コンセプト

 近年、グローバル化する南アジア社会では、ヒンドゥー・ナショナリズムに代表される、新自由主義経済の勝者で欧米との交渉力に長けた高カースト・ヒンドゥー知識人の価値観がますます強化されている。ダリト・キリスト教徒や農村のムスリム女性といった、カースト、宗教、地域、ジェンダーなどの面から二重三重のマイノリティ性を背負わされた人々は、選択肢がますます狭まる格差社会で生きることを選ばざるを得ない。  本研究では、緻密なフィールドワークや数少ない資料の詳細な読みを通じて、マイノリティ性を背負う人々の声と活動を掘り起こす。彼らが自らの生活世界をいかにして防衛し、政治社会に働きかけ、いかにして地域や国家、国境を超えた広いアリーナへの参入を模索しているのか、彼らの日常的実践における生存戦略を明らかにする。そのため、上からの政策に基づく包摂と排除の視点を相対化し、下からの視点に基づく「ゆるやかな共棲」による空間と時間の共有を構想する。