雑文 インドの都市交通機関 1/5

1.主要交通機関の種類

 インドを訪れる旅行者がびっくりすることのひとつに都市を行き交う乗り物の多様性があげられる。砂塵をまきあげ疾走するガタガタの路線バス、黒と黄色のツートンカラーのタクシー、3輪バイクに屋根をとりつけたような構造のリクシャー、その胴体を長くし乗客数を多くしたテンポー、日本から持ち込まれた人力車(これもリクシャーと呼ぶ)のほか、多数の自家用車、スクーター、バイク、自転車などで町中(とくにラッシュアワー時の旧市街)はごった返している。このほか、運搬用車両としてトラクター(荷物のみならず労働者の運搬用にも使用されている)、牛車(牛のほか水牛も牽引力として使われる)、手押し車のほか、北西インドではラクダも荷車を牽引している。さらに、建設現場そばでは砂袋を背にかけたロバの姿もみることができる。

 近年、動力車両が都市交通機関の主流を占めているが、畜力や人力に依拠する「伝統的」な乗り物・運搬手段も細々と生き長らえている。カルカッタでは地下鉄も営業を開始しているが、他の大都市に普及するのは困難であろう。

 移動速度のまったく異なる乗り物・運搬手段が町中で入り乱れるために、道路幅の狭い旧市街では渋滞がおこりがちである。さらに、道路で寝そべる家畜(とりわけ牛)の存在が渋滞に拍車をかけるのみならず、交通事故の原因にもなっている。このため、多くの都市において、特定地域への家畜の侵入を規制し始めている。牛の侵入を禁止するための道路標識もつくられている。ただし、町中にも牛を飼育する人々が存在しているために、このような牛に対する規制は牛飼育者と行政との間で政治問題化することもある。

2.使用交通機関の階級差

 日本では使用交通機関について階級差を実感することはほとんどない。しかし、インドではたいへん大きな階級差がある。専属運転手を抱えることのできる人々、自家用車(自ら運転)をもてる人々、スクーター・バイクまでの人々、自転車のみの人々の間には通常大きな所得格差が存在する。どのような家に住むのかとともに、どのような交通手段をもつのかは、その家族のステータス・シンボルとなっている。

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