い。それは、連続した時代背景の話が同一監督に因って映像化されているからに他ならないからであろう。

 それにしても、悪役が好いとドラマが締まって面白くなるのが通例であるが、新水滸伝で高俅を演じた香港の李子雄も渋い演技を見せていたが、この精忠岳飛では、香港の羅嘉良が秦檜を演じており、アップで見せる彼の顔の演技の如何にも高級奸臣官僚らしいイヤらしさが特に好い。

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