《中國映畫コレ見ヨ(情念的・恣意的コラム)

8:胡金銓の秘蔵っ子シュー・フオン

これは『AbocaVoしんぶん』(月刊新聞、送料込み年間購讀料1000円)8號からの転載である。

〜徐楓〜

 彼女の姿を見た時には衝撃を受けた、こんな女優もいるのかと。スクリーン上でその美貌を見なくなってから、既に二十年以上が経過している。しかし、台湾を代表する美人女優の嚆矢たる女優がシュー・フオン(徐楓)である。思うに、台湾女優は、凛とした一見冷徹な女優が多い。徐楓がそうであるように、林青霞(ブリジット・リン)も王祖賢(ジョイ・ウオン)も、一脈相通じるものが有る。

 彼女は、1950年の生まれで、商業高校在学中の1966年に家の家計を助けるべく職を求め、幸いに聯邦影業公司に採用され、翌年17歳の時に、胡金銓(キン・フー)監督の3本目の監督作品である『龍門客桟』で銀幕デビューする。以後彼女は、胡金銓の秘蔵っ子女優として胡金銓の70年代監督作品に主演するのである。彼女自身の70年代に於ける出演映画は30本程に上るが、胡金銓監督の全ての作品に主演している。

 67年の『龍門客桟』で、于謙の忘れ形見の娘を演じた切れ長な眼差しの17歳の徐楓は、20歳で『侠女』の楊慧貞を、23歳で『迎春閣之風波』の李察罕郡主を、25歳で『忠列図』の伍若詩を、29歳で『空山霊雨』の白狐、『山中伝奇』で楽娘を演じている。まるで彼女を中心に他の役者が演じている、とでも言えるような構図で、何れに於いても彼女は、凛とした美しさを見せている。胡金銓と徐楓との関係は、例えれば、男優では黒澤明監督と三船敏郎、女優ではフオン・スタンバーグ監督とマレーネ・デートリッヒの関係とでも言えるであろう。

 その彼女も80年代に入り結婚引退し、再びその美貌を見せることは無くなった。但し、プロジューサーとして制作者に転じ、自ら湯臣影業を率いて活躍している。彼女がプロジュースした作品には、ヒットしてシリーズ化された『カンフー・キッド』や『覇王別姫』『花の影』等が有るが、それよりも、昔のビデオを眺めつつ、五十代の徐楓の美貌を無性に見たくなる衝動に駆られるこの頃である。

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