ギャラリー解説蛟蛟

書画

黄虎洞手習い、陽刻自用印一顆(現代、AD2025、10、28)

縦横・2.4×2.4cm

『戰國策』齊下(閔王下)の一句を、金文で刻した「倚門之

望」(倚門の望)である。子供の歸りを待ちわびる母親の

情を表した言葉である。齊下には、「母曰く、女《なんじ》朝

に出でて晩に來たらば則ち吾門に倚《よ》りて望む、暮に

出でて還らざれば則ち吾閭に倚りて望まん」と有る。思え

ば十八歳で東京に進學して、歸省して再び出る度毎に、

母は門口まで送って「次は何時帰る」と聞いた。最初は「

何月何日」と答えていたが、何時しか言葉を濁し、其の倚

門の望を斷ち切って東京に居住し、已に半世紀以上が過

ぎた。矢張り己は親不孝な輩であったと、今釜中の魚とな

った我が身を振り返り、熟々思うのである。


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