〜近世木活字本〜

閑話4

  近世木活字本とは、江戸時代後期に木活字を組み合わせて作った本つまり排木活字本のことである。中国の木活字本は何と言っても清朝の乾隆帝時代に武英殿で作られた聚珍版本が有名であり、木活字本に依拠した整版についても既に〜整版と木活字〜で述べているが、ここでは日本の木活字本についての話である。敢て「近世」をつけるのは、元来書籍印刷の一般的な流れは、鎌倉・室町写本から始まって秀吉・家康時代の木活字本(慶長活字本に代表されるこの時期の活字本を、古活字本と称している)、そして江戸時代の整版から明治以後の排印本へ、と言う具合である。しかし、この流れの中に在って江戸時代後期に木活字本が作られているが、それを「古活字本」に対して「近世木活字本」と総称するのである。木活字本は、框枠の中に木活字を一字一字並べて作る本であれば、同じ字でも使用数の多い字には異なった字様の字が使われたり、時には字が曲がっていたりする。それが活字本と整版との判別の一材料にもなっている。
 ここに提示する木活字本は、「大日本史論贊」の端本(巻七)であるが、同じ一冊の中に同字異態が多く見られ且つ框枠も四隅が離れている等、木活字本の特徴をよく現している。特に「贊曰」「足利」「之」「氏」「此」等の字を比較されたし。

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