現地研修報告 インド(1988年度) 2/2

「大東文化」1989年3月15日号より

 国内では自己の文化を意識する機会は少ない。海外では逆に、自己の文化を意識せずに過すことは難しい。インド人との接触は即ち二文化のぶつかり合いであり、相手への関心が深まるほど自己の文化を強く意識せざるをえない。この意味では、現地の人々は自己を映し出す最良の鏡であるといえよう。急ぎ足の団体旅行であったために、現地の人々との接触は限られたものであったが、それでも内なる日本文化に与えた衝撃は強力であった。この反応を、インドに対する全面的な否定あるいは日本を絶対的に肯定する方向に向かわなかったのは、学生たちの健全なる良識に負うところが大きい。

 研修を契機に、特別に意識されることのなかった日本の社会や文化そのものを捉え返そうとする問題関心が生じてきており、これも現地研修の重要な収穫のひとつである。

現地学生との交流

「現地学生との交流」

 さらに、現地で出会った在留邦人の方々からも、学生は多くのことを学んだ。アラーハーバード市が、最も思い出深き街となっている理由の一端は、彼らと有意義に交流できたことにある。

 M先生ご夫妻にはコーディネーターとして、留学期間中のプログラムのみならず、健康管理にいたるまでご配慮をいただいた。新婚のSさんは、優しいお姉さんとして皆に幕われた。近くのホテルには、世界をまたにかけ活躍する日本人技師が投宿していた。インドに根をはり、エネルギッシュに活動する日本人。国際結婚。日本で巡り合うことのないタイプの人々を前にし、学生たちは地平の拡がるおもいがしたであろう。

お世話になったあの方と

「お世話になったあの方と」

 インド隊のスケジュール上の特徴は、自由行動時間を充分に確保した点にある。学生たちは、徒歩やリキシャで街を動き回ることを好んだ。力夫との値段の交渉、バザール(市場)での掛け合いを通して、英語を話さぬ庶民と直に接する機会を得た。学生たちの語り口から、これらが如何に新鮮な体験であったかが了解できる。団体行動の枠の中にありながらも、通常のパック・ツアーでは味わえぬ醍醐味を満喫できたものとおもう。

なつかしきアンバサダー

「なつかしきアンバサダー」

 帰国して間もなく、学生たちのインド観に大きな変化の生じていることに気が付いた。通常われわれは、インドについて不衛生、貧困、後進等の否定的なイメージをもちがちで、学生たちもその例外ではなかったのであるが、帰国後はこのような否定的イメージの表白に対して、インドを弁護する側に立つようになった。これはインドで何かしら得るものがあったからで、引率者として、これ以上の喜びはない。学生たちの、自己の研修体験の捉え返しが、どのようなインド社会像や日本社会像に結晶してゆくのか、今後が楽しみである。

現地学生との交流

「現地学生との交流」

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