雑文 エスニック・ブームとインド 1/2

「大東文化」1989年5月15日付より

 先日、デリーのとある雑誌販売店に並べてあった週刊誌と月刊誌の全種類を気紛れに購入してみた。英語とヒンディー語の雑誌のみで合計百種類ほどあった。学術的、専門的なものは数種類のみで、主流は、映画、スポーツ、ゴシップ、時事、趣味の雑誌であった。以前に比べ、女性(婦人)雑誌の種類が随分と増加していた。これらの雑誌をめくっているうちに、現在インドではエスニック・ブームが進行中であることがわかった。

 エスニック・ブームなるものは、いわゆる先進国にのみ生ずる現象と理解していたので、これには新鮮な驚きがあった。ちなみに、日本のメディアが映し出すエスニックな文化とは、「未知なる、神秘的なアジア・アフリカの文化」とほぼ同義におもえる。日本でのエスニック・ブームは、未曾有の海外旅行ブームと対をなしている。

 もちろん、インドのエスニック・ブームの特徴は、日本のものと若干異なっている。一番の相違点は、日本では国内にエスニックな素材を見出せない、あるいは見出しがたいのに対して、インドは自国内に豊富な素材を抱えている点にある。

 ちなみに、インドでのエスニックな服とは、インド北西部の砂漠地帯で遊牧民に愛用されている民族服を指す。デザインの特徴は、補色を含む大胆な色調の組合せ、ガラスを縫い込んでの胸部の模様どり、独特のふちどり模様にある。またエスニック音楽とは、主要には、人口の約八%を占める部族民の民族音楽を指す。部族民は社会的・経済的に後進的とみなされている集団であるが、独自の文化を維持している。ブームのひとつ、のれん、壁かけ、べッド・カバーなどの装飾品には、部族民や遊牧民持有のデザインが使用されている。

 インドで、これらがエスニックな素材として注目されるにいたる過程は興味深い。というのは、インドでエスニック・ブームが発生、定着するためには幾つかの条件が必要であり、そこにインドでのエスニック・ブームの特徴があらわれているからである。

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