漢學會會長 高田眞治教授 祝發刊辭

現在では不穏當と思われる言葉が散見致しますが、昭和三十三年と言う時代に發せられた歴史的文獻と御理解下さい。

 大東文化大學漢學會が發足して、ここに會誌を創刊する運びになったことは同慶に堪えない。

 言うところの漢學とは、廣義のものを指すのであって、所謂支那の學問が我國に傳わって以來今日に至るまで發達して來たものを包含する。斯學の範圍は廣く、その研究の方法も自ら異なるものが有るが、要は本學建學の精神に基き、繼往開來して、新時代の要求に應ずると共に、古き時代の善きものを傳承して、國家社會の平安、人類文化の發展に寄與するところが有らねばならぬ。敗戰後の祖國の現状は、いまだ混亂と低迷との域を脱せず、吾等には現代感覺の理解と共に現代思潮への嚴正なる批判が要求される。吾等は大中至公の大道に基いて東洋學の精髄を發揮すべく邁進して行きたい。

 四部の書の研鑽と人間修爲の工夫とは、相伴うて進展すべきである。更に思想の創造、文藝の創作に至っては、また一層の錬成を積まねばならぬ。温故知新の精神は、徒らに古きに拘泥するのではなく、新らしきものの創造に進むことである。狂瀾怒濤の浪高き現代に於ては、特に青春有爲の人材の奮起を切望する。

 本會は學術の研鑽を主とし兼ねて同窓の親睦を圖るを目的とするが、決して私黨の弊に陥ること無く、廣く同志を天下に求めて、斯學の向上と發展とを期し、祖國の復興に貢獻したいと念願するものである。片々たる小冊子を以て發足した本誌が、蔚然たる盛容を呈するに至るか否かは、偏へに同學の士の甚大なる關心と協賛とに待たねばならぬ。

 

昭和三十三年十月一日

 

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